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吉村真晴インタビュー(前編)

 
 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に到った理由に迫る。
 今回は、4月上旬に行われた第19回アジア競技大会卓球競技代表候補選手選考会で優勝し、2019年11月のワールドカップ団体戦以来となる日本代表に返り咲いた吉村真晴(愛知ダイハツ)に、復活の理由とこれからについて尋ねた。


−アジア競技大会選考会で見事に代表権を勝ち取りました。試合を振り返っていかがでしたか?

 予選リーグは有延(有延大夢/琉球アスティーダ)、横谷(横谷晟/愛知工業大)、大星(松下大星/クローバー歯科カスピッズ)と僕の4人のグループで、初戦が有延でした。有延には前回の対戦(20216月のアジア卓球選手権ドーハ大会日本代表選考合宿)で負けていたので、そこがまず勝負だと思っていましたが、有延がアンラッキー(発熱による棄権)で出場できなくなり、3人のリーグ戦になりました。
 横谷も大星もポテンシャルがあり、実際に力もある選手たちですが、しっかり準備すれば勝てると思って臨み、勝ち切ることができました。

−予選を勝ち上がり、決勝は戸上隼輔選手(明治大)との対戦になりました。試合前はどのような心境でしたか?

 戸上は若手の中でもすごく勢いがあり、これから日本を背負っていく選手だというのはすごく感じています。なので、「自分がどこまで戸上についていけるか」「変えてきた自分の卓球がどれだけ若い世代に通用するのか」を試してみたいと思っていたので、チャレンジャーの気持ちでしたね。

−吉村選手にとって、戸上選手は野田学園の後輩ということで、向かっていく気持ちをつくるのが難しかったと思いますが、そのあたりはいかがでしたか?

 橋津先生(橋津文彦野田学園高校卓球部監督)からも「あいつは(戸上は)絶対来るからかわいがってやれよ」って言われていますし、実際に仲は良いですよ。
 でも、チャレンジャーとして向かっていく気持ちをつくるのは全然難しくなかったですね。戸上は世界卓球のシングルスに出場していて自分はまだ出たことがないし、全日本のダブルスも戸上は取っているけれど自分は取っていない。ちょこちょこあいつに(実績で)負けているなと。
 加えて、同じ卓球選手として戸上をしっかり尊敬しているからこそ、向かっていきました。彼が頑張っているのを見ていますし、結果もしっかり出しているので。
 僕自身、純粋に久しぶりに試合がしたかったですし、自分の状態も良かったので向かっていくことができ、なんとか勝ち切ることができました。戸上は僕より1試合多かった上に、苦しい試合が続いていたので疲労もあったと思います。

充実のプレーでアジア競技大会日本代表の座をつかんだ吉村

後輩・戸上との決勝を制し、健闘を称え合った


--それにしても、すごい内容の決勝戦でした。


 そうですね。ゲームカウント31でリードしていて、その第5ゲームも取れそうでしたが、そこからゲームオールに追いつかれ、最終ゲームは序盤リードを許してしまいました。(戸上との試合が)楽しすぎて、一瞬気持ちが緩んでしまった部分はあります(笑)

−勝ち切れた要因は何でしょうか?

 1番は、サービスが効いたことです。自分が思ったよりサービスが効きました。試合が終わった後、戸上といろいろ話をしたのですが、「真晴さんのサービスに対する苦手意識や、ほかの選手と違って真晴さんには1発で決められてしまう恐怖感があり、受け身になったときに距離感が合わなかった」と彼が敗因を分析していました。
 それを聞いて、サービスや攻撃力などの自分の良さは、若い選手たちにも恐怖感を与えられているなというのをあらためて感じました。戸上との試合は本当にサービスの配球も良かったし、バックハンドも要所でしっかり振り切って点数を取ることができていたので、自分の攻撃力で相手に恐怖心を与えながら試合ができていたのかなと思います。

−自分の持ち味を再確認できたということでしょうか?

 そうですね。攻撃力はもともと持っていたものですが、特にバックハンドについては勝負の怖さを知り始めてから沼に入って振れなくなりました。バックハンドはつないでフォアハンドで無理に動いて、動かされてというのが僕の卓球になりつつあったので。
 そういったところで、今、新しくコーチをお願いしている時吉さん(時吉佑一/Table Tennis GYM LaVIES)をはじめ、周囲のみんなが自分の本来持っている良さをあらためて伝えてくれて、そこに取り組んだ結果が今につながっていると思います。ゼロから新しくというわけではなく、忘れていた部分を思い出して今の自分の卓球にフィットさせている形ですね。

「若い選手たちに怖さを与えることができた」という吉村。鋭いボールを連発した


--久しぶりに日の丸を背負う心境はいかがですか?


