~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は、ホープスの選手を強化するにあたり、生活面でのアプローチについて宮﨑強化本部長が話してくれた。
●歯磨き講習で選手たちの自立心を育む
前回は、勉強と卓球について私なりの見解を述べました。勉強でさまざまな教科に取り組んで頭を使うことは、卓球の戦術を考える上でとても有効なトレーニングになります。
しかし、強くなるためには勉強に加え、日々の生活にも注目してほしいポイントがあります。
今回は、ホープス(小学生以下)ナショナルチームの強化合宿で行なっている選手たちの生活面に関わる取り組みについて紹介しましょう。
卓球に限らず、スポーツ全般に言えることですが、選手が強くなるためには「自立心を養う」ことが不可欠な要素の一つです。自分の力で物事を進めていこうとする気構えを持つことは、日々の練習への取り組みや試合における技術や戦術を決断する上で大きなプラスになります。
そして、選手たちの自立心を養うことを目的にホープスナショナルチームの強化合宿で行なっているのが、"歯磨き講習"です。
歯磨きを日々きちんと行うことは、大人はそれほど難しいことではありませんが、小学生にとっては簡単ではありません。特に、年齢が低いほど、疲れていたり、時間がなかったりすると歯磨きがおろそかになりがちです。
その歯磨きを、親や保護者に指摘されてからでなく、自ら進んで規則正しく行えるようになることは、自立への第一歩です。
規則正しい歯磨きが習慣化すれば、夜に歯を磨いたら夜更かしをせずすぐに寝て朝早く起きるなど、生活のサイクルも自然と規則正しくなります。規則正しい生活が送れれば、卓球の練習や試合にもより充実した状態で臨むことができるようになるでしょう。
また、歯磨きを習慣化すると、「今日は歯を磨くと痛いな」「今日は歯茎から血が出ている」など、自分の体調の変化を感じることができます。 その日のコンディションの良し悪しを敏感に感じ取り、それに応じてパフォーマンスを組み立てることは、アスリートに必要な条件の一つです。 自分のコンディションがどうなのかを感じ取れるよう、体調の変化について幼い頃から意識させる上でも、歯磨きは有効な手段だと思います。
規則正しい歯磨きを習慣化することは、自立心や体調の変化に対する意識を芽生えさせることに加えて、「練習時間の損失を防ぐ」ためにも効果的だと考えています。
詳しくは専門家に譲りますが、5歳から8歳くらいまでの歯、つまり小学生の歯は、乳歯や生えたばかりの永久歯の表面が未熟な時期です。したがって、この時期に歯磨きをしっかり行って虫歯を防ぎつつ歯の質を高めておかないと、中学生や高校生になったときに虫歯になりやすい歯になってしまいます。
虫歯になれば痛いですから歯科医で治療しなければなりません。歯科医にかかれば、その分、練習する時間が減り、必然と強くなるための時間も少なくなってしまうのです。
「歯科に行く時間くらい大丈夫なのでは?」と思われるかもしれません。しかし、歯が痛ければ治療にかかる時間だけでなく、その前後の時間も練習に100パーセント集中して取り組むことは難しいでしょう。虫歯にかかる時間をトータルで見れば、失われる練習時間の量は決して無視できません。
そうした、虫歯によって将来起こるかも知れない練習時間の損失を防ぐ上でも、"歯磨き講習"をホープスナショナルチームの強化合宿に取り入れることは意義のあることだと考えています。
「たかが歯磨き」と思われるかも知れませんが、これまで述べたように、歯磨きが卓球に間接的に与える影響は少なくありません。
この連載をご覧になったホープスの選手やその保護者、指導者の皆さんには、ぜひ規則正しい歯磨きの習慣化を意識していただき、充実した状態で卓球に取り組んでほしいと思います。
(取材=猪瀬健治)