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パリ五輪を振り返る 
田㔟邦史男子NT監督インタビュー(前編)

 日本ナショナルチーム男子監督として初のオリンピックに挑んだ田㔟邦史。東京オリンピックでは水谷隼/伊藤美誠(木下グループ/スターツ)のベンチで混合ダブルス金メダルを獲得している名将は、以前卓球レポートで行ったインタビューで、「選手たちの力を引き出したい」と語ってくれたが、パリ五輪でどれだけ選手たちの力を引き出すことができたのか。
 パリ五輪を振り返るインタビュー(全3回)の前編ではパリ五輪への準備と目標設定、パリ五輪前半の個人種目について聞いた。



この3年間やることをすべてやって、オリンピックを迎えた

----パリ五輪に臨むにあたっての準備と目標設定からお聞かせください。

田㔟邦史(以下、田㔟) 目標は3つ掲げていて、団体の3大会連続のメダル、ミックスダブルスは2大会連続の金、3つ目の男子シングルスは選手個々の目標をかなえる、この3つですね。

----具体的にはどのような準備をして臨みましたか?

田㔟 いいシードを獲得するということで、男子のチームランキングずっと5位だったので、それを4位に上げる。ミックスダブルス(張本智和/早田ひな)はずっと3位だったので、それを2位に上げる。シングルスについては、できる限りランキングを上げ、いいシードを獲得していく、というところですね。
 それを考えればパリまでの準備については、全てやるべきことはできたと思います。というのも最後の最後、WTTスターコンテンダーバンコク(2024年7月2〜7日)まで国際大会が続きましたが、団体ベスト4シードとミックスダブルスの第2シードを獲得できたので、最後まで諦めずに国際大会に参戦したことには意味があったと思います。
 国内の選考会や国際大会もありましたが、その合間で、国際大会から帰ってきて、トレセン(味の素ナショナルトレーニングセンター)に帰国翌日から入って1週間だけでも合宿をして、また国際大会に参戦してを繰り返し、強化を進めこの3年間はずっと止まらずにやり切ったと思っています。

----それでは田㔟監督自身としては、やり残しはありませんでしたか?

田㔟 はい、全然ありません。本当にこの3年間はやることをすべてやってオリンピックを迎えたという感じです。

----少し前後しますが、メンバーの選考について、特に、3人目の選考についてどのような要素を重視したか、選手たちの技術やコンディション、チーム全体の戦略において重視したポイントなどを挙げていただけますか。

田㔟 団体はダブルスで勝つことが重要だと思っていました。今までも男子団体でメダル取ってきたのは、ダブルスを取って、エースが全勝というパターンが多かった。リオの時もそうだったし、東京の時もそうだったので、智和(張本智和)をエースとしてダブルスを取ることって考えると、戸上(戸上隼輔)が国内2番目だったので、3番目は左(左利き)かなとは考えていました。
 その中で、パリの選考は国内の選考と決まり、2年かけてやってきました。今までの選考は世界ランキングを重視してきた中で3番目はそのまま世界ランキングで選んでいたと思います。しかし、今回は国内の選考会を2年間もやってきましたしその結果を参考に3番目(選考ポイント3位)の篠塚を選びました。

混合ダブルスは実力を全く発揮できないまま終わってしまった

----混合ダブルスは予想外の1回戦敗退というスタートになってしまいましたが、日本チームの立ち上がりとしてはいかがでしたか?

田㔟 1回戦が北朝鮮ということで一気にナーバスになったと思います。我々は最後に第2シードを勝ち取り、勢いにも乗っていたし、全体的なドローを見てもこちらの山に韓国ペアも中華台北ペアも入ってこなかった。パッと見たら銀メダル以上の可能性は高いと思ってもおかしくないドローでした。第2シードを獲得することにはやはり意味があったと思いました。
 しかし、最後に北朝鮮が入ってきて、どんな相手かも分からないし、何も参考になるものがなかったから、本当にやってみないとわからなかったというところでした。
 だから、戦術はやって初めて組み立てていかなきゃいけない。そういった部分でやりづらい相手だったと思います。戦術をしっかりと組み立てることができたら、間違いなく2人のメンタルは安定していたでしょう。戦術的な部分で組み立てを考えることができなかったから、おそらく2人は雑念の方が大きくなっていったと思います。
 対戦してみると、非常に相手の完成度が高くその高さに僕たちが更にプレッシャーを感じてしまった。何をしなきゃいけないかわからないまま個で戦ってしまった試合内容でした。個の実力を合わせペアの強さとして発揮することができないまま終わってしまったという感じですね。

----選手たちもメダル獲得を狙って臨んでいたと思いますが、選手たちの様子はいかがでしたか?

