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橋津文彦&戸上隼輔 師弟インタビュー 橋津が見出したチャンピオンの資質

 昨年(2017年)のインターハイ男子シングルスで1年生ながら優勝候補の選手たちを連破し、男子シングルス決勝の舞台に立った戸上隼輔(野田学園高)。決勝では敗れたものの、この大会で戸上のベンチに入っていた野田学園卓球部の橋津文彦監督は、戸上に他の選手とは異なる資質を見いだしたという。
 それから1年、戸上はどのような思いを胸に成長を遂げたのか。師弟が2018年インターハイ頂点への轍を振り返る。



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橋津文彦が見いだした「チャンピオン」の資質

 その切れ味の鋭いプレーとは裏腹に、戸上隼輔は優しく穏やかな語り口で、決勝で敗れた昨年のインターハイを振り返った。
「去年は1年生で向かっていく立場だったので、チャレンジャー精神があったからこそ、決勝まで行けたと思うんですけど、優勝に対する気持ちはまだ弱かったんだと思います。勝ち上がっていくごとに強い選手と対戦して、1つずつ勝っていって、決勝に行けたことで満足してしまった部分がありました。『絶対に優勝してやるんだ』という強い気持ちではなく、『優勝できたらいいな』というくらいの曖昧な気持ちで試合をしていたかもしれません。それが決勝で出てしまいました。また、決勝の時は会場が今までに感じたことのない雰囲気だったので、少しのけぞってしまったかなというのはあります。
 今年は、インターハイ3冠という目標を掲げて練習に取り組んできました。結局、タイトルはシングルスだけになって
しまいましたが、去年の悔しい気持ちがあったからこそ、優勝できたんじゃないかと思います」

 そんな戸上をベンチから支えていた橋津文彦は、1年前をこう振り返る。
「20年間もこの世代の選手だけを見続けてきましたが、去年のインターハイのシングルスのベンチに入っていて、隼輔は他の選手とはちょっと違うぞ、いけるぞというのを感じたんです。全日本ジュニアや全中、全日本カデットでも隼輔のベンチに入って、隼輔がトップレベルでやっていける選手だという手応えを感じたことはありました。しかし、去年のインターハイでは学校対抗や個人戦を勝ち上がっていく中で、僕の中ではっきりと『チャンピオンを目指せるぞ』と感じたんです。得点能力の高さ、粘り強さ、勝利に対する欲、そういったものを感じたのが去年のインターハイでした。
 ただ、決勝だけは何がきっかけだったのか分かりませんが、それまでずっとアクセルを踏んでいたのに、急にブレーキがかかってしまったという不満はちょっとありました」


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チャンピオンになるために積み重ねた練習

 1年生ながら並み居る強豪たちを連破して決勝進出。自分がその結果に甘んじていることを自覚しつつも、高校生日本一をつかむチャンスを逃したという事実は、戸上の中で日に日に大きくなっていった。もっと強くなりたい。その思いを戸上は練習にぶつけた。
「この1年間、台上や前陣でのプレーを集中的に練習してきました。去年は台上や前陣でのプレーが得点に結びつかず、ラリー戦になるとすぐに下がってしまうという欠点がありました。試合で自分のやりたいことが曖昧だったからだと思います」
 戸上の言葉に橋津はこう付け足した。
「今年のインターハイ前はコントロールを重視したサービス練習をやらせました。レシーブの不安は僕はあまり感じていませんでした。
 また、ボールがプラスチック製になってからは、みんなが前陣でプレーするようになったので、2枚ブロック(練習者は全面を両ハンドでドライブ、相手はフォア側に1人、バック側に1人がブロックで全面に返球)をやりました。隼輔は強打型の選手なので、回り込む回数も多いし、スイングも大きい。それでも前陣でプレーできないといけないので、隼輔だけ2枚ブロックつけたり、2枚に打ってもらったりという練習を多くやりました」


