~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回からは、世界卓球2019ブダペスト(個人戦)の男子シングルスについて宮﨑強化本部長が振り返ってくれる。今回も、前回に引き続いて、水谷隼(木下グループ)について述べていただいた。
世界卓球2019ブダペストにおける水谷隼の二つの敗因
前回に続き、世界卓球2019ブダペスト(以下、世界卓球)の男子シングルスについて振り返ります。
今回は、水谷隼について述べましょう。
1月に行われた全日本卓球選手権大会の男子シングルスでV10を達成し、日本の大黒柱として世界卓球の男子シングルスに臨んだ水谷でしたが、3回戦で鄭榮植(韓国)に敗れました。
鄭榮植は最近になって力をつけており、水谷にとって分があまり良くない相手でした。序盤は水谷が2ゲームを連取し、ペースを握りましたが、中盤以降、鄭榮植の武器であるブロックにつかまってしまいました。水谷も鄭榮植によくついていってゲームオールまで持ち込みましたが、最終ゲームの序盤、不運なネットインが続いたことに加え、勝負どころで打ちミスも重なって、わずかに届きませんでした。
水谷の上位進出を期待していただけに3回戦敗退という結果は残念でしたが、試合は、水谷が日本の第一人者であることを示すハイレベルな内容だったと思います。
世界卓球における水谷の状態は悪くなく、水谷と対戦し慣れている鄭榮植にわずかに軍配が上がりましたが、あえて私が感じた水谷の敗因を二つ述べたいと思います。
一つは、「スタミナ不足」です。
今回の世界卓球の初戦でコートに立った水谷を見た時、私は「隼、痩せたな」という印象を受けました。
本人としては俊敏に動けるよう体重を減らし、理想の体にシェイプアップしてきたのだと思いますが、私はいつもより線が細くなった水谷を見て、トップ選手同士の激しい戦いで最後までスタミナ、つまり持久力が持つのかどうか不安を感じました。鄭榮植との試合は、この危惧が的中してしまったと思います。
序盤は軽快に動いていた水谷でしたが、最終ゲームでは足がピタッと止まってしまいました。足が動かなくなり、必然と技術や戦術の質も下がったところを鄭榮植に突かれてしまいました。最終ゲームで水谷の足が止まってしまったのは、体を絞ったことによるスタミナ不足が一因にあると分析しています。
とはいえ、体を絞ることは決して悪いことではなく、瞬時に素早く動くためには、体重を減らして体を絞ることが欠かせません。しかし、必要以上に体を絞ると、俊敏性は向上する半面、持久力は低下してしまいます。
俊敏性と持久力のバランスを取るのは難しいものですが、水谷には今回の敗戦を踏まえ、ぜひ俊敏性と持久力の両立を見据えて調整を行ってほしいと思います。
スタミナ不足に加え、指摘しておきたいもう一つの敗因が、「終盤での打ちミス」です。
皆さんもご存じの通り、水谷は守備力が高くてテクニックが多彩な上に、とても頭の良いプレーヤーです。そのため、水谷は序盤から攻撃力で相手を圧倒するというより、相手の傾向を見ながら試合を進めていきます。優れた守備力とテクニック、観察眼をベースに序盤で相手の傾向を探り、終盤に相手を見切って勝つという戦い方は、水谷の真骨頂です。
その一方、序盤で自分からあまり攻撃せずに相手の様子を見ることが多いため、水谷には「終盤にいざ攻撃しようと思うとミスが出る」という傾向があります。この傾向は、私が男子ナショナルチームの監督で水谷がまだ高校生だった頃から見られました。
水谷は鄭榮植との最終ゲームの序盤、大事な場面でチャンスボールを打ちミスしました。あの攻撃ミスは、先に挙げたスタミナ不足も関わっていますが、彼の良くない傾向が表れてしまったシーンだったと思います。
試合では、序盤である程度攻撃して体を慣らしておかないと、終盤にいざ攻撃しようと思っても体がスムーズに動かずにミスが出やすくなります。相手を見ながら試合を進めるのは水谷の持ち味ですから変える必要はありませんが、今後は、序盤に少しだけ積極性をプラスしてほしいと思います。
今回の世界卓球では3回戦で敗れてしまいましたが、来たるべき2020年東京オリンピックの日本男子にとって、水谷の力と経験は代えが利きません。水谷には、ぜひ今回挙げた敗因と向き合ってほしいですし、彼なら難なくクリアしてくれると信じています。
(取材=猪瀬健治)