※この記事は2020年3月13日に取材した内容をまとめたものです
平野友樹(協和キリン)
右シェーク攻撃型。栃木県出身。ガッツあふれる前陣プレーで難敵にも挑みかかるファイター。平成19年度全国中学校大会男子シングルス優勝。平成22年度インターハイ男子ダブルス優勝。平成24年度、25年度全日本大学総合卓球選手権大会男子ダブルス優勝。平成27年度全日本選手権大会男子シングルス3位。
平野友樹の使用用具(総重量=185g)
ブレード:ビスカリア - FL
アリレート カーボンを搭載した攻撃用シェークラケット
フォア面ラバー:テナジー05(トクアツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー
バック面ラバー:ディグニクス09C (トクアツ)
粘着力と弾みを高次元で両立した粘着性ハイテンションラバー
右シェーク攻撃型。福岡県出身。ダイナミックな両ハンドドライブの威力は国内随一。思い切りのいいプレーでチームを牽引する。平成23年度インターハイ男子ダブルス優勝。平成25年度、26年度全日本大学総合卓球選手権男子ダブルス優勝。平成25年度全日本学生選抜選手権男子シングルス優勝。2017年USオープン男子シングルス優勝。
有延大夢の使用用具(総重量=192g)
ブレード:特注(ZLカーボンシェーク/インナーファイバー®仕様)
ZLカーボンを搭載したインナーファイバー®仕様の攻撃用シェークラケット
フォア面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー
バック面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー
【用具遍歴】
平野はスピード志向から回転志向へシフト
有延は打球感重視から相手のミスを誘える用具重視に
卓レポ これまでの用具遍歴を簡単に紹介してください。
平野 僕は中高生まではそれほど用具は意識していませんでしたね。水谷(隼/木下グループ)さんのラケット(水谷隼ZLC)が出てからは、ZLカーボンのラケットを使っていました。当時は回転のことはあまり念頭になくて、飛ばすことだけを重視していました。
大学に入ってから、もっと回転をかけて安定させないといけないと感じるようになって、アリレート カーボンなどいろいろなラケットを試して、ラバーも硬くしてみたりしました。
それから、完全に回転系の志向に変わったのが、プラスチックボールに変わった時で、その時にラケットをインナーフォースZLCにしました。
最近は、インナーフォースでは飛びが物足りなくなってきたので、去年、ビスカリアが新しく発売された時に、使ってみたかったというのもあったので、ビスカリアに変えました。
ラバーは去年からは、ずっとディグニクス05を使ってきて、ボールが少し上に出過ぎる感覚があったので、フォア面は再度テナジー05を試しているところです。バック面は、自分はバックハンドの決め球があるわけではないので、より回転がかけやすいラバーにしようと思った時にちょうどディグニクス09Cが出たので、今試しているところです。ちょっと今はお試し期間中という感じですね。
有延 僕はプラスチックボールに変わってからずっとインナーファイバー®仕様のZLカーボンラケットを使用しています。友樹さんもこのラケットをずっと使っていましたね。
平野 最初は真晴(吉村/名古屋ダイハツ)が使いだして、それで打たせてもらったら初めての感覚だった記憶があります。それまでずっと、アウター仕様の飛ぶラケットしか使ったことがなかったので。
有延 僕も使い始めたのはその頃ですね。インナーフォースのボールをつかむ感覚のよさを感じてから、ずっと使っています。
ラバーは最初はテナジー05でしたが、ディグニクス05に変えたポイントは、相手が受けるボールを意識したことですね。それまでは、自分の打球感が良い悪いだけで判断していましたが、ディグニクス05だと、テナジー05よりも回転の変化が激しいので、相手のミスを誘えるようになると期待して変えました。今は、自分のことよりも、相手がどういうボールを受けるかというのを想像しながら用具選びをしています。
インナーフォースにディグニクス05はどちらも回転がかかる用具なので、自分が「回転がかかったな」と思うところで、相手がブロックをオーバーミスしてくれることが多く、相手のミスを拾える組み合わせになっていると思います。
卓レポ 平野選手は最近、後輩に用具のアドバイスを受けたそうですね。
平野 そうなんですよ! 戸上(隼輔/明治大)に、ドヤ顔で「友樹さん、今の時代は硬いラバーに軟らかいラケットです」って。
有延 「時代」ですか?
