インターハイチャンピオンにして、全日本ジュニアチャンピオンの座に輝いた戸上隼輔(野田学園高校)は今、何を思うのか。昨年末からの自身の成長を振り返るとともに、高校最後の1年、そして、これからの目標を聞いた。
世界ジュニアを経験したからこそ
全日本ジュニアでも優勝できた
昨年、2018年アジアジュニア王者の向鵬(中国)は三度(みたび)戸上の前に立ちはだかった。
「去年のアジアジュニア選手権大会の団体戦で1対3で負けたのが最初ですね。それから、世界ジュニア選手権大会でも団体とシングルスの両方で負けて、とても悔しい思いをしました。
世界ジュニアという大舞台で勝ちたかったというのが本当のところですが、負け方はよくなってきていて、やっていくうちにどんどんチャンスが増えてきていました。それで、4度目の対戦となった2月のチャレンジプラス・ポルトガルオープンの21歳以下の決勝でやっと勝つことができたんです。
今までの3試合があったからこそ、相手の考えていることや弱点がわかってきて、中国選手に対する恐怖もなくなり、強気でプレーできました。その結果が3対0という結果につながったんだと思います。うれしかったし、自信にもなりました」
そう語る戸上からは、また一つトップ選手の階段を、今まさに上りつつあるという印象を受けた。世界ジュニアでは日本の主力として存分に実力を発揮した同級生の宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)の陰に隠れてしまった感のある戸上だったが、翌月の全日本卓球選手権大会ではその盟友・宇田にジュニアの部の決勝で逆転勝ちを収めて初優勝を果たした。
「世界ジュニアの悔しさを経験したからこそ、全日本のジュニアでも優勝できたんだと思います。
インターハイでは優勝できましたが、エリートアカデミーの選手、特に同期の宇田選手も出場する全日本ジュニアの部で勝って初めて『高校生日本一』になれると思っていたので、気合いは入っていましたね。
ただ、それまでの対戦成績は2勝8敗くらいで宇田に負けていましたし、宇田は世界ジュニアでも決勝まで行っていて勢いもありました。だから、僕の方が不利かなと思う部分は正直言ってありました」
そうした本人の思いを反映したからだろうか、試合は宇田の猛攻の前に下がってプレーする戸上が終始押される展開で2対0と宇田がリード。この流れを変えることは難しいと多くの観客が感じていたのではないだろうか。だが、その時、戸上の胸中にこんな思いがよぎる。
「宇田は決勝までオール3対0で勝ってきていたので、このまま勝たせたくない、1ゲームでも取りたいという気持ちが湧いてきたんです。張本(智和。木下グループ)が優勝した時(平成29年度全日本卓球選手権大会ジュニアの部)も、僕が負けてオール3対0で優勝されてとても悔しかったのを思い出して、インターハイ王者としてもこのままジュニアの部を終わらせてはいけないと思いました。
でも、3ゲーム目も全然冷静にプレーできていないくて、ポイントが0-3になった時に橋津先生がタイムアウトを取ってくれました。ここで『まだ終わってないぞ』という先生の言葉で目が覚めました。
何かを変えないと勝てない、攻撃的なプレーを捨ててでも変えないとだめだと思って、チキータから無理に攻めていた展開をやめて、タイムアウト以降は、とにかく前にへばりついて、自分からは無理して攻めずに相手に攻めさせることを心がけてプレーしました」
思い切った戦術転換が流れを変えた。戸上の大胆な戦術変更に対応しきれなかった宇田は、調子を狂わされたのか、これまでの好調が嘘のようにミスを重ねた。ゲームカウントは2対2となった。
そして、最終ゲームは息を吹き返した戸上が攻撃的なプレーを取り戻して圧倒した。念願の「真の高校生日本一のタイトル」を手にした瞬間だった。
勝てたらラッキーという甘さがあった
頂上への一本道は決して単調な上り坂ではない。今年3月、世界卓球2019ブダペストの最終選考会に出場した戸上は、1回戦でまたしても宇田との対戦を制したが、超えるべき壁はいくらでもある。
「この1回戦には絶対に勝つという強い気持ちで臨みました。全日本で勝てたのが偶然でなかったことを証明するためにも、この試合で勝たないとだめだと思いました。その気持が結果につながったんだと思います。
2回戦の相手は平野友樹(協和発酵キリン)さんと森薗政崇(岡山リベッツ)さんの勝った方だったので、自分の試合が終わった後に、その試合を見ていました。平野さんとは対戦したことがありましたが、0勝2敗で、勝ったことがありません。引き出しが多くてやりづらいと感じていたので、できれば平野さんとはやりたくないなと思っていました」
果たして、ゲームオールジュースの大接戦を制して勝ち上がってきたのは森薗だった。苦手の平野との対戦を避けることができた戸上は、悪くない展開で試合を進める。
