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強化のフロントライン25 全日本卓球2019の評価⑥
伊藤美誠の強さについて

~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回は、平成30年度全日本卓球選手権大会(以下、全日本)の女子シングルスを制した伊藤美誠(スターツ)の強さについて宮﨑強化本部長が分析する。

誰もが苦労するレシーブを
チャンスにできる伊藤美誠の強さ

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伊藤美誠の多彩なレシーブは、まさに「技のデパート」だ


 今回の全日本女子シングルスは、前回も述べましたが、チキータやスマッシュを積極的に取り入れる選手が増えており、全体的なプレー内容は世界最高峰と言っても過言ではありませんでした。
 ハイレベルな試合がそこかしこで繰り広げられた今回の女子シングルスでしたが、終わってみれば伊藤美誠(スターツ)の強さが際立ちました。

 プレーの速さや思い切りのよさなど、伊藤の長所はたくさんありますが、私が思う彼女の最大の強みは「技の多彩さ」です。
 伊藤はサービスやバックハンド系技術の豊富さに定評がありましたが、今大会ではレシーブの多彩さが際立っていました。強烈な両ハンドでのフリックレシーブや正確なストップ、バック面の表ソフトラバーでの回転の分かりにくいチキータや逆チキータなど、伊藤が繰り出した多彩なレシーブは、まるで万華鏡のようでした。

 レシーブは、相手が思い通りに出してくるサービスに瞬間の判断で応じなければならないため、卓球において最も難しい場面だといえます。初心者から世界のトップ選手に至るまで、レベルを問わずに試合で最も苦労するのはレシーブでしょう。
 私はこれまで、国際大会などで選手のベンチに数多く入ってきましたが、敗因の多くは「相手のサービスをうまくレシーブできない」ことでした。私の現役時代を振り返っても、敗因のほとんどはレシーブだったと記憶しています。
 ところが、多くの選手が苦心するレシーブの場面を、伊藤は自由で多彩な技でことごとくチャンスに変えていました。

 象徴的だったのは、早田ひな(日本生命)との準決勝でのラブオールのレシーブです。
 伊藤は、フォア前に出されたサービスを強烈なバックハンドフリックでレシーブし、得点しました。試合の流れを一気に引き寄せる鮮やかな先制パンチでしたが、あのフリックレシーブには、ラブオールからレシーブ強打できる伊藤の気持ちの強さと、ネットすれすれに低く来たサービスをフリックできる彼女の感覚の素晴らしさ、テクニックの正確さが表れていたと思います。

伊藤美誠の中国選手への勝率は
驚異の70パーセント

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世界卓球2018ハルムスタッド(団体戦)決勝トップで劉詩雯を破った伊藤美誠。世界卓球2019ブダペストでも金メダルの可能性は十分ある

 強化本部には日本代表選手の試合のさまざまなデータがそろっていますが、その中には伊藤に関するデータももちろんあります。伊藤のデータでとりわけ目を引くのが、彼女の「中国選手に対する勝率」です。
 昨年(2018年)の伊藤は、中国選手に対して70パーセントの確率で勝利しています。昨年、平野美宇(日本生命)と早田ひなが中国選手に対して一度も勝利できてないことを踏まえると、伊藤の勝率70パーセントという数字がどれだけ突出しているかが分かるでしょう。

 伊藤が中国選手と互角以上に戦える大きな理由は、「対策されにくい」からです。
 今回取り上げたレシーブに象徴されるように、伊藤のオリジナリティあふれる変幻自在のプレーは、最強中国といえどそう簡単にまねのできるものではありません。まねができないからこそ、中国選手たちは伊藤のプレーに対応することが難しく、それが伊藤の中国選手に対する勝率の高さにつながっているのです。

 もう間もなく世界卓球2019ブダペスト(個人戦)が開幕します。過去最高レベルの陣容で臨む日本女子は、どの種目も中国を倒して金メダルを勝ち取ることが目標です。出場する選手には等しく期待していますし、どの選手もその期待に応えるだけの力が備わっていますが、プレーで日本女子を引っ張るのは、全日本女王の伊藤です。
 中国に対して高い勝率を誇る伊藤ならば、女子シングルスを制する可能性が大いにありますし、ぜひ成し遂げてほしいと期待しています。

(取材=猪瀬健治)

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