松山祐季(愛知工業大学) 右シェーク攻撃型。名古屋の名門卓伸クラブ出身。豊富な運動量とダイナミックな両ハンドドライブでラリー戦を得意とするガッツマン。ジュニア時代からカテゴリーのトップクラスをキープし続け、愛工大附属中、愛工大名電高時代は主力兼ムードメーカーとして活躍し、同校のインターハイ連覇を牽引した。現在は、愛知工業大学2年生。 |
松山祐季の使用用具(総重量=190g) |
ブレード:インナーフォース レイヤー ALC アリレート カーボンを搭載したインナーファイバー®仕様のラケット フォア面ラバー:テナジー05/バック面ラバー:テナジー05 回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー |
宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園) 左シェーク攻撃型。バンビ、カブ時代からセンスフルな両ハンドプレーで全国優勝を果たし、一躍注目を浴びた。その後も、全日本選手権大会(カデットの部)13歳以下、14歳以下を制し、全国中学校大会でも優勝。打球点の早いバックハンドに、両ハンドのパワーが加わってきたことで、高校2年生の現在も急成長中。 |
宇田幸矢の使用用具(総重量=195g) |
ブレード:バタフライ特注(ZLカーボンシェーク/インナーファイバー®仕様) |
松山はインナーALCに両面『テナジー05』
宇田はインナーZLCに両面『テナジー05ハード』
総重量とラバーの違いが大きく影響
まずは、お互いの用具で打ってみた感想は?
松山:とにかく「重い」というのが第一印象ですね。重量的には5グラムの差ですけど、全然違いました。宇田のラケットは僕には重すぎて振れません。でも、自分のラケットと比べて、重くて硬い分、威力や球の伸びはすごいありました。
宇田:松山さんのラケットは僕のラケットよりも軽いので、前陣で振る分には早く切り返せますが、後陣から打つ場合は、ボールも少し軽くなっているかなという印象がありました。ラバーの違いもあると思いますが、速いボールが飛んでも、威力という点で軽いボールになっている気がしました。
松山:いや、俺のラケットが軽いんじゃなくて、これ(宇田ラケット)が重いだけだから(笑)。ただ、『テナジー05ハード』の方が『テナジー05』よりも、厚く当てて打てば打つほど球が伸びていく感じですね。
【ドライブ】
速さの松山ラケット、回転量の宇田ラケット
松山:宇田のラケットは、ワンコースでドライブを打つ分には本当に威力が出て、言うことがないくらい性能が高いと感じました。でも、試合ではいつも十分な体勢で同じ打ち方で打てるわけではありません。例えば、相手のブロックが早く返ってきたり、ミドルをフォアハンドで打つときなど、速くスイングしたいんですが、ラケットが重いと振り遅れてしまいます。いい体勢で打てなかった時にミスしたり、ボールが浅くなってしまったりするので、試合で使うことを考えると、僕にはちょっと難しいかなと感じました。
宇田:僕のラケットの方が重いボールは出せると思いますが、松山さんのラケットの方が速いボールは出ると思います。松山さんはボールの速さを大事にしているんだと思いますが、僕は、ドライブに強い回転をかけて相手のミスを誘ったりするタイプなので、速さよりもボールの回転量と重さを重視しています。
【カウンタードライブ】
威力では宇田ラケット
安定感では松山ラケット
松山:宇田のラケットは、回転がかかるのと同時に相手のボールの回転の影響もすごく受けやすいので、自分のラケットと同じ感覚で打つと「当てたら落ちる」みたいな感じですごく難しかったです。でも、回転はすごくかかるので、相手のドライブを回転をかけて抑えようとすると、相手のコートですごい伸びる感覚がありました。ただ、扱いやすさという点では、やはり、自分のラケットの方がボールが思い通りに台に入ってくれるという感覚はありますね。
宇田:飛び方は僕のラケットよりも松山さんのラケットの方が安定しています。ただ、僕は『テナジー05ハード』の方がボールがラバーに食い込んでくれて、相手のコートに着いたときにボールが伸びてくれるイメージがあるので、自分のラケットの方がやりやすいですね。
松山:宇田の場合は特にカウンター系のプレーをよく使うので、そうかもしれませんね。
【ブロック】
使いやすさで松山ラケットに軍配
松山:ブロックは宇田のラケットで一番やりづらい技術でした。硬くて飛んでいかないという印象ですね。ドライブやカウンターの威力という点では優れていますが、ラバーが硬い分、食い込みがよくないので、相手のボールを利用するのも難しく、ブロックは慣れが必要だと感じました。
宇田:僕もブロックに関しては松山さんのラケットの方が使いやすくて、自分の思った通りのボールが出せました。僕のラケットはラバーが硬いので、相手のボールの回転に影響されやすく、難しいかもしれませんね。
【サービス】
回転量、コントロールともに宇田ラケット
松山:サービスは断然、宇田のラケットの方がよかったですね。見ていても分かったと思いますが、回転量が全然違いました。ラバーが硬くなるとこんなに回転がかかるんだと驚くくらい切れました。切れるから、ボールが前に飛んで行かないので、ショートサービスは確実に台に収まりますし、そこは僕のラケットでは及ばなかったです。
宇田:僕もどちらかと言ったら自分のラケットの方がよかったですね。松山さんのラケットは、強く当てて回転をかけると、2バウンド目が(相手コートで)台から出てしまうことが多くて、自分のラケットの方が思い切り回転をかけやすいです。
【ストップ】
ストップも台から出にくい宇田ラケットが優勢
松山:ストップもサービスと同じような感じで、宇田のラケットは思い切り回転をかけても、台に収まってくれるので、やりやすかったです。
