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ちょっと、それ貸して!! 
第7回 鬼頭明 × 橋津文彦

トップ選手同士がお互いのラケットを交換して試打し、打球感や使いやすさなど、相手のラケットを評価し合う人気企画「ちょっと、それ貸して!」。第7回はスピンオフ企画として、愛知工業大学卓球部総監督の鬼頭明氏と野田学園高校卓球部監督の橋津文彦氏という2人のトップ指導者に登場いただきました。


鬼頭明(愛知工業大学総監督)
左シェーク攻撃型。愛知県出身。現役時代はダブルスの名手として知られ、全日本卓球選手権大会男子ダブルス優勝2回、混合ダブルス優勝2回、ジャパンオープン男子ダブルス優勝、プロツアー・グランドファイナル(現:ワールドツアー・グランドファイナル)男子ダブルス準優勝、アテネオリンピック男子ダブルスベスト16など活躍。指導者としては、吉村真晴吉田雅己らを率いて2013年、2015年の全日本大学総合卓球選手権大会(団体の部、通称インカレ)で優勝。世界卓球2017デュッセルドルフでは吉村真晴・石川佳純のベンチコーチとして混合ダブルス金メダル獲得を支えた。2019年は愛知工業大学の総監督としてインカレで初の男女アベック優勝を果たした。

鬼頭明の使用用具
ブレード:ビスカリア - FL
アリレート カーボンを搭載した攻撃用シェークラケット
フォア面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー
バック面ラバー:テナジー05 (トクアツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー

橋津文彦(野田学園高校監督)
右シェーク攻撃型。山口県出身。柳井商業高校(現:柳井商工高校)3年生の時に中国高校卓球選手権大会で三冠王に輝く。明治大学2年生の時に指導者への道を志し、大学卒業後、指導者として東洋大姫路、仙台育英を経て、野田学園では創部2年でチームを全国高等学校選抜卓球大会優勝に導く。教え子には岸川聖也、平野友樹、吉村真晴(野田学園高校在学中に全日本チャンピオンとなった)、戸上隼輔らがおり、高校卓球界の第一人者として活躍中。著書に「橋津文彦の強豪チームであり続けるために」がある。

橋津文彦の使用用具
ブレード:インナーフォース レイヤー ZLC - FL
ZLカーボンを搭載したインナーファイバー®仕様の攻撃用シェークラケット
フォア面ラバー:テナジー05(トクアツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー
バック面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー

【指導者としての用具アドバイス】
選手のパワーによって用具の硬さを変えるようにアドバイス(鬼頭)
中高生は体の成長につれて硬めの用具にしていくように指導(橋津)

卓レポ 選手に用具に関するアドバイスをすることはありますか?

鬼頭 私は選手のパワー、スイングスピードなどによってラケットやラバーの硬さを変えた方がいいというアドバイスはします。
 例えば、力がある選手には硬いラバーやラケット、力がない選手にはやわらかいラバーや薄めのラバー、やわらかいラケットを勧めたりしています。また、スピードを重視する選手には硬い用具、安定性を求める選手には「つかむ感覚」のあるやわらかめの用具を勧めることもあります。

橋津 僕は中高生を教えていますが、中学生は特に新しいラケットやラバーが発売されたら、すぐに使いたがる傾向があります(笑)
 今、明が言ったように、学年が上がって体ができあがってきたら硬めのラケット、ラバーにシフトしていくように指導しています。
 最近ではバック面にテナジー05を使っていたのをディグニクス05に変えて、ラリーに強くなったという選手は多いですね。

鬼頭 僕自身も選手時代はレベルが上っていくにしたがって、ラバーをどんどん硬くしていきました。
 今、愛知工業大には世界で戦う選手がいます。その選手はもともとテナジー80やテナジー64といったやわらかめのラバーを使っていましたが、海外の選手の回転のかかった威力のあるボールに対して、回転をかけ返そうと思うと、やはり、やわらかいラバーではネットミスをしたり、打ち負ける傾向があります。そうした選手にはテナジー05やディグニクス05などの硬めのラバーを勧めて、カウンターがよくなった、得点に結びつくようになったという結果は実際に出ていますね。

橋津 僕は身長があまり高くありませんが、中学生も、バックハンドを打つ時にラケットがボールの後ろから出るようなスイングになります。そういう選手にはディグニクス05の方がテナジー05より断然使いやすいですね。何でも入ってしまう感じで。
 逆にフォア面でテナジー05を使うと、自然にラケットが下から出やすくなるので、フラットに打つクセがついている中学生などは、ドライブを覚えるのには適していると思います。
 僕は選手として初期の導入の部分から、回転をかけて打てるようにテナジー05を使うのがいいと考えています。

【フォアハンド】
弧線を描く安定の橋津ラケット
鬼頭ラケットはカウンターがやりやすい

卓レポ ラケットを交換してみて、いかがでしたか?

