~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は、前回に引き続き、世界卓球2018ハルムスタッドにおける日本女子の評価と課題についてのコメントを掲載しよう。
●チームを見事にまとめた石川。中国に慣れられないことが課題
世界卓球2018ハルムスタッドでの日本女子は、決勝まで1点も落とさずに勝ち上がり、決勝でも中国を慌てさせる見事な戦いぶりを見せてくれました。
今回の日本女子の躍進は、選手たちのプレーの素晴らしさももちろんですが、ベンチの一体感も大きな理由でしょう。あらためて述べるまでもなく、団体戦で勝つためには選手個々の力に加えて、チームの総力、つまりチームワークも勝敗に大きな影響を及ぼします。
今大会の日本女子は、出場選手をベンチがしっかりサポートする見事なチームワークを見せてくれましたが、その要になっていたのが、キャプテンを務める石川佳純(全農)の存在です。石川がリーダーとして凜とした立ち居振る舞いをコート内外で示し、伊藤美誠(スターツSC)や平野美宇(日本生命)ら若い世代をしっかりまとめていることが、見事なチームワークの大きな要因でしょう。
実力者ぞろいの日本女子の個々の争いは、練習中や国内外の試合を問わず大変激しいものがありますが、その熾烈さがチームワークにほとんど影響していませんでした。シングルスではお互いがライバル意識を燃やしますが、いざ団体戦となったら一つにまとまることができたのは、ひとえにキャプテンである石川の功績が大きいでしょう。
自分も強さを磨きながら若い世代をまとめることは並大抵ではないと推察しますが、石川には引き続き日本女子を引っ張っていってほしいですし、彼女がキャプテンでいる間の日本女子は強いでしょう。
日本女子の現在の最大の目標は、言うまでもなく2020年東京オリンピックで最高の成績を収めることです。そのための最大の障壁は中国であり、中国を倒すための今後の課題というより懸念は、「中国に慣れられない」ことです。
具体例を挙げましょう。平野は昨年のアジア選手権大会で中国選手を連破して優勝しましたが、そのときに有効だったのが巻き込み式の逆横回転サービスでした。しかし、その後、中国選手が平野のようなサービスをまねし始めました。まねられたということは、慣れられたということであり、そうなると効果は薄まります。このことを証明するように、世界卓球2018ハルムスタッド決勝では、丁寧(中国)は平野の巻き込み式の逆横回転サービスに対して、ミスしたり、決定機をつくられたりするシーンがアジア選手権大会の時と比べて大幅に減っていました。
挙げた例のように、東京オリンピックで勝つためには、効果的な技や新たに開発する技を「中国にいかに慣れられないか」が鍵になってきます。技を見せずに取っておき、東京オリンピックという大舞台で初めてぶつけることによって、より大きな成果を見込むことができるでしょう。つまり、東京オリンピックまで、あえて効果的な技を封印して中国選手たちとプレーする必要があるということです。
とはいえ、当然ながら得意技を隠してプレーするのは簡単ではありません。国内の熾烈な代表争いを勝ち抜くためには、格上の中国選手を一人でも多く倒して世界ランキングを上げる必要があり、そのためには、技の出し惜しみなどしている場合ではないでしょう。また、中国選手に効くかどうかは、ワールドツアーなどで試してみないと分かりませんが、試すと今度は慣れられてしまう恐れもあります。
中国選手に勝てばオリンピック代表が近づくが、そのために全力を尽くすと中国選手に慣れられてしまうという何とも悩ましいジレンマですが、日本女子は個々がそうした駆け引きを真剣に考えなければならないレベルに達していると思います。