世界卓球2021ヒューストン男子シングルスでベスト8に入り、先に行われたパリオリンピック男子シングルスではベスト16に入ったカナック・ジャア(アメリカ)。一見すると、台からあまり下がらず前でプレーするオーソドックスなシェーク攻撃型だが、その内側には勝つためのさまざまなインテリジェンスが詰め込まれている。
この特別企画では、ジャアのストロングポイント(強み)について、本人とジャアのコーチであるヨルグ・ビツィゲイオ氏(ドイツ)のコメントを交えながら明らかにしていく。
第1回は、ジャアのプレーの肝である速攻を可能にするためのポイントを解説してくれた。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーをモデルにしています
速攻で相手に時間的なプレッシャーをかけられることが強み
ジャア 私は、相手のプレーに適応する能力が高いと思います。それによってメンタル的に優位に立てる場面が多いですね。
技術的には、ラリーの展開でいうと自分は速攻型なので、相手よりも時間的に優位に立つことができます。そのため、相手に対して時間的なプレッシャーをかけることができる。ここが、自分のストロングポイントだと思います。
自分はパワーヒッターではなく、オールラウンドプレーヤーなので、威力では及ばない選手が多い。そのため、コース取りやテンポ、プレーのスピードで相手を圧倒することを心掛けています。そして、それらを、試合全体を通して構成できるところが自分の強みです。
ジャアのタイミングはほかの選手より早い
だから、ラリーを支配できる
ビツィゲイオ ジャアはボールを返す能力、卓球台にボールを入れる能力に優れています。サービスとレシーブもかなりのレベルですが、とにかく彼はラリー戦に強いので、レシーブから1発で打ち抜かれたりしない限りは、どんな相手とでも良い試合ができます。
特に、台に近いポジションでプレーするため、打つタイミングがほかの選手よりも早いのでラリーを優位に支配できると思います。
もう一つの特徴は、そのゲーム、マッチが終わらない限り、彼は逆転できる能力を持っています。ゲームセットしない限り、試合をひっくり返せるメンタル的な強さがある。それは、ファイティングスピリットが高いというのもありますが、接戦でのゲームマネジメントがとてもうまいですね。コーチの私が控えめに見てそうなのですから、相手からすると、もっと嫌な相手と映っているでしょう。
速攻を可能にする鍵はフォアハンド時のスタンス
ジャア 前陣で速攻を行うために重要なのがスタンス(足の構え)です。
具体的には、フォアハンドを打つときに「平行足に近いスタンス」で打つことです。そうすると、その分だけ早いタイミングでボールを捉えることができます。一方、左足が大きく前のスタンスでフォアハンドを打とうとすると打球点が遅くなってしまい、速攻はできません。
平行足に近いスタンスでフォアハンドを打つことを心掛けると、早い打球点を捉えられることに加えて、フォア側に来たボールに対するバックハンド(チキータ)からフォアハンドへの切り替えや、ミドル(右腰のあたり)に来たボールへの対応がスムーズにできるメリットもあります。
ただし、平行足に近いスタンスの場合、足からのパワーをボールにあまり伝えることができないので、体のローテーション(腰の回転)を意識して威力を出す必要があります。
バックスイングであまり肩を引かないことが重要
具体的には、腕と体の関係性をもっと良くしようとしています。そのためには、平行足に近いスタンスでフォアハンドもバックハンドも打つこと。そして、フォアハンドを打つときにバックスイングであまり肩を引かないことです。肩を引いてしまうと、その分、打球点が遅くなってしまいます。ただし、威力を出すためには、肩を引かない代わりに、腰をしっかり回すことが大切です。したがって、腰と上体の連動の向上、改善に取り組んでいます。
ロングボールに対するフォアハンドドライブ
スタンスとバックスイングに注意!
本人とビツィゲイオ氏が語る通り、打球点の早さがジャアの大きなストロングポイントだ。そのために二人が明かしてくれたポイントは、スピーディーな卓球を目指そうとしている選手にとって大いに参考になるだろう。
ポイントとして、ビツィゲイオ氏は、肩を大きく引かない代わりに、腰を使うと話してくれたが、具体的に補足すると、右腰を速く鋭く回転させるイメージでスイングしてみよう。そうすると、コンパクトなバックスイングでも威力を出しやすくなるので、ぜひ実践してみてほしい。
第2回では、ジャアのバックハンドを紹介しよう。
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(取材/まとめ=卓球レポート)