トップ選手同士がお互いのラケットを交換して試打し、打球感や打球スピード、使いやすさなど、相手のラケットを評価し合う新企画「ちょっと、それ貸して!」。第2回は青森山田中学校・高校から東京アートと長きにわたって、チームメート、そして、ライバルとしてしのぎを削ってきた高木和卓と大矢英俊(ともに東京アート)だ。
高木和卓(東京アート) 右シェーク攻撃型。フットワークを生かしたフォアハンドと高い安定性を誇るバックハンドドライブを武器に、ジュニア時代から活躍。中学校時代は全中、全日本カデット(14歳以下)で優勝、高校時代は世界卓球2005上海、2006ブレーメンに出場し、3年生でインターハイ三冠王に輝く。社会人になってからも、世界卓球2007ザグレブに出場したのをはじめとして、東京アートの大黒柱としてプレーを続ける。今季はT.T彩たまの選手としてTリーグにも参戦している。 |
高木和卓の使用用具(総重量=185g) |
ブレード:インナーフォース レイヤー ZLC ZLカーボンを搭載したインナーファイバー®仕様のラケット フォア面ラバー:テナジー05/バック面ラバー:テナジー05 回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー |
大矢英俊(東京アート) 右シェーク攻撃型。コンパクトながらも威力のあるバックハンドと、ダイナミックなフォームのフォアハンドを武器に、前陣でのプレーを得意とする。小学6年生で全日本ホープスの部、中学校時代は全日本カデット(13歳以下)、全中で優勝。同学年の高木和とともに、青森山田、東京アートの主力として活躍してきた。世界卓球2008広州、2009横浜に出場。試合中、ポイントしたときの激しい咆哮から「野獣」の異名を持つ個性派プレーヤー。 |
大矢英俊の使用用具(総重量=183g) |
ブレード:バタフライ特注(ZLカーボンシェーク) |
2人とも素材はZLカーボン
高木和はインナーで大矢はアウター
まずは、お互いの用具で打ってみた感想は?
高木和:大矢君のラケットは全体的にすごい球離れが早いという印象を受けました。球離れは早いんだけど、10年以上使っている古いラケットで、かなり変形していますが、長く使っているおかげで板も柔らかくなっているので、しっかりボールはつかめるという印象を受けましたね。
大矢:僕のラケットは年季が入ってますからね。高木和君のラケットは僕のラケットと比べて、ボールをすごい吸収して放つイメージで、要はスピンをかけやすいラケットです。でも、初速が遅い分、相手に時間を与えてしまうので、威力の面ではちょっとそこまでっていう感じでしたね。
【ドライブ】
弾む大矢ラケットは楽に打てる
弾まない高木和ラケットは回転がかけやすい
高木和:大矢君のラケットはすごく速いですね。僕が6割くらいの力で打っても、このラケット(自分のラケットを指し)で8割くらいの力で打ったときの速さが出るので、打っていて楽という感じがありましたね。
大矢:高木和君のラケットはドライブはすごいやりやすいです。高木和君のラケットは回転重視なので、強くこすればこするほど、どんどんスピンが上がっていくんじゃないかという印象はありました。ただ、僕のラケットに比べると飛ばないので、スピードではなく、回転量の多さで相手のミスを誘うという感じですね。
【つなぎ・ブロック】
コントロールが難しい大矢ラケットと
ブロックがやりやすい高木和ラケット
高木和:大矢君のラケットは弾む分、つなぎにいったボールはオーバーミスしやすいですね。ちょっと回転をかけて沈ませないと、飛びすぎるという印象を受けましたけど。ブロックも飛びすぎる感じですね。でも、中陣くらいまで下がったら、すごい軽く(楽に)飛んでいくので、そういう面では、本当にすごいいいなと思いました。
大矢:卓のラケットはブロックがすごいしやすいです。飛ばない分、吸収して、相手のドライブに回転負けしないので、どんなボールが来てもブロックはやりやすいっていうイメージはありましたね。
【サービス&レシーブ】
サービス、台上プレーは飛ばない高木和ラケットに軍配
コントロールが難しい大矢ラケットは練習でカバー
高木和:サービス・レシーブは、大矢君のラケットの方が球離れがいい分、回転をかけにくいので、短いサービスを出したつもりでも、台から出てしまいましたが、そのへんは練習でカバーです!