「もう1回頑張る」と決めたのが昨年の12月くらいですが、その時から「日の丸を背負ってもう一度世界で」と考えていましたし、覚悟はその時点で決まっていましたが、あらためて、初めて選考会で優勝することができましたし、日の丸を背負ってアジア競技大会に出るのが決まってすごくわくわくしました。なにか懐かしいって気持ちもありますし、あらためて日の丸の重さを感じてもいます。

−何年ぶりの日本代表ですか?

 2年半ぶりくらいですね。僕がティモ(ティモ・ボル/ドイツ)に勝ったワールドカップ団体戦2019東京が最後です。

ワールドカップ団体戦2019東京ではボル(ドイツ)を倒す殊勲を挙げた


--それから、吉村選手は自分から代表を辞退したんですよね?


 そうです。自分から当時男子ナショナルチームの監督だった倉嶋さん(倉嶋洋介/木下グループ卓球部総監督)に連絡して、直接お話しさせていただいてナショナルチームを辞退させていただきました。

--差し支えなければ、そのきっかけと、当時の心境をお聞かせください。

 東京オリンピックの代表になれなかったことです。
 東京オリンピックは自分の人生の最大の目標と決めていましたし、そこに懸けてもいました。自分の中では水谷さん(水谷隼/木下グループ)が(3人目の団体戦メンバーに)選ばれるというのは分かっていたけど、テレビで代表メンバーが発表される様子をあらためて見て、張り詰めていた糸がプツンと切れてしまいました。
 当時の僕の立ち位置だと、東京オリンピックの男子団体のリザーブ(控え選手)に選ばれる可能性がありましたが、リザーブでもオリンピックへ行きたい選手はたくさんいます。もし、こんな中途半端な気持ちでリザーブに選ばれたら、出場する選手を十分にサポートできないし、申し訳ないと思ったのが1番大きかったですね。

ナショナルチームを辞退した胸の内を明かしてくれた吉村


--切れた糸をつなぎ直して、もう一度本気になろうと決意した動機は何ですか?

 本気になったのは昨年の12月ですが、動機はやっぱり東京オリンピックで水谷さんを筆頭に男女を問わず日本の選手たちが戦っている姿を見たことですね。日の丸を背負っている選手たちを久しぶりに目の当たりにして、やっぱりかっこいいなあって思いましたし、嫉妬じゃないですけど、うらやましいなあって思いましたし。もちろん、すごく悔しい気持ちもありました。水谷さんが32歳で金メダルを取っているのに対して、俺は28歳。自分の中では卓球に真剣に向き合っていたつもりでも、まだまだやれることがあるよなってすごく感じました。
 それから12月にマネージャーのイオタさん(立石イオタ良二)と、これからどうしたいかって話を始めて、もう一度パリ五輪を目指すと覚悟を決めました。その過程で、練習を見てくれるコーチや、体やメンタルをケアしてくれる人も必要だということで、それぞれ探してお願いし、全てにおいて悔いのないよう全力でパリに向かおうと。
 今、自分を応援してくれる仲間のような感じで「チーム・マハル」があり、みんなは全力で自分のことをサポートしてくれているので、それに対して自分も本気の吉村真晴で応えなければいけないと思っています。
 これまでは、気が乗らないからとか調子が悪いからとか、ここまでやったからいいでしょう、など自分の中で甘えみたいなものがありましたが、今はそれがなくなりました。最後までやり通すことがプロとして必要だと思うし、負けたとしても最後まで頑張って見つけた課題を次に生かすために話し合える仲間がいるので、そこは自分の中で成長しているというか、もう1回頑張っていく中で楽しい部分ではありますね。

東京オリンピックでの日本勢の活躍が、吉村に再び火をつけた(提供=ITTF)


−昨年10月にはテレビ収録の際の不慮の事故で肋骨を骨折してしまいました。その影響はどうでしたか?

 あの骨折によって逆に時間ができてしっかり考えることができました。治るまでに約2カ月あったので、それだけ時間があれば悔いのない再スタートができるぞということで、コーチやマッサーをお願いするなど、チームづくりの準備期間に当てることができました。
 きちんと準備ができたからこそ、再スタートがすごく楽しみでしたし、練習も早く再開したかった。早く治そうという気持ちが強かったですし、けがの期間中でも気持ちをずっと高めることができました。
【後編に続く】

(まとめ=卓球レポート)

吉村真晴インタビュー(後編)「チームは精神的な支えだし、自分の逃げ道をなくす存在」

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