インドから世界のトップシーンへと躍り出たグナナセカラン。彼と対戦したトップ選手はかく言う。「特別すごいものはない。それなのに、気づくと沼に引き込まれている」。
トップ選手たちをも誘い込んでしまうグナナセカランの「沼」とは一体どんなものなのか。この特別企画では、グナナセカランの強さについて、本人のコメントをもとに分析していきたい。
1回目は、グナナセカランのプレースタイルの特徴と、彼の武器である多彩なブロックの中から「スピンブロック」を取り上げる。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーを想定しています
沼の秘密は「インテリジェンス」
卓球強国とはいえないインドを2018年アジア競技ジャカルタ大会男子団体で史上初の銅メダルへと導き、2019年5月~7月の世界ランキングではインド人選手として歴代最高位となる24位につけるなど、トップ選手への階段を着実に上がっているグナナセカラン。母国インドではたびたびテレビに出演する著名なアスリートだが、グナナセカランの強さがどこにあるのか日本の卓球ファンにはあまり知られていないのではないだろうか。
どちらかというと華奢(きゃしゃ)な体格のグナナセカランのプレーは、際立つような技や球威があるわけではなく、攻守のバランスに優れている印象がある。しかし、グナナセカランと対戦した日本のあるトップ選手は「気づくと引き込まれている沼のようだ」と彼の強さを評する。「沼」とは示唆に富んだユニークな表現だが、具体的にはどのようなことなのだろうか。
グナナセカランに自分のプレースタイルの特徴について尋ねると、次のような自己分析が返ってきた。
「自分の卓球はオールラウンドなプレースタイルです。カウンタードライブやサービスの種類の多さ、ブロックが得意技術です。
そして、『インテリジェントにゲームをする』ことも特徴だと思います。具体的には、戦術の立て方や試合で相手がしてくることを理解する能力、そして試合中に相手が嫌がることを見つける能力に長けていると思います。
子供の頃から、試合で相手に勝つための方法を探ってきました。そして、練習では、相手が難しいと感じるプレーができるようになろうと取り組んできました。また、コーチも私の強みを高めることや、相手が難しいと感じるような戦術ができるよう助言してくれました。
そうやって、良い戦術でプレーできるよう自分を高めてきたことが、私の強みだと言えます」
インテリジェントとは印象的なフレーズだが、直訳すると「知能の高い」「理解力のある」「聡明な」「利口な」などの意味だ。これを踏まえると、グナナセカランのいうインテリジェントとは、「相手の特徴をしっかり分析し、そのデータに基づいて相手が嫌がるよう、自分が優位になるようゲームを進める」という意味なのだろう。
そして、このインテリジェントなプレーが、一度はまったらなかなか抜け出せない沼を対戦相手に想起させるのではないだろうか。
ブロックのバリエーションは4つ
ここからは、グナナセカランのインテリジェントなプレーを支える具体的な技術について紹介していく。
最初に取り上げるのは、ブロックだ。
一見すると特徴がつかみにくいグナナセカランのプレーだが、彼の試合をよく観察するとブロックのうまさに気づく。世界のトップ選手をもほんろうする正確で多彩なブロックはグナナセカランのひそかな武器であり、ブロック力の高さがあるからこそ、観る者はおろか対戦相手にさえも容易に本質をつかませないないプレーが可能なのだろう。
まず、ブロックの基本的ポイントと自身のバリエーションについてのグナナセカランのコメントを紹介する。
「小さい頃から自分がミスすることが嫌いで、とにかくラリーを続けたいと思っていました。それが、ブロックが得意になったきっかけです。
ブロックは、相手のボールの回転に合わせてラケット角度を調整することが大切です。相手のボールの回転が多ければ、ラケット角度をかぶせる必要がありますし、相手がフラットに打ってきたら、ラケット角度を立てなくてはなりません。
そして、ブロックは体の近くで打球することがとても大切です。体から離れたところでブロックするのは難しいです。一方、体の近くで打球することができれば、良いブロックをすることができます。
ブロックするときは、基本的にラケットをとてもリラックスした状態でゆるく握っています。しかし、相手が強烈なボールを打ってきたら、手のひらで強くラケット握って打球面を固定するようにします。その一方で、肩の力は入れず、リラックスするようにします。これで良いブロックができるようになります。
私のブロックには、大きく分けると『スピンブロック』『ソフトブロック』『カウンターブロック』『パンチブロック』の4つのバリエーションがあります」
スピンブロックは、ボールの上の方をブラッシングする
ブロックに4つのバリエーションがあるというグナナセカラン。今回は、そのバリエーションの中から、スピンブロックを紹介しよう。
このブロックのコツについて、グナナセカランは次のように語る。
「スピンブロックは、相手のドライブに対してボールの上の方をラケットで軽くブラッシングするイメージで打球する技術です。この動作によってブロックに回転がかかります。
ボールを体まで引き付けて、小さいストローク(振り)でドライブするイメージで打球します」
スピンブロックとは、いわゆる伸ばすブロックのことだ。ボールの上の方を軽くこするように打つことにより、ブロックの軌道が相手コートにバウンドしてから伸びるように弾む。そのため、相手の体勢を詰まらせたり、タイミングを狂わせたりする効果が期待できる。
グナナセカランのコメントを参考にするほか、頂点前の打球点を捉えることも意識して、ぜひ自分のプレーにスピンブロックを取り入れてみよう。
次回も、グナナセカランの多彩なブロックについて、本人のコメントを交えながら分析する。
ドライブに対するスピンブロック
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(取材/まとめ=卓球レポート編集部)