今、勝っているチーム、勢いのあるチームを訪問し、その練習風景を伝える新企画。結果を出すチームの日常からは、強くなるためのヒントや刺激がたくさん得られるはずだ。
第1回は、2023年後期日本リーグ、2024年前期日本リーグと連覇を果たした日鉄物流ブレイザーズの練習場にお邪魔した。
まずは、平日の日鉄物流ブレイザーズの様子をお送りする。
創部1973年。半世紀を経て少数精鋭の常勝チームへ
日鉄物流ブレイザーズは、日鉄物流の実業団チームとして1973年に住金海運卓球部という名称で創部された。1987年に社名変更に伴って住金物流卓球部へと名称を変え、2019年に日本製鉄のバレーボールチームである堺ブレイザーズとコラボレーションする形で、日鉄物流ブレイザーズと名称を変えて今に至る。
2020年に日本リーグのプレーオフであるファイナル4で初優勝を果たし、念願のタイトルを獲得すると、2023年の全日本実業団卓球選手権大会で悲願の初優勝を果たす。その後、2023年後期日本リーグ、2024年前期日本リーグと連覇し、日本リーグの常勝チームとしての地位を着実に歩んでいる。
現在のメンバーは、杉井孝至監督、コーチ兼選手の松下海輝、キャプテンの藤村友也、定松祐輔、一ノ瀬拓巳、髙見真己の6人で、まさに少数精鋭だ。試合では、ここにゴールド選手(レンタル選手)の高木和卓(ファースト)が加わる。
練習の拠点は和歌山市。専用の卓球練習場で日々汗を流す
日鉄物流ブレイザーズの拠点は、和歌山県和歌山市にある。駅でいえば、JR和歌山駅よりやや西にある南海電鉄和歌山市駅の方が近い。
選手たちが汗を流すのは、1993年に竣工し、「ともづなスポーツセンター」と名付けられた日鉄物流ブレイザーズ専用の卓球練習場だ。2階建ての体育館で、1階が練習場と部室、2階にはミーティングや選手たちが寝泊まりできるスペースが設けられている。練習場は広々としており、選手たちが激しくボールを打ち合うのに十分な広さだ。
限られた時間内で繰り広げられる実戦至上主義の練習
卓球レポート取材班がお邪魔したのは金曜日と土曜日の2日間。平日の選手たちは、8時30分から17時まで勤務した後、18時から20時30分まで練習を行う。
18時に近づくと、仕事を終えた選手たちが三々五々集まり、ウオーミングアップを行った後、18時30分から打球練習が始まった。
練習を取り仕切るのは、日鉄物流ブレイザーズの杉井監督だ。日本リーグでは、誰よりも声を出して選手たちを熱く鼓舞する「熱将」として知られる。日中ハードな業務に奔走した後、約2時間の練習で強化を図るのは並大抵のことではない。そのポイントについて、杉井監督は次のように語る。
「練習時間が潤沢にあるわけではないので、密度を濃くしなければなりません。うちで重視しているのはサービスとレシーブ。誰しもラリーは楽しいし、強いボールを打つのは気持ちいいと思いますが、サービスやレシーブで後手を踏んだらラリーや強打までたどり着きません。そのため、主導権を握れるようなサービスからの練習とレシーブからの練習に力を注いでいます。
もう一つ、重視しているのがパターン。得点パターンが少なければ自信を持って試合に臨めませんし、そのパターンが利かなくなったら打つ手がなくなってしまいます。ですから、自分に合う先手を取れるようなパターンをできるだけ多くつくることにも重きを置いています。
日々の練習内容は選手たちが決めます。見ていて少し違うなと感じたら選手にアドバイスしますが、基本的には、サービス・レシーブの強化やパターンづくりを踏まえ、練習内容は選手たちが自分で決めます。練習時間は1人だいたい7分で回していきます。水曜日と金曜日、そして土曜日には多球練習も取り入れています/杉井監督」
仕事終わりの限られた時間で強くなるためには練習の質を高めることが必須であり、そのためにはサービス・レシーブの強化と、そこからの得点パターンの構築が練習テーマの二本柱だと杉井監督。
そのテーマ通り、練習が始まると、選手たちは個々に自分の特徴や課題に応じてサービスからの練習やレシーブからの練習に取り組み、杉井監督が時折アドバイスを送りながらパターンを磨いていた。フットワークや両ハンドの切り替えなどの反復練習を行う場合でも、必ず試合で使うサービスやレシーブから始める。
この極力実戦に近づけた練習が、限られた時間内の練習で日鉄物流ブレイザーズの選手たちが結果を出す大きな要因なのだろう。
■日鉄物流ブレイザーズの選手たちの平日のスケジュール
練習後に欠かさず行われる唱和
日鉄物流ブレイザーズには、練習の終わりに必ず行う日課がある。それは、中国の漢書に有名な不撓不屈の精神や日本リーグが策定した指針などの唱和だ。この狙いについて、杉井監督は次のように話す。
「人間力の向上がなかったらチームも向上しないというのが、うちのチームのモットーです。卓球と仕事をきちんと両立して、卓球はもちろんのこと、会社でも通用する人間になってほしい。選手たちは卓球を終えた後の人生の方が長いですから、引退後に会社で出世してほしいですし、我が社にはそうした土壌があります。
卓球で強くなることに加え、ゆくゆくは企業人として成功するような人間になることを見据えて、どんな困難にも立ち向かう心得を説いた不撓不屈の精神と社会人としての心得、そして、卓球人としての私たちは日本リーグに所属していますから、日本リーグが掲げる指針を毎日唱和しています/杉井監督」
これまで、日鉄物流ブレイザーズの選手たちが絶体絶命の場面からよみがえったり、大接戦をしのぎ切ったりする試合を幾度となく目にしてきた。そうした勝負を乗り越えてきたからこそ常勝チームとしての今があるわけだが、その粘り強さは、この唱和によって醸成されているのかもしれない。
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(取材/まとめ=卓球レポート編集部)