ディグニクスというラバーの特徴を、株式会社タマス(バタフライ)研究開発チームの研究員たちに聞いた。回答者は、ディグニクス開発に特に大きく関わった3人だ。
まずは、研究開発チームのマネジャーである土屋祐一(つちや・ゆういち/写真左端)。2010年に新たなスポンジの開発に着手し、9年にわたってディグニクスの開発に関わってきた。土屋が研究を重ねたスポンジは「スプリング スポンジX(エックス)」としてディグニクスの大きな特徴となっている。
その土屋とともにスポンジの開発段階から携わってきたのが、山田伸仁(やまだ・のぶひと/写真右端)。スポンジ開発のほかに、シートの開発、スポンジとシートを組み合わせた時のバランスを研究。初期サンプルの作製に大きく関わり、いわば、ディグニクスの生みの親だ。
三人目は福田知由(ふくだ・ともよし/写真中央)。サンプルに改良を加えることで、量産する上でのさまざまな課題を解決し、製品化を推し進めた。ちなみに福田は無類の卓球好きで、時間を見つけては練習に励み、最低でも月に1度は試合に出場している。
さて、ディグニクス開発の背景には、2008年にリリースした「テナジー」に対する選手たちの評価がある。
土屋「テナジーを選手たちに受け入れてもらうことができたことで、テナジーに取り入れた技術を進化させれば、もっといいラバーになるのではないか、と感じました。今までにないものを作りたいという思いで、それまでよりも多くの人員、開発費を投入し、多くの選手の協力を仰ぎました。水谷隼選手(木下グループ)、岸川聖也選手(ファースト)、ボル選手(ドイツ)、荘智淵選手(中華台北)、フレイタス選手とアポロニア選手(ともにポルトガル)など、国内外のトップ選手の評価を取り入れながら開発を進めました。ある選手が試打して『すごい。何でも入る』も言ってくれた時は、本当にうれしくて、励みになりました」
ディグニクスを語る上で外せないのはスポンジだ。テナジーの「スプリング スポンジ」からさらに進化した「スプリング スポンジX」が使われている。
山田「スプリング スポンジ(テナジーのスポンジ)の良い部分は、スポンジが変形しやすく、弾みがよいこと。そのふたつはある意味で矛盾することなんですが、それを両立できたところが、スプリング スポンジの良さです。であれば、そのよい部分をさらに伸ばせば、もっといいスポンジができるのではないかと思ったのが、開発のスタートでした。スプリング スポンジX(ディグニクスのスポンジ)は、スプリング スポンジの良いところを引き継いで、さらに高めることができたと思っています」
ディグニクスのシート(トップシート)も新たに開発されたものだ。
福田「スポンジの弾みがとても良いぶん、シートは球持ちが良くなるように配合(ゴム製造の工程で、原料ゴムに異なる物質を加えること)を工夫しました。しっかりとボールをつかむような感覚がある新開発のシートも、ディグニクスの大きな特徴ですね」
山田「実は、開発段階で選手に試打してもらった時に『弾みすぎる。球持ちが悪くて回転をかけづらい』という厳しい評価になったことがあったんです。それを解決するために、スポンジを薄くしてみたり、いろいろなツブ形状を検討してみたり、かなり苦労しましたが、最終的にはシートの配合を調整することで、球持ちのよいラバーに仕上げることができました」
なお、ディグニクスには、打球時の性能のほかに、シートの摩耗耐久性が高いという特徴がある。つまり、従来のラバーに比べて長持ちしやすいのだ。
福田「ディグニクスは、従来のラバーに比べてシートの摩耗耐久性が上がりました。今までと比べて表面が丈夫にできています。耐久性は、これまでの2倍以上ですね。最初から摩耗耐久性を向上させることを目的にしていたわけではありませんが、球持ちなどの性能の向上を目指していろいろな材料配合の検討を続けた過程で、摩耗耐久性を向上できるような技術も見つけることができました」
文=川合綾子
写真=佐藤孝弘