安定性が極めて高い前陣カウンタープレーで世界ランキングを駆け上がっている中国期待のサウスポー・林高遠(リン ガオイェン)。
この特別企画では、林高遠の技術を、中国ナショナルチームの合宿所で撮影した連続写真で紹介する。
第3回は、中陣からのバックハンドドライブを取り上げる。
林高遠の大きな武器は、前陣でのバックハンドドライブだ。だが、前陣だけでなく、台から少し離れたところから放つバックハンドドライブも相当な精度を誇る。
腕力に任せて一撃で決めにいくのではなく、ラリー戦を見据えてコンパクトにスイングする林高遠の中陣バックハンドドライブは、体格が近い日本の選手にとってかなり参考になるだろう。
ポイント①
姿勢を低くして腰を小さくひねり、スイングのパワーをためる
初めに、バックスイングから見ていこう(写真A-1~3)。
まず、注目してほしいのが、姿勢の高さの変化だ。林高遠は前傾をぐっと深めるように両足のひざを曲げて姿勢を低くしているが(写真A-2)、こうすると両足に重心がかかり、力強くスイングするためのパワーをためることができる。
姿勢を低くした後、左ひざ(右利きの選手は右ひざ)を前に出しながら腰を小さくひねっているところも注目してほしい(写真A-3)。低い姿勢に加え、腰を小さくひねって準備すると、ひねった腰を元に戻す勢いが利用できるので、よりスイングの力強さが増す。
効果的な中陣バックハンドドライブを打つためには、「打球の飛距離と威力をいかに出すか」がポイントであり、そのためには、力強くスイングできるような準備が重要だ。姿勢を低くしながら腰を小さくひねり、パワーを十分にためた林高遠のバックスイングを参考にしてほしい。
腕の動きでは、ひじを前に出し、ラケットの先を斜め後ろへ向けるように手首をしっかりひねっているところが参考になる(写真A-3)。
ポイント②
両足で床を押して姿勢を高くし、スイングの助走をつける
次に、林高遠がバックスイングからスイングへ切り替えるときの動作に注目してほしい(写真B-1~2)。
写真B-1とB-2とでラケットの位置がほとんど変わっていないことから、林高遠は低い姿勢でバックスイングした後、ラケットを動かし始める前に、まず姿勢を高くしていることが分かる。
姿勢を高くしている理由は、両足で床を押して「スイングの助走」をつけているからだ。
腕を動かす前に、両足で床を押して姿勢を高くすることにより、下半身の力(両足で床を押すことで生み出した力)を腕に効率よく伝えやすくなる。そうして、助走をつけてからラケットを動かし始めると、腕の振りが力強く安定するため、打球の精度が高まる。
陸上の走り幅跳びの選手が、止まった状態からいきなりジャンプするのではなく、助走をつけてからダイナミックにジャンプするのと同じように、力強くスイングするためには助走が不可欠だ。
林高遠の中陣バックハンドドライブの精度の高さは、低い姿勢で準備した後、「両足で床を押して姿勢を高くする」という助走がポイントになっていることを見逃さないようにしよう。
ポイント③
ラケットをコンパクトに振り抜き
下方向へフィニッシュ
最後は、スイングを解説しよう。
姿勢を高くするように両足で床を押してスイングに助走をつけた林高遠は(写真C-1)、準備で小さくひねった腰を戻しながらラケットを斜め上に振り抜き、バックハンドドライブしている(写真C-2~3)。
一見するとコンパクトなスイングだが、ここまで解説してきたように、林高遠は低い姿勢やスイングの助走などの準備動作をしっかり行っているため、小さめの振りでもボールに十分に力が伝わり、威力と飛距離のあるバックハンドドライブを打つことができる。
ラケットを下に動かすフォロースルー(打球後のラケットの動き)にも注目だ(写真C-4)。このように、ラケットを下に押さえつけるようにフィニッシュすると、ラケットが体から遠く離れないため、次のボールに素早く対応できるメリットがある。
前陣を得意とする林高遠だが、彼は大きなラリー戦になってもミスなく精度の高いバックハンドドライブで連打することができる。その理由は、しっかりした準備に基づくコンパクトなスイングに加えて、戻りを優先したフォロースルーが大きな理由になっている。
(解説=猪瀬健治 取材/写真=岡本啓史 取材/動画=小松賢)