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教えて!上D <ドイツ編>
第10回「渡独して初のシーズンが終わった心境は?」


「卓球界の賢人」こと上田仁が、その確かな実力と見識をもとに、さまざまな質問に答える人気企画「教えて!上D(ウエディー)」が復活!昨年の8月から日本を離れ、ドイツに拠点を移した上Dが、卓球についてはもちろんのこと、ドイツやヨーロッパ各地への転戦の日々についても伝えてくれます。
 今回は、ドイツに渡って初めてのブンデスリーガのシーズンを終えた心境について尋ねました。

Q.渡独して初のシーズンが終わりました。心境をお聞かせください。

上田選手が昨年の夏にドイツに移住して初めてのブンデスリーガのシーズンが終わりました。シーズンを戦い終えた今の心境をお聞かせください。(能あるたかひろ:卓球レポートスタッフ)

A.上出来のシーズン。卓球に夢中になっている今の自分は、胸を張って「プロだ」と言えます

 これまでと比較しても大幅に環境が変わったこともあり、「シーズンを無事に走り抜けた」という達成感と安心感が大きいですね。
 同時に、すでに来シーズンに向けての期待や不安もあります。ですが、体調を崩して休養を余儀なくされ、選手を引退しようと悩んでいた時期から再起を図って渡独という経緯を考えると、上出来のシーズンだったと思っています。 

 以前に卓球レポートで行っていただいたインタビューでもお話ししましたが、体調を崩してしまったのは、プロとしての在り方について考え過ぎてしまったことが大きな要因の一つでした。
 今振り返ってみると、日本代表でオリンピックを目指したり、世界ランキングを上げるために各国を飛び回ったりする日々の中では、「プロとは?」をそこまで深く考えることはありませんでした。プロについてよく考えていないのに、自分の中で「プロだからこうしなければならない」という思い込みだけは強かった。それが、自分を苦しめていたように感じます。
 結果を出すことに必死になりすぎて、とにかく負けることが怖かった。試合で負けるたびに、プロとしての価値が下がっていくような気がして、「負け=失敗」と捉え、これ以上失敗をしたくないから負けたくない、負けたくないから試合をしたくない、試合をしたくないから引退したいという気持ちに陥っていました。

上田選手(左から二人目)は、渡独して初のシーズンでチームを初のプレーオフ進出までけん引

 
 そうした自分を変えようと渡独したわけですが、ドイツに来てからいろいろな場所で練習させていただき、多くの人と出会って、さまざまな価値観にふれました。出会った人たちはみんな自信を持っていたし、夢中で卓球をしていました。試合で完敗しても「次は勝てると思う」と口にする選手が多い。たとえば、重要な場面でサービスミスをして試合に負けたとしても「あのサービスをミスしていなければ」と嘆くのではなく、「あのサービスが入れば勝てた」というふうに、ひたすら前向きです。
「卓球を楽しむためににはどうしたらいいか?」を日本にいた頃はよく考えていましたが、そうした前向きな人たちと出会って、「卓球に夢中になることが卓球を楽しむことだ」と気づかされました。

 渡独して初のシーズンということもあり、とにかく目の前の試合に集中することを心掛けていました。開幕前は、「まず1勝しよう」とそのことだけを考えていましたし、そのためにできることに注力しました。勝ったらうれしくて眠れないし、負けたら負けたで悔しくて眠れない。でもその繰り返しをシーズン通して行う中で、気が付けば卓球のことばかり考えていて、なんだか「プロらしい生活」ができている気がしました。
 根本的なことですが、試合に出場できていたので、そこから得られる充実感は圧倒的でしたね。プロとして生きていく上で必要なことは、勝つこと以前に試合に出ることだとあらためて思い知りました。試合のために可能な限り最善の準備をし、そうして自分が試合に出て勝った時に得られる喜びは、何物にも代えがたいと痛感しました。

 日本にいた頃は、日本代表でもなく、Tリーグでの出場の場も減っていた状況だったので、胸を張って「自分はプロだ」と言うことができませんでした。これ以上負けるのは怖いからと頭の中でどこか逃げ道をつくってがむしゃらになりきれない自分がいたし、そんな自分が嫌いでした。自分を変えたかったけど変えられなかったから、せめて環境を変えようと家族とのドイツ移住を選んだ。
 はたから見れば「家族もいるのになんでいまさら海外へ?」と思う方もいたでしょう。でも、理由やモチベーションはどうあれ、今は、卓球でお金をもらって生活することに集中していますし、そのために出場の場を探し、なりふり構わず卓球に夢中になることができています。
 プロとしての評価は自分ではなく他人が決めることですが、卓球に夢中になっている今の自分は、胸を張って「プロだ」と言える気がします。

「卓球に夢中になれている」と上田選手

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(文=上田仁 写真=高樹ミナ/Ruoxi Qiu まとめ=卓球レポート編集部)

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