鬼頭 今使っているラケットの前に使っていたのが橋津ラケットと同じインナーフォース レイヤー ZLCだったんですが、やはりいいですね。球持ちがすごいよくて、僕自身のプレースタイルにはこっちの方が合ってると思いました。すごい使いやすかったです。
 僕は台から少し距離を取って、今の選手よりは打球点を落として、しっかり回転をかけるプレースタイルなので、直線的なボールよりは弧線を描くようなボールの方が安定します。重いボールも出せるこのラケットは違和感なく使えました。

 普段は、多球練習の球出しや基本練習やフットワーク練習の相手でブロックをするくらいで、今日みたいに練習することはないので、用具の力で打てるビスカリアやディグニクス05を使っています。その方が楽なので(笑)
 どちらもいいラケットですが、元々の僕のプレースタイルからするとインナーフォース(橋津ラケット)の方が使いやすいかもしれないですね。

 橋津ラケットはツッツキ(下回転)打ちもやりやすいですね。安定するし、回転もかかるし、ミスも少ないです。自分でコントロールできる感覚がありますよね。
 カウンターも、しっかり引きつけて回転をかけることができれば、何でも入るという感じです。ちゃんと自分のポジションで、自分の力で打つことができれば、自分でコントロールできるし、全部入れられるという安心感があります。
 引き合いは、ボールのスピードはビスカリア + ディグニクス05の方があるかもしれませんが、インナーフォース + テナジー05の方が竸った場面でも必ず入れられるという安心感、安定感がありますね。
 実際に試合で緊張した場面、例えば、ゲームオールの9対10というミスができない状況では、橋津ラケットの方が入れられるという感じがします。
 あとは選手のプレースタイルにもよりますね。前陣で速さを主体にして戦う選手なのか、中陣でヨーロッパ選手のように両ハンドで回転をかけていく選手なのか、プレースタイルによって適した用具は変わってきますから。

橋津 明が全部喋っちゃったよ、人の分まで(笑)
 僕はやっぱりスイングスピードは明と比べてだいぶ遅いので、この鬼頭ラケットでフォアハンドドライブを打つとボールをガッツリつかみ切る前に飛んでいってしまうという印象を受けました。
 カウンターは打ちやすかったですね。日頃はカウンターの練習なんて全然していないので、自信はありませんでしたが、こんなに入ると思っていませんでした。振れば入るという感じでしたね。テナジー05と比べて、ディグニクス05は相手コートの深いところに入っているという印象でした。

【バックハンド】
回転のかけやすいテナジー05
スピードのディグニクス05

橋津 最近はバック面はディグニクス05しか使っていませんでしたが、それと比べるとやはりテナジー05はボールが上に出ます。
 僕みたいに身長があまり高くないと、バックハンドを打つ時にボールの後ろに入ってしまう(打球点が顔の前辺りになってしまう)ので、下から上にスイングしにくく、(鬼頭ラケットの)テナジー05だと自分でしっかり回転をかけるのに難しさを感じましたね。
 ツッツキ打ちや少し台から下がって回転をかける時はやりやすかったですが、前についた時は(自分の)ディグニクス05の方が使いやすいですね。
 ドライブに対するブロックもディグニクス05の方が使いやすいですね。

鬼頭 結構ミスしてたよね。あれは技術?

橋津 (胸を押さえながら)いや、メンタル(笑)

鬼頭 普段はバック面はテナジー05ですが、(橋津ラケットの)ディグニクス05は当てたら入ってくれるので、ブロックはすごくやりやすかったんですけど、下回転のボールを打つ時に、球離れがよくて、僕にとっては少し出過ぎる感覚があって、やや不安でした。
 僕は自分から回転をかけていくタイプだから、こすり過ぎちゃうんですね。ディグニクス05だとこする瞬間に球が離れていく気がしました。ボールはいつもより速い感じがしますが、やはりテナジー05の方がやりやすいと感じました。
 カウンターは入っている時はいつもより鋭いボールが入る気がして、あまり力を入れていないのに勝手にボールが飛んでいっているという、自分の腕で打っていないような不思議な感覚がありますね。練習だったら気持ちよく打てるかもしれないですけど、自分のプレースタイル的に「安心してしっかり回転をかけられる用具」を好んでしまうので、自分が使うならテナジー05という気がします。
 ただ、最近の選手はプレーが速いので、何本連打しても間に合うピッチでプレーするならディグニクス05の方が合ってるのかもしれませんね。