田㔟 混合ダブルスでいいスタートを切りたいと思っている中での敗戦でしたから間違いなくショックだったと思います。前回大会も金メダルを取っているし、自分たちもやってやるぞという強い気持ちを持って戦った中での初戦敗退ですから。
会場もとても盛り上がっていました。負けたことでオリンピックという緊張感がすべて背中にのしかかってきたんじゃないでしょうか。
 メダルを期待された中で取れなかったしそういうニュースも流れる中、それも見なきゃいけない、シングルスと団体では絶対にメダルを取らなきゃいけないと考えると、ミックスの負けは大きな敗戦と衝撃だったと感じます。

実力を発揮できないまま初戦で敗れてしまった張本(右)/早田(写真提供=ITTF)


張本は樊振東戦のプレーができるポテンシャルを秘めている

----次は男子シングルスに出場した張本選手と戸上選手のプレーを総括していただけますか?

田㔟 智和は東京の時ベスト16で今回はベスト8で前回大会を上回りました。ドローはしようがないですけど、東京五輪が終わってからは変な取りこぼしがなくなってきたので、それを考えるとこの3年で成長したんじゃないかなと思います。
 樊振東(中国)との試合までしっかり勝ち上がることができ、樊振東が金メダルを取るまで3ゲームを取ったのは智和だけだし、改めて高いポテンシャルを持っていることを証明したと思います。
 ただ、樊振東に対しては自分のプレーをしやすいというところもあると思います。気持ち的にも向かっていける格上の相手ですし、あれだけのプレーができるということは、自分の気持ちをコントロールすることで誰とやってもあのプレーができるということだと思います。

----田㔟監督から見て、今ある差をひっくり返すには何が必要だと思いますか?

田㔟 あの試合は樊振東が素晴らしく、リスペクトするしかないと思います。やっぱり強い。智和が何本もいいボールを打っているのにもかかわらずミスせず質の高いボールを返してくる。
 ラリーの中でもミスしないし、コースの判断もミスしないし、頭の回転も速く、球質も高い。だから、本当に1本が遠い。
 見ていると確かにもう1歩だとは思いますが、やっぱり樊振東の方がまだ上だったと感じます。しかし、あの場所であの内容の戦い方ができることは自信を持っていいとも思います。勝ち切るためには更に意識レベルを上げ、レベルの高い練習、試合を繰り返していくことが必要だと思います。

----その後、団体戦を迎えるにあたって張本選手の戦いぶりはどうでしたか?

田㔟 頼もしかったですよ。その前に王楚欽(中国)が負けて、「今度は樊振東か?」というのも観客も分かっているし、「これは智和が勝つんじゃないのか?」という会場の盛り上がり方でしたから。残念ながらミックスは負けましたけど、シングルスであの試合ができたことで、団体戦がとても楽しみだなと思っていました。

張本のシングルスの戦いぶりに「団体戦が楽しみだった」と田㔟監督(写真提供=ITTF)

戸上のさらなる成長のためには経験と卓球への理解力が必要

----戸上選手についてはいかがでしたか?

田㔟 初めてのオリンピックでしたが調整も上手くいき、非常に調子が良く、いいプレーをしてくれたと私は思っています。
 中国選手のいないブロックでしたからチャンスではありましたが、まずは格下に負けずちゃんと行くところまで行ったと思います。
 ‪張禹珍(韓国)‬と対戦したときに戦い方、サービスの組み立てに迷いが生じ、間違えてしまった場面がありました。格上の選手と対戦し、戦術をちょっと変えられた時、雰囲気が変わった時、状況判断がまだ戸上には不足していたかなと思います。‬‬
 さらなる成長のためにはそのような場面を多く経験する事と卓球への理解力が必要ですが、徐々に良くなってきていると思います。この3年で世界ランキングも上がり格上の選手にも勝つなど実績を積んできました。今後もその実績を積み重ねていくことが重要と考えます。

----戸上選手は自信を持ってラケットを振っているときは自分の展開でプレーできていましたね。

田㔟 そうですね。ただ、オリンピックは最後まで自信を持って振れるようなレベルの大会ではありません。思うようにできない苦しい状況になったときに、自分がどのように考えプレーしていくかが戸上の今後の大きな課題です。
 だから今回、戸上がオリンピックが終わってすぐにオクセンハオゼンに行くと判断したのはいい事だ思っています。海外に一人で行って、自分で料理もして、言葉の問題も自分でなんとかして、生活も試合も含め、全部が経験だし、その積み重ねで考え方や視野がどんどん広がる。そうして視野が広がることで卓球にもいい影響をもたらしてくると思います。‬今後の彼の成長が楽しみです。

----団体戦に向けてのプレーという点では戸上選手はどうでしたか。

田㔟 ‪張禹珍‬には負けましたけど、ずっと調子が良さそうだなと思っていました。シングルスの戦いを見て、2人(張本、戸上)とも行くところまで行きましたし、2人とも楽しみだなという感じでしたが、篠塚が団体まで試合がなかったので、調子はどうかな、というぐらいですかね。
 現地で練習もトレーニングも十分できていたので、あとは試合の雰囲気をつかませるために仲間の応援をさせたり、他の試合を見たりして一緒に会場の雰囲気をつかませたりしていましたが、あとは実際にコートに立ってみての感覚というのが正直なところでした。

中編に続く

男子シングルスベスト16の戸上には「行くところまで行った」と田㔟監督(写真提供=ITTF/ONDA)

(取材/まとめ=卓球レポート)

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