「森薗さんとはそれまで1勝1敗でしたが、思い切ってプレーしました。集中もしていたし、途中まではプレー内容もよかったと思います。
でも、今でもはっきりと覚えていますが、3対2の6-3でリードしていた場面で、集中力がプツンと切れて、そこから少しずつおかしくなっていきました。勝ちを意識してしまったのと同時に、隣で試合をしていた吉田雅己(岡山リベッツ)さんと松平賢二(協和発酵キリン)さんの試合が気になってしまったんです。ラリー戦が多くて会場も結構盛り上がっていて、自分が対戦したくないと思っていた吉田さんが勝ちそうな流れで、できればやりたくないな、などと先のことを考えてしまったのが集中が切れた原因だったと思います。
あの時のことは今でも後悔しています。自分の試合に集中すべきでした。
それに、吉田さんに勝ったことはありませんが、自分には勢いもあったし、やってみないとわからなかったという思いもあります。
でも、選考会そのものに対して、心のどこかで勝ち残れたらラッキー、という軽い気持ちで臨んでいたというのは今になってあらためて思います。そういう甘さがあったのは事実ですね」
Tリーグで勝てないとプロとしてはやっていけない
戸上の積んだ経験の一つとしてもう一つ無視できないのがTリーグの存在だ。
「シーズンの途中からT.T彩たまのメンバーとして、シングルスに2試合出場しました。12月の岡山リベッツ戦がデビュー戦でしたが、吉田雅己さんと対戦して、ここで勝っていかないとプロとしてやっていけないのかという厳しさを痛感しました。
2月には、木下マイスター戦で水谷隼さんに勝つことができて、自信をつけることができましたが、トップレベルの選手とプレーをして、このTリーグという舞台で勝たないと、自分としてもさらに上のレベルの選手にはなれないということを思い知らされました」
舞台は違えど、戸上は、吉村真晴(名古屋ダイハツ)、丹羽孝希(スベンソン)、張本智和に次いで、全日本王者の座に就いてからの水谷を破った3人目の高校生以下の選手ということになる。この金星がいかなる強さの証左になるのか、あるいはフロックに終わるのかはこれからの戸上次第ということになるだろう。
この用具でなければ速さや鋭さが欠けてしまう
戸上はもう4年にわたって同じ用具を使い続けているという数少ない選手の一人だ。用具に対するこだわりのなさゆえに、同じ用具を使い続ける選手もいるが、戸上は違う。
「僕がバタフライの用具を使い始めた中学2年生の全日本後からです。それ以来ずっと今の用具を使い続けています(ブレード=『張継科ZLC-FL』、ラバー=両面『テナジー05』)。僕はチャンスがあれば、ガンガンフルスイングで振っていくスタイルなので、そういうスタイルに見合った攻撃的なボールが打てる用具の組み合わせだと思います。サービス、レシーブのコントロールもよく、台上プレーも攻撃的なボールだけでなく、ストップやツッツキもやりやすいので、僕にはとても合っていると感じています。
これ以外の用具も試したことはありますが、どの用具にしても、僕の今の持ち味である速さや鋭さが欠けてしまいます。僕のように両ハンドを振り抜く選手にはお勧めの組み合わせです」
戸上隼輔のように両ハンドを振り抜ける選手と言われて、なかなか自分がそれに当てはまると思える読者は決して多くはないだろうが、戸上のような超攻撃的なプレーを目指したいという選手もトライしてみてはいかがだろう。
挑戦者、最後の1年
この春、戸上は高校3年生になった。高校最後の1年が始まり、「高校生日本一」の看板を背負う戸上には、多くの期待が寄せられている。
「いろいろな方からも言われていますが、この1年が一番伸びる時期だと自分も思っているので、やれることは全部やるつもりです。高校を卒業したらプロ卓球選手としてやっていきたいので、自分が挑戦者としてプレーできるのはこの1年が最後になります。技術面もメンタル面もしっかり伸ばして、次のステージへの準備をしっかりしたいですね。
インターハイでは、もちろんシングルス2連覇が目標ですが、ダブルスのタイトルも取りたいし、まだ野田学園が取ったことのないインターハイの学校対抗のタイトルも、自分にとっては最後のチャンスなので、なんとしても取りたいですね。
今年はチャンスを逃しましたが、来年は絶対に世界卓球に出たいです。そして、世界卓球やワールドツアーで結果を出していって、2024年のオリンピックに日本代表として出られるように頑張っていきたいです」
戸上の鋭い両ハンドが世界の強豪たちに襲いかかる時は、もうそこまで来ている。
戸上隼輔:https://www.butterfly.co.jp/players/detail/togami-shunsuke.html
(文=佐藤孝弘、写真=岡本啓史、佐藤孝弘)
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