元ナショナルチーム監督として日本男子をけん引し、現在はTリーグの強豪・木下マイスター東京の監督を務める倉嶋洋介氏が、その確かな視点で現代卓球を考察する新企画。最先端のプレーはもちろん、これからトレンドになりそうなプレーを切り出し、解説から技術指導まで、さまざまな角度から一歩先へ行くためのヒントを提案していく。
今回はナックル性サービスの重要性について語っていただいた。
切れたサービスは必須。
しかし、それだけでは相手に慣れられる
先手が取れるようなサービスを身に付けるためには、「ボールに強く回転をかける」ことが必須です。下回転であれ上回転であれ、回転の種類にかかわらず回転量が多いサービス、いわゆる切れたサービスは、相手のレシーブを乱したりミスを誘ったりする可能性が高いです。ほとんどの選手がボールに強く回転をかけることを意識してサービスを磨いていることでしょう。
切れたサービスは大きな武器であり、必ずマスターしなければならないサービスです。ただし、それだけでは試合が進むにつれて相手に慣れられてしまいます。
慣れられることに加え、切れたサービスを相手にレシーブされると、自分のサービスの回転が残っていたり、相手に回転を利用されてレシーブされたりするので、3球目の対応に苦しむケースも多々あります。
これらのことを踏まえ、サービスから先手を取る上で、切れたサービスと併せて身に付けたいのが、「ナックル(無回転)性サービス」です。
ナックル性サービスのメリット
ナックル性サービスとは、回転がほとんどかかっていないサービスのことで、その大きな利点は「3球目が攻めやすい」ことです。ナックル性サービスは回転がかかっていない分、相手に回転を利用されることがほとんどないので、3球目で対応しやすいレシーブが返ってくる可能性が高いでしょう。
切れたサービスと似たようなフォームで出すことで「相手のレシーブを乱す」ことも、ナックル性サービスのメリットです。
仮に相手にナックル性サービスを見破られたとしても「レシーブのコントロールが難しい」こともメリットとして見逃せません。野球のピッチャーが投げる球種にもナックルボールがありますが、このボールは可能な限り回転を抑えて投げるため、不規則に揺れながら変化するのでバッターはとても捉えにくいという話を聞きます。
ナックル性サービスは野球のナックルボールのように軌道が変化するわけではありませんが、力加減やラケット角度が少しでも狂うとレシーブが甘くなってしまい、ボールを正確に捉えにくいという点で似ています。
ナックル性サービスに対するレシーブは繊細なタッチが求められるため、ボールがわずか1個分でも甘くなれば仕留められるトップ選手たちの試合では、ナックル性サービスからの展開が勝敗の鍵を握ることも少なくありません。
世界で勝つ選手はナックル性サービスを究め、
巧みに使いこなしている
トップ選手たちは総じてナックル性サービスがうまいですが、私がこれまで見てきた中で、特に優れているなと感じた選手は、水谷隼(木下グループ)と丹羽孝希です。
彼らが出すナックル性サービスは軌道が低い上に、回転量の多いサービスとフォームが似通っているので、相手からすると回転の変化の判別がなかなかつきません。精度の高さに加えて、試合の序盤や競った終盤など緊張する場面では切れたサービスを控え、ナックル性サービスで自分がプレーしやすい展開に持っていくなど、その使いどころも秀逸でした。
一例を挙げましたが、今、世界で勝つ選手は、樊振東(中国)にせよ、張本智和(日本)にせよ、「ナックル性サービスを究め、それをうまく使いこなす」という共通項があります。
切れたサービスは必須ですが、それだけでは相手に慣れられ、3球目の対応に苦しむケースも多いでしょう。切れたサービスに加え、ナックル性サービスを織り交ぜるとサービスからの展開の幅が格段に広がります。
ぜひ、ナックル性サービスの重要性に気づき、ナックル性サービスの精度を高めることを目指してください。
次回は、精度の高いナックル性サービスを出すための技術的なポイントについてお話しします。
↓動画はこちら
(取材/まとめ=卓球レポート)