学校対抗、ダブルスの不調

 こうして十分な準備をして臨んだ2年目のインターハイは、決して順調なスタートとは言えなかった。大会序盤は野田学園にとっても、戸上自身にとっても苦しい状況が続いた。戸上はこう振り返る。
「優勝を狙っていた学校対抗でベスト8という悔しい結果に終わって、1種目金メダルがなくなったことで、まず、ダブルスへの切り替えを考えましたが、ダブルスもベスト16という結果で、ランクにも入れずに終わってしまいました。このまま行けば、シングルスもそれまでの結果を引きずって初戦で負けてしまうんじゃないかという不安と緊張でいっぱいになってしまって......。
 それで、まずルーチンを変えて、普段はしない散歩をしてみたり、朝食をご飯からパンに変えたり、いろいろなことを変えて、気持ちを切り替えることができました。このやり方は遠征の時に一緒になった先輩の木造勇人さん(愛知工業大)に『普段やらないことをやると次の日に引きずらない』と教えてもらったことがあったので、試してみたら効果があって、なんとか気持ちを切り替えることができました」
 くしくも、昨年のインターハイで決勝を争い、そして、戸上を破った木造のアドバイスで窮地から立ち直ることができたというのだから、高校は違えど、戸上は高校チャンピオンの正統な継承者と言えるのかもしれない。



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 気持ちを切り替えることができても、第1シードの戸上に向かってくる相手に勝つことは決して簡単ではない。戸上は初戦となった2回戦からその苦しさを味わうことになる。
「初戦は序盤から競り合いになって、競るとは思っていたんですが、自分の思い通りのプレーができなくて。ここで勝てて3回戦、4回戦に行けても、のまれてしまうんじゃないかという不安がありました。
 でも、ベンチに戻った時に橋津先生からアドバイスを受けて、戦術を切り替えることができました。勝負どころでどうしても弱気になってクロスばかりに打っているのを指摘されて、ストレートを意識するようにしたら、競った場面でそれが効いて、最後、勝ちにつなげることができました。
 そこからは川村大貴選手(遊学館高)や曽根翔選手(愛工大名電高)などの山を乗り越えることができて、右肩上がりに調子を上げていけたと思います。
 しかし、最終日はそうした安心感からか気の緩みがあって、岩永宜久選手(帝京安積高)との試合では決めきれずに、すごい競り合いになってしまいました。
 準決勝で対戦した手塚崚馬選手(明徳義塾高)は中学1年生の頃からいい成績で勝ち上がってきていて、今まで本戦でやったことがなかったので、一度大きな舞台で対戦してみたいと思っていました。実際にやってみると、対戦したことのある選手がみんな言う通り、やりづらさもありましたが、対策練習をしていたおかげで焦らずにプレーすることができました。メンタル的にも相手が格上という気持ちで、力まずに挑むことができたのかと思います」




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「インターハイが終わってしまった」
優勝した今は悲しみの方が強い


 決勝の相手は昨年の男子シングルス準決勝で3対1で勝利した田中佑汰(愛工大名電高)だ。苦手な相手ではないが、決勝となれば話は別だ。戸上はどのような心構えでこの決勝に臨んだのだろうか。
「田中選手とは中学に入るまでにも何回か対戦したことがありましたが、1回も勝ったことがありませんでした。中学校に入ってから少しずつ勝てるようになってきて、高校に入って勝ち越せるようになってきました。
 今回は、正直に言って自信はありましたが、何をしてくるか分からないと思っていたので、イメージトレーニングをしたり、動画を見たりして、対策を立ててきたので、決勝ではそれを生かすことができたと思います。
 これまで全国大会で決勝までは行ったことがありましたが、今回初めて全国タイトルを取ってみて、あまり実感がないですね。優勝したいという気持ちはすごく強かったんですが、いざ優勝してみると、その大会が終わったという悲しみの方が強かったですね。自分の中の祭りが終わってしまったような」


メンタル面の不安を払拭し
戦術アドバイスに徹することができた男子シングルス


「今年は優勝させてやりたかった」という橋津も、団体戦、ダブルスでの敗戦を戸上が引きずってしまうのではないかという不安はぬぐい切れなかった。
「僕自身も学校対抗でこれだけ出来がよくないという経験がなかったので、すぐに切り替えられるか、スイッチが入るかと心配でした。戸上はもともとスロースターターなので、そのままの流れで、のまれてしまったらまずいなと。
 でも、始まってみないと何と言葉をかけても、そううまくいくものではないので、流れを見ながら、戦術的な部分と精神的な部分と、どこを優先してアドバイスするのが大切なのかを考えながらベンチに座っていました。
 実際には、試合に入ったら戦術、特にサービス・レシーブやコース取りに関する指示くらいで、精神的なアドバイスは何もしませんでしたね」
 メンタル面でのサポートは、もはや戸上が必要としていなかったということだろう。
「3回戦の川村戦は、前に対戦したときも競っているし、先手を取っても前陣でコースを突かれてブロックで振り回されたり、不利な展開になる回数が多かったのですが、それでも打ち切れと伝えました。
 もう1つは、思い切り下回転をかけたサービスでプレッシャーを与えるようにというアドバイスですね。先に強く打ちたいと思った選手は横回転系やアップ系、ナックルのサービスを出したくなるんですが、思い切り切った下回転を出して相手にプレッシャーをかけておくと、その1球の展開は思い通りにならなくても、11本勝負の中でトータルで見たときには、サービスから仕掛けている(布石を打っておく)ことの方が重要になるということを伝えました」