【サービス・レシーブ】
橋津ラケットは台上の安定感
鬼頭ラケットはテナジー05で回転がかけやすい

鬼頭 インナーフォース(橋津ラケット)の方がビスカリアより、木がやわらかい感じがするので、台上はすごいやりやすいですね。 相手のボールの威力を吸収しやすいので、ストップはより止まるし、自分でコントロールできるので、ただ止めるだけではなくて、切ることもできます。
 チキータは、僕は選手としてはやる時代ではありませんでしたから、まねしてちょっと回転をかけるだけですが、(自分の)テナジー05の方が、台上で回転をかけやすい気がします。ディグニクス05はスピード系で、どちらかというとボールが直線的に飛ぶので、特にネットの近くで下回転系サービスに対して打つチキータはネットミスしやすくなりますね。台上は全体的にテナジー05がやりやすいと思います。
 サービスは、回転のかけやすさはどちらのラケットも同じくらいですが、インナーフォース(橋津ラケット)の方がコントロールしやすいですね。ボールが暴れない感じがします。

橋津 個人的にはテナジー05(橋津ラケット)の方がディグニクス05よりもサービスは切りやすいと感じました。テナジー05はツッツキも切れるし、チキータなど(ラバーに)引っ掛けて打つ技術はテナジー05が一番やりやすいと思いました。

【ディグニクスの耐久性】
テナジー05の倍は持つ(橋津)

橋津 テナジーよりディグニクスの方が長持ちしない?

鬼頭 そうかなあ? 一度貼ったら2、3カ月貼りっぱなしだからよくわからないけど(笑)

橋津 倍は持ちますよ。テナジーを1カ月で貼り替える選手だったら、ディグニクスは2カ月は持ちます。シートの表面が擦れないですね。同じ時期に貼り替えたテナジーと比べたら、テナジーの方は摩耗で白っぽくなっても、ディグニクスはきれいなままの状態ですね。

鬼頭 僕は多球練習の球出しとかで、端っこが欠けてきたりして、2、3カ月たったら「そろそろ替えようかな」という感じなので気づきませんでした(笑)

【橋津ラケット】
しっかりした打球感でドライブを覚えるのに最適

橋津 僕のラケットは中高生にお勧めする組み合わせでもあります。早い段階からフォアハンドドライブのしっかり回転をかける打法を身につけるためには、テナジー05というラバーが最適だと考えています。
 バック面は、ディグニクス05によって、体が小さい選手でも回転をかける感覚をつかんでセンスが磨かれていく。ディグニクス05はそういうラバーだと思います。
 最近はボールもプラスチック製になって、用具も重くなってきているので、重いラケットを振り回そうと思うと、どうしてもグリップ(握り方)が深くなってきます。その点、インナーフォース レイヤー ZLC - FLはグリップが細くて握りやすいので、中高生に向けてのお勧めの1本になります。
 打球感がしっかりあって、回転がかけやすいこの組み合わせで、最初からドライブを覚えるのが上達の最短距離だと思います。

 明が教えてる大学生と違って、中高生は体が大きくなるし、フィジカルも強くなっていきます。それを目の当たりにする6年間なので、最初はインナーフォースを使う選手が多くて、だんだん硬めのラケットになって、戸上くらいスイングスピードが速い選手になると張継科 ZLCまで行く選手もいますが、その中間でビスカリアを使っている選手もたくさんいます。打球感に関しては「好み」だと思いますが、野田学園ではフォア面は全員がテナジー05かディグニクス05、バック面は体が大きくなってきて、スイングの軌道が変わるにつれて、テナジー64からテナジー80、あるいはディグニクス05という流れが多いですね。

