よりすぐりのトップ選手が一堂に会したWTTチャンピオンズ フランクフルトで並み居る強敵を連破し、優勝を果たした林昀儒(中華台北)。
インタビュー編では、優勝した時の心境やこれからの目標について語ってくれた。
技術編では、WTTチャンピオンズ フランクフルト(以下、WTTフランクフルト)と2023アジア卓球選手権平昌大会(以下、アジア選手権)の馬龍(中国)戦を比較しながら、林昀儒を優勝へと導いた技術的な要因を探った。
※本文の技術解説は左利きプレーヤーをモデルにしています
アジア選手権とWTTフランクフルトでの
馬龍戦におけるデータの違い
ここに、「31.25パーセント」と「48パーセント」という数字がある。
これは、アジア選手権とWTTフランクフルトで林昀儒が馬龍と対戦した際の、チキータから得点につながった割合を表した数値だ(レシーブ時)。
アジア選手権の準決勝で馬龍と対戦したときの林昀儒のチキータからの得点率が31.25パーセントだったのに対し(16回チキータして5回得点)、WTTフランクフルトの決勝で馬龍と対戦した際は、得点率が48パーセントに伸びた(25回チキータして12回得点)。アジア選手権は5ゲームスマッチ、WTTフランクフルトは7ゲームスマッチとゲーム数の違いはあるが、各ゲームにおける林昀儒がチキータを使う割合はほぼ変わらない。それにもかかわらず、ストレート負けを喫したアジア選手権の時より、WTTフランクフルトの方がチキータからの得点率が16.75パーセントも上昇している。
このデータは、林昀儒がWTTフランクフルトの決勝で馬龍を倒し、優勝を果たした大きな要因の1つとして、「チキータからの得点率が上がった」ことを示している。
WTTフランクフルトではチキータからの得点率が大幅に向上!
チキータを生かすための2つの重要な技術とは?
チキータからの得点率アップが林昀儒のWTTフランクフルト優勝の要因の1つであることはデータの通りだが、では、なぜチキータからの得点率が上がったのか。特別企画でも取り上げたように、チキータは林昀儒にとって生命線だが、9月に行われたアジア選手権から11月のWTTフランクフルトまでの2カ月間でチキータの精度が飛躍したとは考えにくい。
この疑問を林昀儒本人にぶつけてみると、「今まではチキータにこだわっていましたが、(WTTフランクフルトでは)ストップやツッツキなど、いろいろなレシーブを使うようにした」という答えが返ってきた。確かに、WTTフランクフルトでの馬龍戦を見てみると、序盤からストップやツッツキを使って馬龍の3球目の待ちを乱し、そのことによって、いざチキータしたときの得点率が高まっている印象だ。
前置きが長くなったが、林昀儒のWTTフランクフルトの勝因に迫る技術編では、主戦武器であるチキータをより効かせるための「ストップ」と「ツッツキ」にスポットを当てて、使うタイミングや技術的なポイントについて本人に解説してもらった。
相手の待ちやサービスのコースによって
ストップやツッツキに切り替える
これまではチキータにこだわっていましたが、最近ではチキータだけでなく、ツッツキやストップなど、ほかの方法でもレシーブできるよう練習に取り組んでいます。まだ完璧ではありませんが、WTTフランクフルトではチキータ以外のレシーブを積極的に使ったので、その成果が出たと思います。
相手のサービスがこちらのフォア前に来たと仮定して、ストップとツッツキのポイントについてお話ししたいと思います。
初めに、「どういうときにストップやツッツキを使うか」ですが、ポイントは2つです。
フォア前に来たサービスに対しては基本的にチキータする構えでレシーブに入りますが、「相手がこちらのチキータを待っていると察した場合」と「サービスがフォア側のサイドラインを切るような厳しいコースに来てチキータしにくい場合」にストップかツッツキに切り替えます。
林昀儒がストップするときのポイント
低くコントロールすることを重視する
それでは、ストップのポイントからお話しします。
ストップするときは、なるべくラケットと体を近づけるようにしてボールに近づきます。ラケットと体を近づけると、打球時のタッチ(力加減)が出しやすくなります。
そうして準備したら、早い打球点を狙って、親指と人さし指に軽く力を入れるようにしてボールをネット際に短くコントロールします。
ストップするときに1番に意識しているのは、低くコントロールすること。その次に、できるだけ短くコントロールすることです。回転をかけることはあまり考えません。
フォア前に来た下回転サービスに対するストップ
ストップでは、低くコントロールすることを第一に考えるという林昀儒。ストップの軌道が低ければ、仮に長くなってしまったとしても相手に強打されにくいため、チャンスが生まれる。ストップを試合で使う上で、ぜひ参考にしてほしい考え方だ。
そのほか、「チキータが来る」と相手にプレッシャーをかけられるよう、チキータする構えでボールに近づいているところも参考にしたいポイントだ。
林昀儒がツッツキするときのポイント
打球スピードの速さを重視する
続いて、ツッツキのポイントをお話しします。
ボールへの近づき方は先に述べたストップと似ていますが、ツッツキでは打球スピードの速さを重視しています。
スイングは、手首を大きく使ってしまうと試合の緊張した場面では打球が安定しません。手首はあまり使わず、前腕(ひじから先)を伸ばす動きを使って、できるだけ早い打球点を狙って打球することを心掛けています。
ツッツキではスピードの速さを重視しているので自分から下回転を強くかける意識はありませんが、相手のサービスの回転が弱い場合にはこちらから下回転をかけてオーバーミスを防ぐ必要があります。反対に、下回転が強いサービスが来たときは押すイメージで打球します。
フォア前に来た下回転サービスに対するツッツキ
林昀儒がツッツキを使う際は、回転をかけるよりもスピードを重視するという。この速いツッツキで相手の時間を奪い、ラリーを優位に進められたことがWTTフランクフルトでの勝因の1つだ。
チキータへの対策が進んだ近年では、ツッツキを使うタイミングやその質がますます問われるようになってきている。ストップ同様、打球直前までチキータの構えで相手にプレッシャーをかけることを意識しながら、林昀儒が教えてくれたポイントを参考にして質の高いツッツキの習得にトライしてほしい。
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(取材/まとめ=卓球レポート)