注目している若手選手として水谷隼が挙げたのは、張本智和だ。
そういえば、今から2年半ほど前の2016年11月、卓球レポートの企画で水谷と張本が対談を行ったことがあった。この時、張本は13歳、世界ジュニア選手権大会で優勝する前だった。
この対談で、水谷は張本をこう評していた。
「僕が13歳だった頃と比べたら、全然強いですよ。たぶん、僕の3年くらい先を走っているんじゃないですか。
全体的なバランスがいいのと、ボールの捉え方と時間の捉え方に独特のセンスがあると思います。相手からすれば、どのコースにボールを散らしても、必ずそこにいるという感じじゃないかな。僕の記憶だと、健太(松平健太)やオフチャロフ(ドイツ)が若い頃にやっていたプレーに近い」
そして1カ月もしないうちに、張本は世界ジュニア選手権大会で優勝。13歳163日の史上最年少優勝だった。ちなみに、それまでの最年少記録は松平健太の15歳259日、その次が樊振東(中国)の15歳329日だった。
さらに数カ月後、張本は世界卓球2017デュッセルドルフの男子シングルス2回戦で水谷に勝利。世界卓球史上最年少でベスト8に入った。そして、翌2018年1月の平成29年度全日本卓球選手権大会の男子シングルス決勝で、またしても水谷を破り、史上最年少の14歳6カ月で全日本チャンピオンとなった。このほかにも張本は数々の最年少記録を打ち立てている。
その張本だが、先日の世界卓球2019ブダペストでの成績は思わしくなかった。右手の薬指に腱鞘炎を発症しており、混合ダブルスのエントリーを取りやめて男子シングルス・男子ダブルスの2種目に絞って臨んだが、男子シングルスは4回戦敗退(ベスト16)、男子ダブルスは3回戦敗退と、期待された上位進出はならなかった。
しかし、競技生活の中にはそんな時もあると、水谷は対談の中で触れていた。
「悔しさとどう向き合っていくかで、成長の仕方が変わってくる。一気に成長するのが理想だけど、トップレベルでプレーを続けていく限り、けがも含めて何らかの挫折と向き合う時が来ると思う。その時に高い目標を持っていれば、乗り越えられると思うし、張本には乗り越えてほしい」
注目している若手選手へ、エールを送っていた。
取材=猪瀬健治 文=川合綾子
※文中敬称略 ※写真は2018年11月