大矢:高木和君のラケットは飛ばない分、台上でさばくプレーは、すごくやりやすかったですね。どんなスピン、強い横下などが来ても自分の力で抑えられるような感じだったので、台上の面では問題ないと思います。
【カウンタードライブ】
速さでは大矢ラケット
やりやすさでは高木和ラケット
高木和:大矢君のラケットは、カウンターは本当に速いですね。ただ、相手のボールの回転があるので、自分からも打つとすごく速くいってしまって、オーバーミスしそうで怖かったです。ドライブ打たれたら、ブロックでもカウンターでも打球面をちょっと抑えなきゃだめだなと思いました。
大矢:高木和君のラケットはカウンターは最高にやりやすいですね。飛びすぎないので、少しボールの捉え方を変えれば、フルスイングしても簡単に入りますね。
【アウターかインナーか】
単純だが大きな違いの
通常使用とインナーファイバー®仕様
高木和:どちらのラケットもZLカーボンを使っていますが、僕のラケットはインナーファイバー®仕様で、素材の上にもう1枚木材が入っているので、木材と素材ラケットの間のような打球感だと、あらためて感じました。
大矢:本当に単純なことですが、ZLカーボンが外側にある僕のラケットの方が飛んで、内側にある高木和君のラケットの方が飛ばないんですね。その分、僕のラケットよりも、高木和君のラケットの方が回転がかけやすい。
【ラバー】
『テナジー05』と『テナジー80』の特徴が
2つのラケットの違いを助長している
高木和:やっぱり『テナジー80』は『テナジー05』に比べて直線的に飛んでいきますね。『テナジー05』だと上の方にボールが出るんですけど、『テナジー80』はまっすぐ飛んでいく。ましてや、よく弾む大矢君のラケットだから余計、直線的に飛んでいきますね。
大矢:僕の場合は、(スイング方向的に)下からではなく上からラケットを出すイメージなので、直線的に飛ぶ『テナジー80』の方が使いやすいんですよね。上に飛んでいく『テナジー05』は、僕はちょっと使いづらさを感じました。
僕のラケット、こんな人におすすめします
高木和:僕のラケットは、振り遅れたり、体勢が崩れたりして、ボールがラケットの真ん中に当たらなくても、ボールが上に飛んでいってくれるので、緊張した場面でも入ってくれるし、コントロールがしやすいところが気に入っています。
もちろん、使い慣れているというのはありますが、このラケットで強い相手にも勝ってきているので、そういう面で、自信を持って使っているというか、ラケットを信頼しているというところはありますね。
欲を言えば、ボールを持ちすぎてしまうときがあるので、そういうときだけはもうちょっと飛んでほしいと思います(笑)
大矢:僕はプレースタイル的に回転をかけるタイプではなく、上から早い打球点で前陣速攻で攻めるタイプなので、やっぱり初速が速い方が相手に時間を与えず、得点率を上げることができるんですね。
高木和君のラケットだと回転はかかるんですけど、下から上にこすらないと回転がかけられないので、そういう面ではやっぱり初速が速いラケットの方が僕に合っているんだと思います。回転は高木和君のラケットほどはかかりませんが、相手に時間を与えず、速さで得点を上げていくっていうのが僕のプレースタイルなので、やっぱりこのラケットを信じてやってますね。
ラリー志向の高木和に、前陣速攻の大矢と、対照的なプレースタイルの2人だけに、用具に求めるものにも大きな違いがあることが分かっていただけたのではないだろうか。「自分に合った用具は何か」を考える最大のヒントは、まず「自分はどのようなプレースタイルか」「どのようなプレースタイルを目指しているのか」というところにありそうだ。是非みなさんの今後の用具選びの参考にしていただきたい。
(取材=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 動画=小松賢)