宇田:松山さんのラケットは、やはり、ラバーが軟らかい分、弾んでしまって台から出やすかったですね。これも自分のラケットの方がやりやすかったです。
【ツッツキ】
コントロールと安定感で松山ラケット
松山:宇田のラケットは、回転がかけやすいのは間違いないんですが、ツッツキに関しては、軟らかいラバーの方が深いところを狙いやすいですね。宇田のラケットは飛ばない分、浅くなることがありました。コントロールはちょっと難しいです。やりづらいという程ではありませんでしたが、慣れが必要ですね(笑)
宇田:ツッツキに関しては松山さんのラケットがやりやすかったです。僕のラケットだと、回転を強くかけようとしてオーバーミスしてしまうことがありますが、松山さんのラケットは安定した飛び方をしてくれるので、自分でコントロールしやすかったと思います。
【チキータ】
やりやすさでは松山ラケット
威力では宇田ラケット
松山:チキータは宇田のラケットはチキータに威力が出ますね。強く当てれば当てるほど、回転量が上がって威力が出ます。回転をかけて深いところに飛ばすといいボールが出ますね。ただ、本当に強く当てないと、すべって落ちたりしてしまうことがあるので、やりやすさは自分のラケットの方が上だと思います。チキータは難しい技術なので、威力よりも安定感を重視したいですね。
宇田:松山さんのラケットはチキータはやりやすいですね。やりやすさだけで言ったら松山さんのラケットですが、僕はチキータを試合で重視しているので、4球目やそこからのラリーのことを考えたら、レシーブで強いチキータが打てる僕のラケットの方がいいですね。
【実戦編】
用具交換マッチは両者引き分け
同じ用具でも選手によって感じ方は違う
松山:用具を替えて実際に試合をしてみると、プレースタイルが変わりましたね。宇田のラケットでやりやすいやり方になってしまいます。僕は本来はラリー志向ですが、先ほど述べた通り、宇田のラケットはサービスやレシーブがやりやすいので、台上や3球目で早めに決めてしまおうという意識になりました。
宇田:前陣でプレーするときは松山さんのラケットの方が軽いので、フォア・バックの切り替えがやりやすいと思いました。ただ、後陣に下がると、あまり威力が出ないので、打ち抜けないことが多かったので、自分のラケットの方がよかったですね。
松山:宇田のラケットは前陣の方がやりやすくない?
宇田:僕のラケットは重いから、前陣で速いカウンターの方が難しくないですか?
松山:カウンターは難しいけど、台上プレーはやりやすい。俺は逆に、後ろに下がると宇田みたいな重いラケットは振り切れないからきつい。感覚が全然違う(笑)
【素材の違い】
弾みの『ZLカーボン』とコントロールの『アリレート カーボン』
松山:僕も以前は『ZLカーボン』のインナーファイバー®仕様のラケットを使っていましたが、どちらもボールをつかむ感覚があり、自分に合っていると感じています。違いとしては『ZLカーボン』の方が少し弾みがあるので、力がなくても飛んで行くという感じですね。
宇田:松山さんのラケットの『アリレート カーボン』の方が、飛んでいかない分、自分でコントロールできるので、すごくやりやすかったです。自分のラケットは少し弾みが強い『ZLカーボン』プラス『テナジー05ハード』なので、球の速さが一定にならないところがあり、安定感には少し欠けると思いました。
【まとめ】
僕の用具の組み合わせ
こんな人におすすめです
松山:自分はどちらかというと台から下がってラリー戦重視のプレーをするので、少しラバーが軟らかくて飛ばせる感じの方が合っていると思ってこの用具を使っています。やはり、後陣からでも自分の力で強く打てば打っただけボールが伸びてくれるので、自分に合った用具だと信じて使っています。
この用具は、パワーがあって、ラリー志向のスタイルの選手にお勧めします。早く決めるというよりは、長々とラリーして(笑)、点数を取っていくタイプの選手は安定して使えると思います。
宇田:僕は相手の戦術によって、ピッチの速いカウンター系でいく場合もあれば、少し下がってフォアハンドで強く打つ場合もあるので、全体的にバランスのいい、後ろでも威力が出せて、前でもカウンターをしたいという選手に向いていると思います。ただ、このラケットは重いので、振り切れるパワーがある人にはいいと思います。
【おまけ】
サイドテープはどうつける?
松山選手はよくカドる?
松山:自分はサイドだけつけています。全部巻くと打球感がこもったり、飛ばなくなったりする感覚があるので、全部は巻いていません。基本的には、台上プレーで強く切ったときなどにラケットが台に当たることがあるので、ラケットが壊れたりしないようにサイドにだけつけています。
宇田:僕はサービスを出すときなど、ウエアに当たってラバーが剥がれることがあるので、それを予防するために全体に巻いています。松山さんのサイドだけ部分的にテープがついているのはちょっと違和感を感じました。松山さんはバックハンドもフォアハンドもよくカドる(ラケットの角にボールが当たる)のでここだけサイドテープが貼ってあるのかと思いました(笑)
今回は、ともにインナーファイバー®仕様のブレードに両面『テナジー05』の松山選手と両面『テナジー05ハード』の宇田選手と、ラバーの違いが際立つ内容となった。ハードヒッターのイメージがある松山選手よりも、カウンタープレー中心の宇田選手の方が重い用具を使いこなしているという意外な点にも、さまざまなプレースタイルの選手が用具に求める多様性の一端がうかがえたのではないだろうか。
(取材=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 動画=小松賢)