薄氷の勝利を乗り越えて決勝へ

「曽根選手との試合は、隼輔本人がすごい意識していると感じていました。僕よりも選手の方がサービスやレシーブを含めて、相手のことをよく知っていると思ったので、とりあえずは静観して、勝負の流れを見てからアドバイスしようという感じで見ていましたが、流れもよく、リードされる展開も少なかったので、プレッシャーをそれほど感じずに勝つことができた試合です。
 準々決勝の岩永選手戦はストレスがたまりましたね(笑)。隼輔の場合はこういう競り合いがよくあるので、本人が取るまでタイムアウトを取らないでおこうと思っていたら、大変なことになってしまって。結局5ゲーム目(最終ゲーム)の1-3で取りました。そこから流れを取り戻して勝つことができましたが、試合の後、本人には反省しろと伝えました」
 続く準決勝、橋津自らがコピー選手役を買って出たという手塚戦は、対策練習が効を奏してかストレート勝ちを収めることができた。そして、決勝の田中戦は競り合いになることを覚悟していたと言うが、実際の試合展開は少し違った。
「一番最後に隼輔と田中君が対戦した東京選手権大会の決勝では2対3からの逆転勝ちだったので、今回も競るとは思っていましたが、最後は勝ってくれるという自信はありました。しかし、いつもは田中君は相手に打たせてからフォア側に飛ばすとか、ツッツキをバック側に詰めてくるとか、そうやって崩してくるんですが、今回はストップから入って先に攻撃してくるという展開が多かったようです。
 それで、いつものように隼輔が台から下げられることが少なかった。サービスも効いていたし、台上プレーでも優勢だったので、いつもよりもやりにくさを感じなかったくらいでした」


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目指すは全日本ジュニア王者、そして......

「今回のインターハイは本当に緊張しました。でも、勝ち上がっていくたびに緊張もほぐれて、自分の意志で攻めるプレーができたり、台上での駆け引きも勝ち上がるにつれてできてきて、強い選手にも対応できるという自信が出てきました。
 最近は中国選手をお手本にしています。彼らは競った場面でも自分のプレーを貫くところが見ていて尊敬できる部分なので、自分もそれを見習おうと思っていますが、今回のインターハイではそれができたかなと思います」
 来年、戸上は3年生として高校最後のインターハイに臨む。シングルスのタイトルは取ることができた戸上だが、目指すのはさらに上だ。
「インターハイは高校の中では1番大きな大会で、今後も成長していくためには、そこで優勝することは必要なことだと思っていたので、勝てたことはうれしいです。来年は、今年達成できなかった3冠を達成できるように頑張ります。
 その前に、目標としては今度の全日本卓球選手権大会ジュニアの部で1位を取ることです。一般の部ではランクに入ることを目標にしています」
 こう語る戸上に、橋津はさらに大きな期待を寄せる。
「僕は選手の中学・高校6年間を見ていますが、それぞれの目標は僕が決めることではないので、選手ごとに違っていいと思っています。選手たちが目標や夢を実現できるようにサポートするのが僕の役目ですから、本人がチャンピオンになりたいと思ったら、そのためにやるべきこと、その道を僕が作ってあげないといけないと思っています。
 ただ、ジュニアで優勝できたら、一般でも優勝できます。だから、隼輔には一般の目標も優勝って言ってほしいですね(笑)。教え子としては真晴(吉村真晴。名古屋ダイハツ)があれだけ頑張ってくれているので、それを超える選手になってほしいです」
 吉村真晴が劇的な逆転勝利で水谷隼からタイトルを奪った全日本は、吉村が高校3年生の時のことだった。その吉村真晴がチャンピオンになる逸材だと橋津が感じたのは、高校2年生の後半だったという。
"はっきりと『チャンピオンを目指せるぞ』と感じた"
 1年生の夏に橋津にそう感じさせることができた、戸上の真の覚醒の時はいつか。


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戸上隼輔:https://www.butterfly.co.jp/players/detail/togami-shunsuke.html

(写真・文=佐藤孝弘 文中敬称略)
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