~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は、卓球と勉強の関係について、宮﨑強化本部長が持論を展開する。
●戦術を考える力は勉強によって培われる
小学生の頃、勉強でも宮城県でトップクラスの成績を収めていた
近年の日本のカデット(中学生以下)やホープス(小学生以下)など若い世代の選手たちの試合を見ると、そのレベルの高さに驚かされます。それは、選手たち本人の日頃の努力に加え、指導者や保護者など周囲のサポートの賜物でもあるでしょう。
若い世代の選手たちが強くなっていくためには、練習で技術や体力を高め、試合で経験値を積み上げていくルーティンが欠かせません。しかし、より成長するためには、卓球だけでなく、卓球以外のことにも力を注ぐことが必要です。
その一つが、勉強です。
今回は、勉強が卓球で強くなるためにどう関わるのかについて、私なりの考えをお話ししたいと思います。
今回は勉強がテーマですが、私は教職者ではなく、日本卓球界の強化が職務です。そのため、「学生の本分は学業だから勉強と卓球は両立させるべきだ」と弁を振るうつもりはありません。勉強をテーマに取り上げたのは、卓球にとって、勉強から得られるメリットが大きいからです。
勉強が卓球に与えるメリットとは、ずばり「考える力が養われる」ことです。
卓球は対人競技である以上、戦術が勝敗を大きく左右します。試合で勝つためには、相手の弱点を探し、自分の強みを生かせるようにサービスの組み立てやコース取りなどを考えなくてはなりません。試合中だけでなく、事前に対戦相手の特徴を踏まえて戦術を立てたり、負けた試合を分析し、再び負けないための対策を練ったりするためにも、考える力を磨くことは必須です。
そして、考える力を養うために最も適したトレーニングが、勉強なのです。
「卓球で考える力を磨くには卓球が一番いいのでは?」という意見もあると思います。確かに、卓球の練習や試合で考える力をつけていくことは欠かせません。
しかし、勉強では、数学の方程式を解いたり国語の文章を理解したり地理を覚えたりと、いろいろな頭の使い方が求められます。そのため、卓球に専念するだけでは得られない幅広い物の見方や考え方のトレーニングを、勉強によって行うことができます。
勉強で養った考える力は、相手の弱点や戦術を見抜いたり、試合で窮地を脱するためのひらめきなど、卓球のさまざまな面でプラスに働くはずです。
勉強に真摯に取り組むことは、考える力を磨くだけでなく、卓球への向き合い方にも必ず好影響を与えます。
上を目指す選手であれば、「勉強の方が卓球よりも好きだ」という人は多くないでしょう。勉強する時間があったら卓球したいと思うのは当然のことです。しかし、卓球したい気持ちをぐっとこらえ、勉強に集中するよう自分をコントロールすることにより、卓球に対してより集中して向き合うことができるようになりますし、冷静に試合を進めるための自制心も磨かれると思います。
私が今回述べたいのは、「勉強ができなければ卓球は強くなれない」ということではありません。私が強調したいのは、成績はどうであれ、数学の問題や国語の文章の意味を分かろうとするために頭を使うことは、卓球の戦術を立てる上で効果的なトレー二ングになるということです。
昨今の卓球人気により、今の日本には選手が幼い頃から卓球に興味を持ち、卓球に本腰を入れて打ち込むための環境が整っています。それゆえに、有望な選手やその保護者、指導者は卓球だけに専念しがちです。
しかし、ここまで述べたように、勉強には、卓球に明け暮れるだけでは得られないメリットが少なからずあります。
より上を目指すのであれば、ぜひ卓球の練習だけでなく、勉強にも目を向けて、強くなるために必要な「考える力」を養ってほしいと思います。
(取材=猪瀬健治)