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張本智和インタビュー 
世界卓球2023ダーバンを振り返る⑤

 このインタビューでは、世界卓球2023ダーバンにどう臨み、どのように戦い、その結果をどのように受け入れ、そして、今何を思うのか。張本智和(智和企画)の今に迫る。
 第5回(最終回)は、世界卓球を終え、10代最後の日々を過ごす張本の今の思い、そして、課題とこれからの目標を聞いた。
(※このインタビューは2023年6月9日に行われたものです)



国内で何度負けても今の自信は揺らがない

--14歳で馬龍(中国)に勝って、張本選手には世界チャンピオンのポテンシャルがあると世界中が思いました。でも、世界チャンピオンとなると、着実に1歩1歩進んでいくしかなかったということですね。

張本智和(以下、張本) 馬龍も超級リーグで若手に負けたりしますが、そういうのが今までは分からなかったんですよね。同じことを僕は国内で戸上さん(戸上隼輔/明治大)に負けて感じます。今までだったら、国内で1回負けただけで「もうだめだ、自分は日本で2番だ」とか思っていましたが、たぶんあと100回、戸上さんに負けても、今の自信は揺らがないですね。だから、大事なのは負けた時にどう思えるかだと思います。
 馬龍も僕に1回負けたところで「若造が」くらいに思っていたと思うし、実際にその次は僕が負けたし、何十回、何百回と試合をしていたら誰だって1回くらいは負ける。けど、世界卓球やオリンピックで負けなければいい。実際に馬龍は負けていないし、樊振東もWTTでA.ルブラン(フランス)に負けたけど、世界卓球では負けていない。
 そういう意味で、今回、世界卓球ベスト8に入ったということ、ちゃんとメダルを狙いにいってベスト8に入ったことはうれしいですね。前回(世界卓球2017デュセルドルフ)はやるだけやって、荒らすだけ荒らしてベスト8みたいな感じでしたが、今回はちゃんとメダルを取ろう、ちゃんとまずはベスト8まではいこうと思っていけたので、大舞台に照準を合わせることができたと思っています。
 東京オリンピックではそこができていなくて、物おじしてヨルジッチ(スロベニア)に負けたり、その前の世界卓球でもディヤス(ポーランド)に負けたり、普段負けない相手に負けていました。逆に、僕がワールドツアー(WTTの大会)なんかで優勝する時は、確かにうれしいし、インパクトもあるけど、結局はワールドツアーなんですよね。今までだったら、ワールドツアーで負けても、「めっちゃ悔しい、もうダメだ」みたいになっていましたが、ワールドツアーの1勝と世界卓球の1勝は違うし、どこで勝ててどこで負けたかというのが大事ですよね。
 だから、やっぱり今はちょっと苦しいですね。結構やられ役というか、中国にも張本に勝てばいいって言われて、国内でも張本に勝てばいいと言われてて(笑)
 そこをクリアした時に、本当にチャンピオンになれると思います。19歳でこの最後のラウンドまで来れているなというのは、今感じています。

大事なのは安定感、着実性、堅実性。そのレベルを高めるだけ

--小学生の頃から張本選手の取材をしてきましたが、10代ですごいところまで来たという印象を受けます。負ける試合があっても、揺るがない自信というのはどこから生じているものでしょうか。

張本 それは、13、14歳から世界で活躍してきたっていうところだと思います。しかも、その経験の差は、他の選手とは一生埋まらないので、自分にしかないステータスだと思います。
 あの頃の勢いだけの自分と、今の自分を比べたら今の自分の方が絶対に強いので、今の自分はすごく好きなんですが、100点を目指すために、国内で戸上さんに勝って、海外で中国に勝つこと。そこだけです。
 あとは、取りこぼさずにやること。取りこぼさずにやるためには、勢いよりも今の落ち着きの方が大事です。中国選手に1回勝つだけだったら爆発力があればいいけど、それではトップまでたどり着けないというのもこの5、6年で経験したことなので、大事なのは、安定感、着実性、堅実性。そのレベルを高めるだけですね。そのレベルが一番高いのが中国だと思います。

--そういう考え方もプレーに反映されてきていますか?

