この企画では独自の視点と卓球理論で名高い、世界卓球2003パリの男子シングルス優勝者ヴェルナー・シュラガー(オーストリア)に、世界卓球2023ダーバンの決勝、樊振東 対 王楚欽(ともに中国)を通して、現代卓球や選手の特徴、さらには、卓球競技の展望について語ってもらった。
最終回となる第8回は、来日時に中高生を指導した経験から、日本の卓球選手たちへのアドバイスをもらった。
技術は卓球というスポーツのほんの一部分
日本に来て、愛好家や学生とプレーをする機会がありましたが、その中でとても印象的なことがありました。
彼らは、ゲーム前のウオームアップの時はとてもいいボールを打ちます。学校などで、最低でも毎日1時間は練習をしていると思うほどのレベルです。
しかし、試合が始まり、サービスを出した途端に、プレーのレベルが一気に落ちるのです。
私にとってこれはとても受け入れがたいことでした。彼らは、その技術を身に付けるのに、何時間も何年間も費やしてきたことでしょう。しかし、その技術は卓球というスポーツのほんの小さな一部分でしかないのです。
彼らは基本打法の練習と同様に、試合の状況下で打球する練習を組み合わせるべきなのです。
私が具体的に彼らにアドバイスしたことの一例として、打球の連係がうまくいくようなテクニックがあります。体幹を動かして、手の動きが少なくなるようにするのです。ラケットの動きを小さくすれば、次のボールに備える時間の余裕ができます。初級者ほど、時間とエネルギーを浪費しています。
私がアドバイスを与えた男性は、いつも手が下がっていました。打つときにだけ上げるのです。これは効率がよくありません。世界卓球の決勝を見てください。樊振東と王楚欽に手を下げる余裕があったでしょうか。
このように小さな要素がたくさんあって、それを組み合わせれば大きなインパクトになるのです。
一球一球が学びの経験
私はそのように考えて、自分を向上させ、世界チャンピオンになるための能力を開発してきました。その初歩段階で必要になったのが、自己認識能力を開発することです。
自己認識能力とは、自分の体が何をしているのかを知ることです。例えば、フォアハンドを打っているとき、自分の右足は何をしているのか、どこかに緊張はあるか、体の他の部分は何をしているのか。このような自己認識の積み重ねによって、身体の優れたフィードバックシステムを構築することで、ボールがオーバーする場合に、どのように改善すればよいのかがわかるようになるのです。
成熟するには、自分で経験する必要があります。本物の知恵は、自分自身で行動し経験をすることからしか生まれません。
本当に強くなるためには、一分一秒、一球一球全てのボールが学びの経験でなければなりません。練習の質を高めるために、一打一打に全神経を集中して学ぶことを心掛けてください。(了)
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(まとめ=卓球レポート)