~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回からは、世界卓球2019ブダペスト(個人戦)の男子シングルスについて宮﨑強化本部長が振り返ってくれる。今回は、森薗政崇(BOBSON)と吉村和弘(東京アート)について述べていただいた。
ボルに力負けした森園政崇。スタイルチェンジにトライしてほしい
前回に続き、世界卓球2019ブダペスト(以下、世界卓球)の男子シングルスについて振り返ります。
今回は、森薗政崇と吉村和弘についてお話しします。
森薗は、今回の世界卓球で男子シングルスのほか、男子ダブルス、混合ダブルスの3種目に出場しました。出場種目が多くて調整が難しかった中、男子シングルスで3回戦までしっかり勝ち進んだことは大いに評価すべき点です。
3回戦では、森薗がボル(ドイツ)に対してどこまで迫るか注目しましたが、結果は残念ながら完敗でした。
サウスポー(左利き)でどちらかというとラリー型のボルは、プレースタイルが森薗と似ています。スタイルが似ている上に、体格と経験で勝るボルは、森薗にとって難しい相手でした。森薗は持ち味であるフットワークを使ったフォアハンドドライブでボルと果敢に打ち合いましたが、ボルにことごとくはね返され、勝機を見いだせませんでした。
この試合で森薗は、「フットワークを使ってフォアハンドで押していく」という自分のスタイルに壁を感じたと思います。しかし、壁にぶつかったのなら、それを越えるようスタイルをチェンジすればいいと思いますし、森薗にはそれができるだけの気持ちの強さと技術や戦術のポテンシャルがあると思います。
森園の身近には、前陣バックハンドを武器にする張本智和(木下グループ)やカット性ブロックなどのトリッキーなショットを見せる丹羽孝希(スヴェンソン)など、壁を越えるためのヒントになる選手がたくさんいます。
ぜひ、森薗にはスタイルチェンジにトライして、「ニュー森薗」を見せてほしいですし、今回の敗戦をブレークスルーの転機として役立ててほしいと思います。
素晴らしい内容だった吉村和弘
今後も集中した練習を継続的に行ってほしい
和弘(吉村)は、2回戦でカルデラーノ(ブラジル)に敗れましたが、素晴らしい内容でした。豪打を誇るカルデラーノに対し、和弘ほど打ち合える選手は、日本はもちろんのこと、世界を見渡してもそうはいません。
早いラウンドで負けはしましたが、和弘対カルデラーノの2回戦は、ベスト8決定戦あるいはベスト4決定戦レベルの試合内容だったと評価しています。
和弘は、世界卓球の代表に選出されて以来、精神的に強くなり、それが今回の世界卓球でもプレーに表れていました。味の素ナショナルトレーニングセンターでの日本代表合宿や世界卓球直前での和弘の練習を見ましたが、彼の練習態度からは鬼気迫るものを感じました。
個人的に、両ハンドのしなやかさやボールの切れなど、和弘の持つポテンシャルは日本で限りなくナンバーワンに近いと思っています。
和弘には、今後も世界卓球前のように鬼気迫る集中力で練習を行ってほしいですし、それが継続できれば、彼はそれこそ鬼のように強くなると思います。
2回戦敗退とはいえ、世界トップレベルと遜色ないプレーを見せた和弘に、あえて課題として指摘しておきたいのは、「フルスイングしすぎる」ことです。
和弘のシャープなフルスイングは彼の魅力であり武器ですが、ラケットを思い切り振ると、打ち終わった後にどうしても体のバランスが崩れやすくなります。また、フルスイングすると体力を使いますから、試合の後半になるにつれて必然と体のバランスが崩れるケースが多くなります。
スイングをもう少しコンパクトにまとめるか、あるいはフルスイングに耐えられるよう筋力を強化するのか、方法はいくつかありますが、いずれにしても、フルスイング後に体のバランスが崩れる課題が改善されれば、和弘はさらに伸びるでしょう。
(取材=猪瀬健治)