張本 無理に打たなくていい時は打たないし、ミスも絶対に減っていると思います。それがたまに「ブロックしすぎ」にもつながりますが、この1球で戦術を変えなきゃなと思う時も、冷静に変えることができるようになりました。でも、まだ梁靖崑の2対2の9-9でナックルサービスを出せるレベルまでは到達していないと思うんですよ。それ以下の選手に勝てるレベルのひらめきがあるだけで、中国に勝つためにはひらめきが足りていないし、梁靖崑戦のロングサービスはその一つだったけど、もっともっと可能性があるし、ひらめきがなくても、相手が何をしてきても勝てるくらいの実力が必要だと思います。
 オリンピックで金を取るなら、どんな不測の事態にも、非常事態にも準備できていなくてはいけないですからね。「たまたまあの日、あの選手が強かったから金メダルを取れなかった、本当は俺の方が強かった」とは言いたくないし、馬龍はそうはなっていませんよね。結局、最後は彼が勝っている。まだまだやることは多いと思います。

爆発力から着実性、堅実性へとシフトしてきた張本のプレーは完成に近づいている

自分を喜ばせてあげられるのは金メダルだけ

--今、オリンピックの金メダルという言葉が出ましたが、次の目標は?

張本 やっぱりこれだけ世界卓球で頑張っちゃうと、初めてのことですが、燃え尽き症候群っぽい感じが自分の中で来ていますね。メダル一歩手前の試合をしましたが、その後に国内の大会で優勝しても、メダルは戻ってこないって思ってしまいますね。
 その悔しさを埋められるのは、来年のパリオリンピック、その次は2年後の世界卓球だけです。本当にそれくらいしかリベンジのチャンスはやってこないんです。
 僕が取ったことがないのは、オリンピックと世界卓球のシングルスのメダルだけ。それを取った時にしか、もう自分を喜ばせてあげられないっていうのは分かります。あとは勝ってもほっとするだけですね。

--メダルの色までイメージできていますか?

張本 金ですね。今回もメダルを目指していたから、ベスト8で終わったと思うんです。樊振東に勝つことを目標にしていたら、もしかしたら梁靖崑に勝てたかもしれないと思いますし、メダルを取っても樊振東に負けたら結局悔しいと思います。
 いくらオリンピックで銅メダルを取って、3位決定戦で勝って喜んで終われるとしても、銀の方が上だし、その上は金しかない。結局、金以外は、スポーツ選手は満足できないと思うので、まだメダルも取っていない僕が言うのはおこがましいかもしれないですけど、目標は金だけです。

卓球人生2周目という感じがします

--今までも金メダルが目標と言っていたと思いますが、今までとは重みとかリアリティーが違いますね。

張本 目標が大きすぎて、大口をたたいているって言われることも経験して、それで(目標は金メダルと)言えない時期が続いていましたが、今やっとまた金を目指せるし、それを言っても取れないという現実も受け入れられるだろうし、取れなかったら自分が悪い。でも、本当に金しかほしくないと思うので、なんかもう卓球人生2周目という感じがしますね(笑)
 ちょうど、20代の始まりとともに、もう1回10代前半の頃の純粋な時と目標が同じになったような、あの時(世界卓球2017デュッセルドルフ)のベスト8に戻ってきて、やっともう1回始められるような気がします。

--あと1年で樊振東を実力で上回る自信はどれくらいありますか?

張本 可能性はまだ彼の方が高いと思います。王楚欽も僕より絶対に高いし、よくても僕は3番目の可能性だと思いますが、この1年間たくさん練習したり、もっとツアーでも勝ち上がって、樊振東や王楚欽と対戦しておく。それを繰り返していけば、可能性はあると思います。彼らはもう卓球が出来上がっているし、今から新しい何かを学ぶということは少ないと思います。
 僕はまだ毎回中国選手と当たるところまでもいっていませんし、対戦することのメリットは僕の方が大きいはずです。たくさん練習をして、中国選手と試合をして勝ち負けを繰り返すことができてやっと50:50(フィフティー・フィフティー)だと思います。
 樊振東が次のオリンピックの金メダルの可能性が高いということはちゃんと認めますし、その次が王楚欽であることも認めます。それを認めて、受け入れた上で、自分にあるわずかな可能性を広げていくしかないと思います。

--具体的にはどういうところを強化していきたいと考えていますか?

