東京オリンピック男子シングルス銅メダルを筆頭に輝かしい成績を収め、今なお世界のトップで活躍するオフチャロフ(ドイツ)。オフチャロフといえば個性的なサービスの数々が印象的だが、中でも低すぎる構えから繰り出すバックハンドサービスは彼の代名詞だ。
この特別企画では、オフチャロフが自身のバックハンドサービスについて詳しく説明してくれる。
初回は、個性的なバックハンドサービスの由来とメリット、そして、組み立てのメインだというフォア前への上回転サービスを出すポイントを解説してくれた。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーをモデルにしています
幼い頃の低い目線が気に入って、背が伸びた今でも低く構えている
私は、幼い頃からバックハンドサービスを使っていました。(卓球選手だった)父もバックハンドサービスやトマホークサービス(しゃがみ込みサービス)を使っていたので、私もそのまねをしていましたね。
幼い頃は背が低いので、サービスを出す位置(高さ)は必然的に顔の近くになります。背が伸びるにつれて、サービスを出す位置が顔の近くである必然性はなくなりますが、私は幼い頃の低い目線が気に入っていたので、背が伸びた今でも低く構えています。
バックハンドサービスは右利きの選手に対して有効
バックハンドサービスは、特に、「右利きの選手に対して効果がある」と思っています。
私は台の真ん中あたりに構え、短いコースはもちろん、とても深いコースへもサービスをコントロールすることができます。現代卓球では、多くの選手がバックハンドでレシーブしようとしますが、コートの広い範囲をすべてカバーするのはとても難しいことです。ですから、相手は私のバックハンドサービスに対してフォアハンドでレシーブせざるを得ないケースが多くなります。
そして、フォアハンドは、バックハンドでのチキータやフリックに比べると強くレシーブすることが難しい。これが、バックハンドサービスが右利きの選手に対して有効な理由です。
私は上回転(ロングボール)のラリーが好きなので、いくつかのバックハンドサービスのバリエーションの中でも上回転系の短いサービスを多く使います。このサービスに対して相手は短く抑えるのが難しいので、私の得意なラリー展開に持ち込むことができます。
相手にフォア前のネットに近いところでレシーブをさせ、そのレシーブを3球目で強く攻撃するのは私の得意パターンの1つです。このパターンでは、相手はとても大きく動かなくてはならないので、うまくレシーブすることが難しくなります。そうして、相手がフォア前のサービスに対して少しでも良いレシーブをしようと意識したら、それを見計らってバック側に速いロングサービスを出すようにします。
これは、私がバックハンドサービスを組み立てる際の代表的な例です。
私はバックハンドサービスをうまく使えていると思っていますが、その一方で、相手は毎日バックハンドサービスに対するレシーブを練習しているわけではありません。そのため、バックハンドサービスは相手にある種の驚きを与えられるので、私のバックハンドサービスはよく効くのだと思います。
最近では多くの選手がバックハンドサービスを使うようになってきています。それは、先に述べたように右利きの選手に対して効果があるからでしょう。
打球する高さと第1バウンドが大切
はじめに、フォア前への上回転サービスを紹介します。
技術的なポイントを解説する前に、有効なサービスを出す上で大切なポイントをお話しします。
それは、「どのような回転のサービスを出すときも、構えやフォームをできるだけ同じにする」ことです。このポイントを心掛けることによって、相手は回転を正確に見分けることが難しくなるため、サービスの効果がより高まります。
それでは、具体的なポイントを説明していきます。
一般に、短い横上回転サービスを使う選手は多いですが、私は横回転をできるだけかけない上回転の短いサービスをよく使います。低くて短い上回転サービスを出すと、相手はチキータやフリックでレシーブすることが難しく、また、ストップで短くレシーブすることも難しいからです。そして、上回転を強くかけたサービスを低く短くコントロールできるのが、私の最大の強みだと思います。
上回転サービスを低く短くコントロールするのはとても難しいですが、まず、できるだけ低い位置(台の高さに近い位置)でインパクト(打球)することがポイントです。そうすると、ボールが高く弾むのを抑えることができます。
次に重要なのが、サービスを短くコントロールできる第1バウンドを探し当てること。サービスの長さは、第1バウンドをどこに落とすかで決まります。もし、サービスが長くなるようなら、第1バウンドをもっと自分に近い位置にしたり、ネット寄りにしたりいろいろ試して、サービスを短くコントロールできる位置を探してください。
フォア前への上回転サービス(横から)
フォア前への上回転サービス(前から)
撮影時で特に印象に残っているのはオフチャロフのスイングの鋭さ。フォロースルー(打球後のラケットの動き)でラケットを後ろへ吹き飛ばすかのような迫力はすさまじかった。この鋭いスイングが、ボールに強烈な上回転をかけつつ、相手に威圧感を与える要因にもなっているのだろう。そして、これだけラケットを振り切っているのにもかかわらず、サービスがきっちり短くコントロールされているのだから、やはり超一流の技である。
フォア前への上回転サービスは最高難度と呼んで差し支えないサービスだが、オフチャロフが教えてくれた打球位置と第1バウンドに加え、連続写真のスイングの軌跡を細かく観察しながら習得を目指してチャレンジしてみよう。
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(取材/まとめ=卓球レポート)