卓球選手はフィジカルトレーニングでどこを鍛えるべきか。そんな問いに対して、水谷隼選手(木下グループ)は「全身ですね」と答えた。水谷選手がトップアスリートになり得た背景には、バランスのよいフィジカルトレーニングに継続的な取り組んできたことがあるだろう。継続して努力し続けるのは並大抵ではないはずだ。
そうした、本人が意図して鍛えたフィジカルに加えて、水谷選手の身体能力には特徴があるようだ。水谷選手が中学生だった頃、ナショナルチームのマッサーをしていた米澤和洋さん(ATHER Sports Performance/日本体育協会認定アスレチックトレーナー)が、こんなことを教えてくれた。
「体力には、筋力、瞬発力、敏捷性、巧緻性、平衡性、柔軟性、筋持久力、全身持久力といった要素があります。これらを測定した結果を多角形のグラフで表した場合、正多角形になる人はまずいません。多くの人は、程度の差こそあれ、いびつな多角形になります。これはトップアスリートであっても同じです。トップアスリートは一般の人に比べると、大きな多角形になる傾向がありますが、いびつな多角形になることは免れません。
ところが、驚くべきことに、ナショナルチームで水谷隼選手の体力測定を行った結果をグラフにすると、ほぼ正多角形に近い形になりました。偏りがない。非常にバランスがよいのです。
きっとこれらは、幼児期から中学入学までの間にいろいろなことを行ってきたことも関係していると思います。中学生時期までに一つのスポーツに偏りすぎてはいけないことを物語っているとも思います」
フィジカルに偏りがない人は、どの競技をやっても一流選手になり得る。米澤さんはそんな可能性にも言及していた。水谷選手が卓球を選んでくれたことが、うれしい。
取材=猪瀬健治 文=川合綾子