張本 バックハンドは今までで一番信頼できるくらい最強の武器になっています。バックハンドは樊振東や王楚欽と同等といってもいいくらい自信があるので、やっぱり、課題はフォアハンドですね。大きなくくりでいうとフォアハンドになりますが、ストップ、ツッツキ、フリック、ドライブ、カウンター。1球だけはできても、バックハンドとの連係ができていなかったり、試合の流れによってはできなかったりするので、そうしたひとつひとつの技術を強化していきたいですね。
 あと、梁靖崑とどこに差があったかというと、やはり、ストップです。ストップ対ストップで、絶対に僕の方が先にツッツキに逃げちゃって、それを打たれていました。逆に、荘智淵とやった時には、向こうが我慢できなくなってツッツいてきたので、レベルは上がってきているけど、まだ梁靖崑には勝てていない。
 バック対バックに関しては本当に勝てているなという実感も試合中にありましたが、バック対バックは多くても試合の1/3くらいです。バック対バックで勝てても試合で勝てるということにはなりません。。ストップ対ストップの中でも、先にフォア前に回り込んでチキータに入るとか、そういう工夫も梁靖崑の方が多かったので、試合全体の51%で相手を上回るためには、ストップからの展開だったり、フォアハンドドライブ1球1球の質、回転量、スピードを高める必要があって、そこは練習だけですね。梁靖崑は僕より5、6年長く、フォアハンドドライブの練習をしているので、しようがない部分もありますが、同じようにやっているだけでは勝てないので、効率のいい練習、相手よりも何倍も意味のある練習をしないといけないですね。
 今はそれを、董(とん)さん(董崎岷コーチ)や田㔟さん(田㔟邦史男子ナショナルチーム監督)がすごくいい練習メニューをつくってくれたり、練習を毎日見てくれているので、今はすごく自信を持って練習だけに取り組めています。

--董崎岷コーチの指導はどのような指導ですか?

張本 人間としてはとても優しいですね。お父さんに似ている雰囲気を感じるので、自分もすぐになじめました。お父さんもすごく優しい人ですが、優しくないと、話も入ってこないし、怒られるのは怖いですからね。董さんに怒られたことは本当に1回もありません。
 技術的には、人が思いつかないようなことを言ってくるわけではなく、当たり前のことを適切なタイミングで言ってくれます。ストップするべき時にストップしろと言ってくれるし、フォアを攻めるべき時にフォアを攻めろと言ってくれる。簡単なことを言ってくれるので、スッと自分の中に入ってくるし、実行もしやすいです。勝負どころで初めての逆チキータをしてみろとか無茶なことは言いません(笑)
 失敗した時も、一緒に選手目線で悔しがってくれるので、次も董さんと頑張りたいと思いますね。今回、これだけいい試合ができたのも董さんのおかげだと思います。
 また、ナショナルチームの田勢邦史監督、日髙達也コーチ、田中礼人トレーナー、佐藤貢大マッサーをはじめ、スタッフの皆さんが普段の練習から試合会場での調整まで、全力でサポートしてくださっています。特に田勢監督には普段の練習やスケジュール調整、体調管理等、細かい部分もサポートしていただいています。今回の世界卓球で自分のベストパフォーマンスを発揮できたのもスタッフの皆さんのサポートがあったからこそなので、たくさんの感謝をしたいです。
 そして次は心の底から喜んでもらえるような結果を出して皆さんに恩返しをしたいです。

張本が信頼を寄せる董崎岷コーチ。周囲のサポートも張本の頂点への道を後押しする

 44年ぶりの日本男子の世界卓球男子シングルスのメダルがかかった張本智和対梁靖崑の一戦は両者の魂のぶつかり合いとでもいうような、とてつもない熱戦だった。そして、張本の梁靖崑戦を振り返る言葉も、それに匹敵するくらい興奮をかき立てるものになった。
 2対2の第5ゲーム、張本リードの9-8からの3本はまさに勝負を分けた分岐点になった。判断、ひらめき、技術、戦術。ひょっとしたら、ほかの選択があり得たのではないか。そして、ほかの結末があり得たのではないか。誰しもがそう思うところだが、張本がこの3失点に見いだしたのは意外にも「必然性」だ。なるべくしてそうなった。負けるべくして負けたのだと。
 悔しさはもちろんある。だが、それ以上に明瞭に負けた理由が分かっている。その言葉にはひとかけらの迷いもない。
 がむしゃらに踏み越えてきた激動の10代という荒れ地を、静かな高台から眺めているかのような明晰(めいせき)な視線は、自らの歩む道の先に頂を捉えている。

(まとめ=卓球レポート)

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