トップ選手たちの打球をハイスピードカメラで解析し、その威力を競う新企画。トップ選手たちの打球を数値に置き換えて可視化することで、卓球の新たな一面に迫ります。
第1回は、上田仁選手(T.T彩たま)と松平健太選手(ファースト)がチャレンジしてくれました。
上田の球の速さをみんなに分かってもらうチャンス/松平
スピードでは健太に負けないと思います(笑)/上田
--計測する前に2人の抱負をお聞かせください
松平 僕は(上田に)勝てる気がしないです(笑)。上田といつも練習をしていますが、まじで球が速いんですよ。これは、知っている人なら分かりますが、知らない人には上田の球がどれくらい速いのか目立っていないと思うんですよね。なので、それを皆さんに分かっていただけるのかなと思います。
上田 うわぁ、ハードル上げてきたなあ、作戦かな、これ(笑)。スピードでは健太(松平)に負けないかなと思うんですけど、スピンでいったら......。健太がどういう打ち方をするかによりますよね。全部スピンでいかれたら多分負ける(笑)
--けん制し合っていますが、計測方法について、バタフライ研究開発部スタッフの臼井信悟さんから説明していただきます
臼井 ロングボールに対してフォアハンドドライブを強く打っていただきます。そのボールをハイスピードカメラで撮影し、ボールのスピードとスピンを計測します。そして、その2つから算出する威力指数という指標で競っていただきます。
--威力指数とは聞き慣れませんが、具体的に教えてください
臼井 簡単に言いますと、物理量にエネルギーという概念があります。今回は、スピードのエネルギーと回転のエネルギー、この2つを加味したトータルのエネルギーを威力指数として算出したいと思います。
--スピードもスピンも総合的に高ければ、威力指数も高くなるということですか?
臼井 はい、そのような解釈で結構です。
--始めに、バタフライ研究開発部スタッフの築地佑太さんに実施していただき、数値化される様子をご覧いただきます
築地 私を踏み台にしていただければ......。
松平 築地さんには勝たないとなあ(笑)
【計測方法】
選手は、送球者がセンターライン付近に送球したロングボールをフォアハンドドライブで打球。その様子をバタフライの研究開発部スタッフがハイスピードカメラで撮影し、打球のスピード(速度)とスピン(回転数)を計測。スピードとスピン、それぞれのエネルギーを加味したトータルのエネルギーを「威力指数」として算出し、その数値の高さを競う
※スピードの単位は時速、スピンの単位は回転毎秒
築地選手によるデモンストレーション
築地佑太(つきじ ゆうた)。蝶友クラブ所属。岩手県出身。2022年全日本卓球選手権大会男子シングルス埼玉県代表
・ラケット:松平健太 ALC
・フォア面のラバー:テナジー64(バック面:テナジー64FX)
※上記は計測に使用した用具。普段はハッドロウ シールド(製造終了)にフォア面ディグニクス09C、バック面チャレンジャー アタックを使用
松平 (築地の打球を見て)速いっすね。
上田 速くない?
築地 いやあ、結構いい感触でした。私の打球は
速度=74km/h(時速74キロメートル)
回転数=135rps(135回転毎秒)
威力指数=84cJ(84センチジュール)
このように数値化されます(以下、単位は省略)。
仲の良さを見せて(?)2回の同点を経て3回目の計測へ
続いて上田選手と松平選手の打球を2回計測。上田選手の打球は、スピードの速さが特徴的でした。一方、松平選手は回転を重視しているためか、上田選手に比べて打球が山なりの軌道を描いている印象でした。
このようにそれぞれ違った特徴の打球ですが、威力指数を計算してみると、なんと2回続けて同点!
1回目
上田選手:スピード=80 スピン=149 威力指数=99
松平選手:スピード=79 スピン=154 威力指数=99
2回目
上田選手:スピード=84 スピン=138 威力指数=101
松平選手:スピード=82 スピン=148 威力指数=101
スピード重視の上田選手と、回転を重視する松平選手の威力指数対決は、3回目の計測にして決着がついたので、その様子を紹介しましょう。
エントリーナンバー1
上田仁(うえだ じん)。T.T彩たま所属。京都府舞鶴市出身。2021年全日本社会人卓球選手権大会男子シングルス優勝
・ラケット:特注(ZLカーボンシェーク/インナーファイバー®仕様)
・フォア面のラバー:ディグニクス09C(バック面:ディグニクス09C)
--では、上田選手、3回目の計測をお願いします
--こちらから見た感じ、今までで1番、打球の軌道に山があった感じですね
上田 山、ありましたか?負けたじゃん(笑)
築地 速度が80キロ、回転数が151、威力指数が99です。
上田仁選手 3回目の結果
上田 回転数がめっちゃ上がっている。自分の中では回転数が今までで1番。
松平 (自信ありげに)OK、OK。
上田 (数値を)合わせてくるなよ(笑)
松平 ちょっと待って、集中集中。カモン!!
エントリーナンバー2
松平健太(まつだいら けんた)。ファースト所属。石川県七尾市出身。2022年全日本卓球選手権大会男子シングルス2位
・ラケット:張継科 ALC
・フォア面のラバー:テナジー05(バック面:ディグニクス09C)
上田 おおっ!速かったね。これは行ったんじゃない?
松平 100だな、100。
築地 松平選手の3回目の解析結果が出ました。速度83キロ、回転数145回転、威力指数102です。
松平健太 3回目の結果
上田 すご!自分超えてる。
松平 その前の2回が同点だったっていうのがやばいね。
臼井 びっくりしましたね、めちゃくちゃ仲良しですね(笑)
松平 回転数が145ですか?
