インドから世界のトップシーンへと躍り出たグナナセカラン。彼と対戦したトップ選手はかく言う。「特別すごいものはない。それなのに、気づくと沼に引き込まれている」。
トップ選手たちをも誘い込んでしまうグナナセカランの「沼」とは一体どんなものなのか。この特別企画では、グナナセカランの強さについて、本人のコメントをもとに分析していきたい。
最終回は、グナナセカランのサービスにフォーカスする。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーを想定しています
多種多様なサービスでレシーバーを混乱させ、チキータを封じる
トップ選手に限らず、ほとんどの選手は「柱になるサービスを持ち、そこにバリエーションをつける」というのが一般的なサービス戦術だろう。
ところが、グナナセカランは、フォアハンドでもバックハンドでも、多彩なフォームからさまざまな種類の回転のサービスを出す。サービスを出す位置も、バック側から出したかと思えば次はフォア側から出すなど、実に自由だ。「思いつきで出しているのでは?」と疑ってしまうほど多種多様なサービスを出すグナナセカランのサービス戦術は、トップ選手の中でも異彩を放っている。
グナナセカランは、自身の独創的なサービス戦術について、次のように明かす。
「私は、フォア側やミドル(センターライン付近)など、いろいろな位置から多くの種類のサービスを出します。理由は、相手のチキータ(台上のボールをバックハンドドライブで攻撃する技術)を封じるためです。いろいろな位置から多くの種類のサービスを出すことにより、相手はどこにどんなサービスが来るのかを常に考えなくてはなりません。サービスを相手コートの全ての位置に出すこと、時にはロングサービスを出すことも大切です。
これらのサービス戦術によって、相手はチキータでレシーブすることが困難になります」
チキータ全盛の現代卓球では、「相手のチキータをどう防ぐか」がサーバーにとって最大の焦点になる。そのチキータ封じの手段として、多種多様なサービスを駆使するというグナナセカラン。
しかし、いろいろなサービスを出すということは、相手に的を絞らせないメリットがある半面、相手のレシーブに対しても的が絞りにくくなるというデメリットがあるのではないか。
こう問いかけると、グナナセカランは次のように答えてくれた。
「たくさんの種類のサービスを出すということは、メリットもあれば、もちろんデメリットもあります。
私のサービスには多くのバリエーションがありますが、それらは試合でいきなり使うのではなく、まず練習で試して相手にさまざまなレシーブをしてもらい、それらのレシーブに慣れてから使うようにしています。
私は子供の頃からいろいろなサービスを出すことが好きでしたし、反射神経と敏捷性もある方だと思うので、相手の不意を突くようなサービスからの展開は昔から得意でした。
確かに、たくさんの種類のサービスを出すことは自分にとって難しいですが、相手にとってはもっと難しいので、さまざまなバリエーションのサービスを出すよう心掛けています」
編み出したサービスを練習で試し、レシーブの傾向に慣れてから実戦で使うというグナナセカラン。行き当たりばったりで出すのではなく、検証を繰り返した多様なサービスで相手の待ちと判断を乱し、優位に立つのは、インテリジェントな(頭脳的な)プレーを自負するグナナセカランの真骨頂といえるだろう。
独創的なトマホークサービス。そのポイントとは?
グナナセカランは柱になり得るサービスをいくつも持っているが、今回の取材では、トマホークサービスを紹介してくれた。トマホークサービスとは思わず口にしたくなるネーミングだが、軽くしゃがみながら出す、いわゆるしゃがみ込みサービスのことだ。
フォームがトマホーク(物を切ったり、戦闘で投げたりできる片手用の斧)を投げる様子に似ていることから名付けられたもので、グナナセカランの豊富なバリエーションの中でも、ひときわ特徴的なサービスである。
グナナセカランは、トマホークサービスのポイントを次のように話す。
「トマホークサービスには、上回転、横回転、横下回転の3つのバリエーションがあります。
上回転をかけるときは、ラケットの打球面をかぶせ気味にしてボールの上の方をこするように打ちます。そうすると、ボールに上回転をかけることができ、打球にスピードも出ます。
トマホークサービスで横回転をかけるときは、打球面を立ててボールの横をこするように打ちます。一方、横下回転をかけるときは、打球面を少し上向きにしてボールの横下をこすります。
どの回転のトマホークサービスを出すにしても、体を使ってラケットを速く動かすことを意識して、たくさん練習することが大切です」
下に紹介している連続写真は、それぞれ上回転、横回転、横下回転をかけたトマホークサービスだ。
グナナセカランが教えてくれたそれぞれの回転をかけるときの打球面やボールをこする位置に注目するほか、バウンドを低く抑えられるよう台に近い高さで打球しているところやラケットの動きなどをよく観察して、トマホークサービスを自分の物にしてみよう。
上回転トマホークサービス
横回転トマホークサービス
横下回転トマホークサービス
↓動画はこちら
(取材/まとめ=卓球レポート編集部)