平野 そう。全日本3位の選手のアドバイスだからと思って、テナジー05ハード試してみたんだけど、全然合わなくて......。俺のプレースタイルが時代に合ってなかったみたいです(笑)
【お互いのラケットの第一印象】
バック面に09C!? という驚き
平野 ZLカーボンのインナーフォース仕様のブレードに、両面ディグニクス05を貼った有延のラケットは、回転がかかりやすい分、飛距離が出ないという印象でした。
有延 平野さんのラケットは、「ディグニクス09Cをバック面に貼るんだ!?」というところに、まず驚きました。僕の中ではディグニクス09Cはフォア面に貼って、しっかり回転をかけるようなラバーだと勝手に思っていたので、友樹さんがバックに貼っていて、驚いたのと同時に、どんな感じになるんだろうと楽しみでした。
実際に打ってみると、ディグニクス09Cは他のラバーと全然違いますね。フォア面のテナジー05とバック面のディグニクス09Cでまったく違ったボールが出るので、相手が受けるボールの印象は変わってくるのかなと感じました。
フォアは結構早いタイミングで出て、バックはゆっくりとまではいきませんが、しっかり放物線を描いて台に入ってくれる印象ですね。斬新ですよね、この組み合わせ。
平野 いいでしょ?
【フォアハンド】
平野はラケットの弾みで
有延はパワーで威力を出す
平野 有延のラケットは、スピードドライブはちょっと難しいかなという印象ですね。回転がかかる分、スピードが落ちるのは仕方ないと思います。ただ、安定はしてくれるので相手のコートに入る安心感はあります。
カウンターはやりやすい印象を受けました。回転がかかる分、ネットより低いボールでも持ち上げたら入ります。
ループドライブは質が高いボール打てますね。ちょっと台から出てきたボールに対しても、低くて回転量の多いループドライブが打てます。
引き合いは飛ばすのが難しいですね。入ったらいいボールになりますが、体全体を使わないとスピードは出せないですね。
有延 平野さんのラケットはめちゃくちゃ飛びますね。球離れが早くて「ヒュー」って飛んでいくようなイメージですね。放物線を描くよりは、どちらかというと直線的なボールになります。
ミスの不安はありますが、入った時はすごい早いボールが入るし、決まってくれるだろうという期待はありますね。
カウンターは、速いボールが打ちやすいですが、素直にまっすぐ飛んでいくので、体勢を整えて、正しい打球点、スイングスピード、ラケット角度で打たないと入らないですね。
引き合いはめちゃくちゃやりやすかったです。ラケット自体が弾むので、下がっても飛んでくれる。僕が使っているディグニクス05の場合は高い弧線を描いて深いところに入ってくれますが、相手からも同じようなボールが返ってくるので、頭よりも高い(打ちづらい)打球点で打つような時もあります。テナジー05の場合は、比較的まっすぐ飛んでいってくれて、相手からもきれいなボールで返ってくるので、ラリーは続きますね。
平野 プレースタイルの問題もあると思います。有延はパワーがあるので、スピードの面では用具に頼らなくてもいいんだと思います。僕はそれほどパワーがないので、そこは用具で補っていますね。
有延 そうですね。飛ばすことに関しては自信がありますが、うまくコントロールすることに関してはあまり自信がないんです。それが、インナーファイバー®仕様のラケットを使っている理由でもあります。
平野 僕は逆にコントロールはできるので、飛距離を調節できれば有延ラケットでも使えますね。
有延 あと、一番違いを感じたのがループドライブです。ループドライブは僕のラケットの方が、ひっかかりが強くてやりやすいですね。平野さんのラケットでしっかり回転をかけてミスを誘うのは難しいですね。それよりも早い打球点でスピードドライブを打った方が、平野さんのラケットのよさが出ると思います。
【バックハンド】
ディグニクス09Cは
止めるより振る方がいい
平野 有延のラケットはボールが食い込むのでブロックはやりやすいです。
バックハンドは回転がかけやすく安定するので前陣ではやりやすいと思いますが、飛距離が出しにくいので、中後陣では厳しいかもしれません。
有延 平野さんのバック面は(ディグニクス09C)は、安定して入るのは入るんですが、ブロックした時などにスピードが全然出ないですね。いつも通りブロックをしましたが、浅く落ちるし、すぐ強打されそうなボールになってしまいました。
ただ、ボールの威力に押されてネットにかけるようなミスがないし、オーバーミスもしにくいので、ストレートにも打ちやすいし、相手を振り回すようなプレーはやりやすいですね。
平野 ディグニクス09Cは、ただ止めるよりも振った方が入るよね。
有延 そうですね。フラットに止めるだけだと、このラバーの性能が発揮できないけど、しっかりスピンをかけるとよさが出ると思います。
【サービス】
