電光石火の両ハンド攻撃で、8月に行われたインターハイを制した戸上隼輔(野田学園高)。特別企画として、戸上がインターハイを制するために磨いた技の数々を明らかにしていく。
最終回は、回り込みフォアハンドドライブを紹介しよう。
※本文の技術解説は右利き選手同士の対戦を想定しています
試合の流れを変える回り込みフォアハンドドライブ
この特別企画ではこれまで5回にわたり、インターハイ王者・戸上の強さに迫ってきた。最終回は、戸上が「自分の中で最も自信がある技術の一つ」と語るフォアハンドドライブにスポットを当てる。
ワイルドなプレーが戸上の持ち味だが、その中でもラケットを鋭く振り抜くフォアハンドドライブは、彼の魅力が詰まった技術だ。
今回は、バックハンドドライブした後、バック側に来たボール(ロングボール)に対して回り込んでフォアハンドドライブするときのポイントを戸上が紹介してくれた。
■回り込みフォアハンドドライブのポイント①
バック側に素早く回り込み、左足前のスタンスで構える
クロス(右利きの相手のバック側)にバックハンドドライブした後、バック側に来たボールに対して回り込んでフォアハンドドライブするためには、バック側に素早く回り込むことが先決になる。
バック側に回り込むときの足の動かし方は、左足を小さく1歩バック側に出し、次いで右足→左足の順にバック側に足を運ぶことが基本だ。
このときのポイントは、スタンス(足の構え)にあると戸上は言う。
「バックハンドドライブした後、回り込むと判断し、足を素早く動かしてバック側に動いたら、『スタンスを左足前にする』ことがポイントです。左足をしっかり前に出したスタンスをつくると、スイングしやすくなることに加えて、次のボールに対してもフォアハンドドライブで連打しやすくなります。
このとき、左足のつま先の方に重心をかけることも意識しています。そうすると体のバランスが安定するので、フォアハンドドライブの威力が出ます」
バック側に回り込むときは、体の上下動をできるだけ抑え、床すれすれに足を動かすことも意識して、素早くスムーズに動こう。
■回り込みフォアハンドドライブのポイント②
バックスイングをコンパクトに抑えて体勢を安定させる
このケースでは、バック側に回り込みながら腰を右にひねってバックスイングを取るが、このときのポイントについて戸上は次のように語る。
「バック側に回り込んでフォアハンドドライブするときは、『バックスイングをあまり取らない』ことを心掛けています。バックスイングを大きく取ってしまうと、体のバランスが崩れやすくなってしまうからです。
バックスイングを小さめに抑えると体勢が安定し、打球タイミングも計りやすくなります。また、重心移動をしっかり使ってスイングすれば、小さめのバックスイングでも打球に十分な威力が出ます」
バック対バックの速いラリーから回り込む場合は、体勢が詰まったり、振り遅れたりしやすいが、それを防ぐためには、戸上が言うようにコンパクトなバックスイングを心掛けることが大きなポイントになる。
コンパクトにバックスイングするためには、「ひじを体から離しすぎない」「ひじに適度なゆとりを持たせる」の2つを意識しよう。
このとき、腕から余計な力を抜き、リラックスさせておくことも心掛けたいポイントだ。
■回り込みフォアハンドドライブのポイント③
右足の強い蹴りでラケットをしっかり振り抜く
ここではスイングのポイントを見ていきたい。
戸上のスイングで特に注目してほしいのが、「右足の蹴り」だ。
写真4を見ると、右足のシューズの裏が完全にめくれているが、これは戸上が右足で床を強く蹴っているためだ。このように、右足で床を蹴る力を使うと、右足から左足への重心移動と腰の回転が鋭くなり、スイングのスピードや力強さが増す。そのため、戸上は小さなバックスイングでも打球に威力を出すことができるのだ。
ボールにより強い力を加えられるよう、ひじをしっかり前に出してフィニッシュしているところも参考にしてほしい。
ラリーの高速化が進む今の卓球では、回り込むチャンスはなかなかやってこないが、だからといってバック側に来たボールをバックハンドで対応するだけでは相手に脅威を与えることはできない。「1球でもいいので、回り込んで流れを変えるボールがあった方がいい。(強い回り込みフォアハンドドライブに限らず)シュートドライブや、遅い球でもいいと思います」と戸上は述べる。
そうして戸上は、今回紹介したポイントに基づき、速いラリーでも機を見て回り込めるからこそ、インターハイで頂点に立つことができたといえよう。
(取材/文=猪瀬健治 写真=佐藤孝弘 動画=小松賢)