【鬼頭ラケット】
世界で勝つためのラケット

鬼頭 大学生に限らずトップ選手にお勧めしたいのが僕の使っているビスカリアにフォア面ディグニクス05、バック面テナジー05の組み合わせです。なぜお勧めかというと、ずばり世界で勝つためです。
 ヨーロッパ、中国、韓国などのトップの選手は、パワーも回転も威力もある。そういう選手たちに勝とうと思ったら、より硬いラバー、ラケットで打ち返す、打ち合う必要がある。そこで負けてしまったら、日本のトップクラス、世界のトップクラスにはなれないので、やはりこのラケットを使いこなせるようにならないと世界では勝てない。
 ディグニクス05はテナジー05に比べて、より直線的で速いボール、深いボールが入る。これはドライブの一撃や前陣でのカウンタープレーで得点を取ることができます。
 バック面のテナジー05は、今はできない選手がいないチキータですが、このチキータで回転をかけて先手を取って、フォアの一撃、カウンターにつなげていく。より弾むラケットで打ち合いに勝つ。これらの観点から、これがベストの用具だと思っています。
 中国選手でも、バックハンドは凡ミスが少なく安定志向で、台上でしっかり仕掛けてチャンスをつくる。そして、足を使って最後はフォアハンドの一撃で決めるというのが基本ですね。バック面もディグニクス05にすると、バックハンドの威力は高まりますが、不安定になりやすいので、テナジー05で台の中でしっかり回転をかけて、コースを突いてチャンスをつくる。そういうプレーをするためにはこういうハードで性能のいいラケットとラバーを使っていくことが必要だと思います。

橋津 スイングスピードの速い、パンチ力のある鬼頭選手みたいな人にベストの1本ですね(笑)

鬼頭 (笑) でも、橋津ラケットの方が、僕のプレースタイルには合っていまいした。トップ選手でもインナーフォースを使っている選手は何人もいますね。ボールの回転量や重さという点ではそれほど差はないと思いますが、反発力の高いビスカリアだと初速が速いんですね。そのため、前で打ち合おうとするとラリーのピッチが速くなります。
 前陣両ハンドで速いピッチについていける選手であれば当然ビスカリアでプレーしてもいいと思いますが、足を使ってフォアハンド主体でプレーしたいという選手には、ビスカリアだとフォアハンドに結びつける時間が少し作りにくいかもしれません。一方、インナーフォースは初速はそんなに速くないけど、回転はかけやすく、安定して、フォアハンドに結びつけやすい。
 また、ボールをつかむ感覚があるので、回転を自分でかける感覚がない、弱いという選手には、回転がかけやすく、安定するインナーフォースを勧めています。選手のプレースタイルによって適した用具は違うということですね。

【まとめ】
完璧な用具はない(鬼頭)
用具を研究することも重要(橋津)

鬼頭 すべての用具に完璧はないんですよね。回転がかけやすかったら、スマッシュは打ちにくいとか、ブロックはやりやすいけど、カウンターがやりにくいとか、いい部分もあれば悪い部分もあるものです。
 ですからその選手のプレーの特徴、ブロックが主体なのか、ドライブが主体なのか、ラリー主体なのか、その選手が試合で一番使う技術によって用具の硬さや厚さを決めるといいのではないでしょうか。
 例えば、ドライブが得意でブロックが苦手な選手が、テナジー05からテナジー64にラバーを変えたとします。それで確かにブロックは安定するかもしれませんが、その選手の主戦武器だったドライブが安定しなくなるかもしれません。そうなっては意味がないので、その選手が得点源にしている一番よく使うプレーを基準に考えるのがいいと思います。

橋津 鬼頭さんのおっしゃる通りです(笑)
 鉄板にラバーを貼ってミートしたらすごい飛ぶけど、回転をかけようと思ったらかけにくい。一方で、ベニヤ板にラバーを貼ってミートしたら全然飛ばないけど、回転はかけやすい。ラケットの硬さとラバーの組み合わせのバランスに加えて、自分のスイングスピード、スイング方向など、相性がいい用具に出会うまでは、いろいろ試してみて「これだ!」というものを見つけてほしいですね。
 技術が向上していったり、体が強くなっていったりすると、技術や戦術、点の取り方によってベストの用具も変わってきます。用具を研究することも強くなる上では重要な要素なので、用具選びにも取り組んでいただきたいと思います。


 さまざまなプレースタイル、身体能力、体格の選手たちを指導する立場の2人だけあって、用具についての知識はとても豊富だ。そして、卓球という競技スポーツにおいて用具がいかに重要かを熟知している。その2人が口をそろえて、基本的な指針としているのが「パワー(スイングスピード)」と「用具の硬さ」の関係だ。パワーがある選手には硬い(=弾む、球離れが速い)用具、パワーがない選手にはやわらかい(=回転がかけやすい、コントロールがしやすい)用具が適しているというのは、ほとんどの選手に当てはまる用具選びの基本と言っていいだろう。
 もし、自分に合っている用具が分からないと思ったら、自分のパワーと用具の硬さという基本に立ち返って、用具選びをしてみてはどうだろうか。

(取材=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 動画=小松賢)

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