やりやすさと安定性で有延ラケットに軍配
平野 有延のラケットの方がコントロールしやすかったですし、回転量もかかります。特にロングサービスは飛ばない分、思い切って回転をかけられるので、やりやすかったです。
有延 あのロングサービスの回転は全然分からないです。
平野さんのラケットはサービスが難しかったです。僕のラケットだと、インパクトでつかむ感覚があって、ボールがラバーに当たってからグッともう一段階回転がかかるイメージがあるんですが、平野さんのラケットは球離れが早すぎて、第1バウンドが深くなって、すぐネットにかかっちゃうっていうミスを繰り返してしまいました。
【レシーブ】
コントロールのしやすさでは有延ラケット
フリックの威力では平野ラケット
平野 有延のラケットは全体的にコントロールしやすくてやりやすかったですね。僕のラケットと比べてしっかり止めることができるので、ストップを強く切るなどのアレンジを加えることができました。
チキータも勝手に回転をかけてくれるという感じでやりやすかったです。僕はそんなにチキータに自信がありませんが、うまい人は回転量やスピードに強弱をつけて、コントロールしやすいんじゃないかと思います。
有延 僕が台上技術が苦手ということもあって、僕の用具選びの基準は台上技術のやりやすさなんですね。だから、自分のラケットは基本的に台上技術がやりやすい、安定しやすいラケットなんです。
その点、平野さんのラケットは反発が強くて、レシーブは難しかったですね。ただ、フリックだけは直線的なボールが出せるのでやりやすかったし、威力も出ました。
【実戦形式でプレーしてみて】
意外に(!?)使いやすい平野ラケット
平野 有延のラケットは、ラリーになるとキツかったですね。強く打っても打ってる感じがしないし、入っても相手に返されやすかったですね。ただ、有延がプレーのやりやすさで選んだ用具というだけあって、やはり台上はやりやすかったですね。
有延 最初は無理だと思ってましたが、僕はこのラケット(平野ラケット)を結構自分のものにできちゃいました(笑)
平野 たぶんみんなが思うほど使いづらくはないよね?
有延 最初に平野さんのラケットを持った時はうまく使いこなせるか不安の方が大きかったんですけど、いざ使ってみるとメリハリが効いてて、自分が何をしたらいいかが頭の中でイメージできましたね。
ラリーでも飛距離が出るので、前陣でも下がっても、どこにいても安心してプレーができました。
平野 いつもよりもボールが速かったもんね。気がついたらボールが後ろに行ってるという感じで。
【こんな選手にお勧め】
ミスを減らしたい選手には有延ラケット
フォアハンドで決めたい選手には平野ラケット
平野 ミスを減らしたいと思っている選手には、こういう有延のラケットみたいな回転のかけやすい組み合わせがいいのかと思いました。あとは、前陣でプレーする選手ですね。そういう選手には有延のようなラケットが向いていると思います。
有延 平野さんのラケットはフォアハンドの決定打がある選手に向いているんじゃないかと思います。バックハンドはとにかく回転のかかったボールが入ってくれるので、フォアハンドでどんどん攻めていける選手に向いていると思います。
【おまけ 用具のこだわり】
平野 僕がこだわっているのはグリップですね。僕は試合中力が入りすぎちゃうので、細すぎるとどんどん手首が内巻きになって、打球点が遅れてしまうので、程よい太さのFL(フレア)を選んでいます。今のビスカリアもいいですし、張継科シリーズのグリップも好きですね。太すぎると逆に力が入らないので、ST(ストレート)も使えません。
有延 僕はグリップエンドの角を少し削ってますね。サービスの時とか、バックハンドのバックスイングを取った時に手首の内側に結構強く当たるので、当たらないように削っています。
あとは、先日、聖也(岸川/ファースト)さんに「フォアとバックでラバーを変えて球質に変化をつけたらいいんじゃないか」というアドバイスをもらって、検討中です。僕は両ハンドとも強く打つタイプなので、たぶん少し変化をつけた方がいいということだと思います。そういう意味では平野さんのラケットも同じ考え方ですよね。
平野 そうだね。
そういえば、僕はこの前、健太(松平/T.T彩たま)さんにスペアラケットを選んでもらいました。あんまりラケットの硬いとか軟らかいを気にしたことがなかったけど、それ以来意識するようになりましたね。
ビスカリアを使っていて思うのは、アウターのラケットは使い込んだ方がいいという気がしています。使い込むほどに味が出るというか、使えば使うほど、角が取れて丸くなってくるという感じで。
有延 昔のとんがってた友樹さんが、今みたいなマイルドな友樹さんになっていくみたいな感じですね(笑)
(取材=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 動画=小松賢)