築地 はい。今までの最高が154ですね。そのときはやはり速度が遅いです。速度と回転数を両立させるのは結構難しいのかもしれないですね。松平選手の3回目は速かったですけど、その分ちょっと回転数が落ちている。この結果を見たら、速度の方がもしかしたら回転数よりも重要なのかもしれません。
松平 速度は上田の勝ちで、回転は俺の勝ちということで。
まさかの結果(笑)。回転数に関しては思った通りの数字が出た/松平
自分と相手の感覚は違うんだなというのを知る発見になった/上田
--2回の同点を経て、松平選手の勝利ということでおめでとうございます!感想をお願いします
松平 まさかの結果ですね(笑)。最下位候補だったのに。でも、全く自信はありませんでしたが、思った以上にスピードが出たと思いました。試合であれだけ速いボールを打つことがないので、試合には生かせないんですけど(笑)。逆に、僕は回転を意識して打っているので、回転数に関してはわりと思った通りの数字が出たのかな。スピードに関しては、試合で生きないドライブを打ったのかなと思います。
上田 オープニングでの健太の圧にやられました(笑)。ハードルを上げられて負けるという最高のオチでした。自分で「今の良かったな」と思った打球が意外と微妙な数値で、「今の微妙だったな」という打球が良くて、やはり、自分の打った感覚と相手が受ける感覚というのは数値で見るように違うんだなというのを知る発見になりました。すごく面白かったです。
松平 僕は、カット打ちだったら多分、あのボールでいけます。だから、今日測ったようなボールはカット打ちに生かすことができそうかなとは思います。カット打ちだとわりと時間があるのであれくらいのスイングができるんですけど、僕は基本だいたい時間がないので(笑)。そうなると、どうしても威力のあるボールはなかなか打てないですね。だから、カットマンにしか生かせないのかなと思います(笑)
上田 試合の中でMAXの力で打つことってほぼありません。ロビング打ちとか本当のチャンスボール以外は8割、いって9割くらいの力だと思います。だから、今日は10の力で打ちましたが、それだと安定性がないということがすごく分かりました。逆に、そこをもっと高められたらMAX値がどんどん上がっていくと思うので、そういった意味では何回かやっていくうちにお互いの数値が上がっていったというのは良かったと思います。これを基準にやっていけば、スピードや回転がレベルアップできるのではないでしょうか。
--上田選手はさすがのコメントですね。研究開発部スタッフの二人はどうでしたか
臼井 やはりトップ選手だけあって、当たり前ですが、築地さんよりスピードも回転もあるんだなというのが数値ではっきり分かるので、すごく面白かったです。
築地 私は実際に打つのもやらせていただいて、あわよくばお二人に勝ってやろうくらいに思っていましたが(笑)、はっきり言って全然歯が立たなかったので、さすがトップ選手だなと思いました。
--この企画は継続して続けていこうと思っていますが、ほかのバタフライのアドバイザリースタッフでは、誰のボールが威力ありそうですか?
松平 スピードを重視した方が数値が高くなるということがなんとなく分かったので、上田も一緒かもしれませんが、有延(有延大夢/琉球アスティーダ)とか真晴(吉村真晴/愛知ダイハツ)あたりが来るのかなあと思います。あの二人は試合中でも球速いので。
上田 僕は、有延一択で。小西さん(小西海偉/東京アート)も速いですけど、回転もふくめて有延一択です。
--宇田幸矢選手、戸上隼輔選手(ともに明治大)あたりはどうですか?
松平 そうですね。回転は関係なくはないんですが、スピードの方が重要だと思うので、(宇田、戸上のボールを)受けている感じは球が速いなという印象なので、可能性は全然あると思います。
上田 名前が挙がった真晴、戸上、宇田、有延、小西さん。この5人の誰かで、その中で僕は有延を推しているだけで、多分、挙げた5人が上位じゃないかなと思います。
松平 ほかに契約選手って誰がいますか?
上田 及川(及川瑞基/木下グループ)、吉田(吉田雅己/木下グループ)、町(町飛鳥/ファースト)、卓さん(高木和卓/東京アート)、松山(松山祐季/協和キリン)......。
松平 あー、僕、大矢さん(大矢英俊/ファースト)!
--ほかにも、笠原弘光選手、三部航平選手、酒井明日翔選手(いずれもシチズン時計)、平野友樹選手(協和キリン)、坪井勇磨選手(東京アート)らもいます。
上田 ああ、酒井速いなー。酒井ありますね。でも、期待を込めて有延で(笑)
--では松平選手、暫定チャンピオンとして最後を締めてください
松平 締めるって、あおる系ですか?簡単に抜かされますよ(笑)。あおるまでもないです。え、なんて言えばいいんだろう。
上田 これ越えないと恥ずかしいよ、くらいでいいんじゃない?
松平 そしたら上田恥ずかしい(笑)
上田 それはそれでいいよ。(威力指数で)100越えられないと恥ずかしいね。
松平 確かに。僕が今暫定1位ですが、100越えなかったらバタフライの契約選手やめた方がいい。これ言いすぎですか(笑)。という気持ちでやってください。僕と上田を抜かすことを期待して、チャレンジ待っています!
上田選手対松平選手の同級生対決は、意外と言っては失礼ですが、回転数でまさった松平選手が勝利し、初代の威力王に輝きました。
松平選手の数値はどこまで威力王の地位を維持できるのか。はたまた、松平選手を上回る猛者が現れるのか。
↓動画はこちら
(取材/まとめ=卓球レポート)