~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回も前回に引き続き、平成30年度全日本卓球選手権大会(以下、全日本)の男子シングルスについて宮﨑強化本部長の評価や感想を紹介する。
●男子ダブルスで張本智和に触発された木造勇人が、その勢いでベスト4へ
今回の全日本男子シングルスは、水谷隼(木下グループ)が10度目の優勝を遂げました。注目の張本智和(JOCエリートアカデミー)は2連覇はならず、張本を破った大島祐哉(木下グループ)が決勝に進みました。今大会における彼らの評価については前回、前々回で触れましたが、今大会の男子シングルスでは、さらに特筆しておきたいことがあります。それは、木造勇人(愛知工業大)が3位に入ったことです。
今大会の木造は、両ハンドでの攻めの速さや相手のドライブをカウンターで合わせるうまさなど、彼本来の強みを発揮してベスト4に入りました。
木造は「水谷2世」ともいうべき才能を持っていると思っています。強化本部としても木造のこれからに期待していますし、今大会の彼の活躍に満足しています。
昨年の木造はやや低迷していましたが、今大会のプレーは、復調をアピールしてくれるものでした。昨年の不調など感じさせない木造のプレーを見て、私は、本人がいかに努力を重ねてきたかを感じました。
その上で、木造の躍進の陰には、そのほかに特別な要因があったとも感じました。その要因とは、男子ダブルスでペアを組んだ張本智和の存在です。
木造と張本のペアは男子ダブルスで優勝しました。このペアの試合を見て、二人の技術や戦術の先進性もさることながら、何より驚かされたのは「張本のコミュニケーション能力の高さ」です。
勝負どころで一球ごとに木造に歩み寄って声をかけ、励ます張本の気迫や勝利への執念はすさまじいものがありました。「木造さんが動けなくなったら俺が肩に担いででも代わりに打ってやる!」とでもいわんばかりの張本に引っ張られて男子ダブルスを勝ち進んだことが、木造のシングルスでの躍進に少なからぬ影響を与えていたと思います。
木造にとって、張本とペアを組んで彼の気持ちの強さに触れたことは、今後、さらに上を目指すための大きな刺激になったことでしょう。
一方、ダブルスの張本については、「また一つ張本のすごい能力を見た」というのが率直な感想です。
中学生が大学生に対してあれほど強烈なリーダーシップを見せた試合は例がありません。張本の「試合をするからには全力で勝ちにいく」という心の底から湧き出る迫力の前では、年齢差など些細なことのように感じられました。
これまで、張本については、オリンピックの団体戦などのビッグトーナメントでダブルスに起用するのは難しいのではないかと私は考えていました。フットワークやフォアハンドに改善すべき課題があったからです。しかし、今大会のダブルスにおける張本は動きが速くなり、フォアハンドの決定力も増していました。そして何より、張本が発揮した類のないパートナーとのコミュニケーション能力を目の当たりにし、私は考えを改めました。
「張本はシングルスだけでなく、ダブルスでも十分通用する」という確信を得たことは強化本部にとって大きな収穫でしたし、張本にとっても自分の幅の広さを周囲にアピールできた大会になったと思います。
●さらに上を目指すためには、フラット系技術の習得が鍵
世界レベルのプレーが繰り広げられた男子シングルスでしたが、さらに上を目指すために選手たちに取り入れてほしいのが、「フラット系技術」です。
今の卓球の主戦技術はドライブですが、スマッシュなどのボールをはじくように打つフラット系技術は、ドライブに比べてバックスイングから打ち終わりまでの動作に時間がかかりません。そのため、プレーエリアがどんどん台に近づいてきている今の速い卓球にフィットする技術だといえます。
今大会では、水谷隼がバックハンドでフラット気味のカウンターブロックを要所で使って効果を上げていましたし、張本も「ハリパンチ」と通称されるフォアハンドでのカウンタースマッシュを得意にするなど、フラット系技術はトップ選手たちの間で使われ始めています。
今の卓球はドライブが攻撃の柱ですが、それ以前はスマッシュが攻撃の主流でした。かつて、「卓球ニッポン」と呼ばれた1950年代の日本の黄金期を支えた技術もスマッシュです。
やがて、用具や打法の進歩でドライブが攻撃手段の主流になっていくのとは対照的に、攻撃力が高い半面でミスの危険性も高いスマッシュは、よほどのチャンスボールでない限り使われなくなりました。
しかし、今はボールがプラスチック製に変わって打球の回転量が減ったことで、低いボールに対してフラット系技術を使ってもミスが出にくくなりました。
フラット系技術は時間を短縮できることに加え、打球の回転量や軌道がドライブと大きく異なるので、「ドライブと併用することで相手を混乱させられる」こともメリットです。
今後は、ドライブを磨くことに加えて、フラット系技術をうまく取り入れていくことが、さらに上を目指すためのヒントになるでしょう。
フラット系技術がポイントとはいえ、ドライブを長年磨いてきた選手がこれからフラット系技術を自分のプレーに組み込むことは容易ではありません。
この点で、フラット系技術は小学生や中学生など、若い世代の選手たちに特に意識してほしいと思います。若い世代の選手たちはプレースタイルがまだ固まっていないことに加え、大きく動くことが難しいので台についてプレーすることが多いため、自然とフラット系技術を使いやすいからです。
若い世代の選手たちには、ぜひドライブに加えてフラット系技術を磨くことにも挑戦し、日本独自の新たなプレースタイルを築いていってほしいと思います。
(取材=猪瀬健治)