~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回から、世界卓球2019ブダペスト(個人戦)の評価や感想について宮﨑強化本部長が話してくれる。
日本は、運や勢いに頼ることなく
メダルを獲得できる地力が備わってきた
4月21日から28日まで、ハンガリーのブダペストで世界卓球選手権大会(個人戦)が行われました。この世界卓球2019ブダペスト(以下、世界卓球)へ日本代表総監督として帯同した立場から、日本の評価や課題、世界の動向などについて、複数回にわたっていろいろな角度からお話ししていきたいと思います。
まず、日本の全体的な評価から述べましょう。
今回の世界卓球における日本は、女子ダブルスで銀メダルと銅メダル、混合ダブルスで銀メダルと、合計で3つのメダルを獲得しました。5つのメダルを獲得した前回のデュッセルドルフ大会に比べてメダル数が減ってしまったことは反省すべき点です。
ただし、前回は中国が種目によってはベストメンバーで臨んでいなかったという点は、考慮すべきでしょう。前回の世界卓球で中国は、男子ダブルスでは中国選手同士のペアだけでなく他国の選手と組んだ国際ペアをエントリーし、混合ダブルスでは国際ペアのみをエントリーしました。このことで、前回は日本にとってメダル獲得のチャンスが増えていました。しかし、来年に東京オリンピックを控えた今回の世界卓球では、中国は全ての種目でベストなメンバーをエントリーしてきました。
前回より強敵が増えたトーナメントにおいて、男子シングルスと男子ダブルスではメダルを獲得できませんでした。その点で、男子に対しては厳しく評価せざるを得ません。その一方、女子はシングルスこそメダルを逃しましたが、タフさが増したトーナメントでも女子ダブルスでは、前回以上の活躍でメダル2個を勝ち取りました。この点は評価できます。
今大会の女子ダブルスでメダルを獲得した早田ひな/伊藤美誠、橋本帆乃香/佐藤瞳の両ペアは、決勝まで中国ペアと当たらないドローになり、混合ダブルスで銀メダルを獲得した吉村真晴/石川佳純も決勝まで中国ペアと当たらないドローになって、運も味方しました。しかし、それは彼らがより良いシードを得るためにワールドツアーでしっかり成績を出し続け、ランキングを上げてきた成果でもあります。
特に、早田ひな/伊藤美誠は、孫穎莎/王曼昱(中国)との決勝で素晴らしいプレーを見せてくれました。不運な判定もあり、惜しくも優勝はなりませんでしたが、金メダルに十分値するプレーだったと思います。
ここ数年、日本は世界卓球の個人戦でメダルを取っていますが、その始まりは、世界卓球2009横浜の男子ダブルスにおける岸川聖也と水谷隼の銅メダル獲得です。岸川と水谷が横浜でメダルを獲得して以降、日本は世界卓球の個人戦でメダルを途切らせていません。
岸川と水谷がメダルを取るまでの日本は、男女とも低迷していた苦しい時代でした。そこから岸川と水谷が抜け出して以来、メダル獲得が継続していることは、世界卓球2009横浜の当時、男子ナショナルチーム監督として岸川や水谷らと一緒にもがいていた私にとって感慨深いものがあります。
世界卓球でメダルを継続して獲得とはいうものの、前回の世界卓球までは、選手たちの頑張りはもちろんたたえられるべきですが、それに加えて、運や勢いもあったかと思います。
しかし、今回の世界卓球でのメダル獲得は、ここ最近の選手たちの国際大会での成績と照らし合わせれば、自他ともに納得できる結果だったと言えます。
今回の世界卓球では、この連載の前回でお話しした金メダル獲得は果たせず、前回デュッセルドルフ大会よりもメダル数が減りました。
しかし、その一方、運や勢いだけではなく、実力通りの力を発揮してメダルを勝ち取った選手たちを見て、「日本はいよいよ実力でメダルを取れるようになってきたな」という手応えを感じた世界卓球でした。
次回は、世界卓球から見えた世界の勢力図について、私見を述べたいと思います。
(取材=猪瀬健治)