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強化のフロントライン44 
2020年全日本卓球 
張本智和について①

~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
 日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く強化のフロントライン
 今回は、2020年全日本卓球選手権大会男子シングルスで2位に終わった張本智和(木下グループ)について話していただいた。

立ち向かっていくメンタルの強化が張本智和の課題

闘志が身上の張本智和だが、準決勝、決勝では受け身になる場面が多かった


  前回前々回と、2020年全日本卓球選手権大会(以下、全日本)男子シングルスで優勝した宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)についてお話ししました。
 今回は、張本智和(木下グループ)の全日本での戦いぶりについての評価や課題について、私見を述べたいと思います。

 今回の全日本男子シングルスで優勝の大本命と目されていた張本でしたが、決勝で宇田に敗れ、2位に終わりました。
 宇田との男子シングルス決勝や、戸上隼輔(野田学園高)との男子シングルス準決勝をご覧になった方にはあらためて述べるまでもありませんが、今大会の張本の敗因は、「受け身になってしまった」ことです。

 東京オリンピックの代表内定をいち早く決めた張本は、全日本を優勝してさらに弾みをつけたかったことでしょう。加えて、今回の全日本は水谷隼(木下グループ)が出場しないということで、「出場選手の中で自分が一番強い」という自覚もあったはずです。
 そうした気持ちが相まって、「(優勝を)取りこぼせない」という思いが張本の中で必要以上に膨らみ、気持ちやプレーが受け身になってしまったのだと思います。

 張本は、年上や格上の選手に対しては向かっていくことができる半面、同年代の選手に対しては、今回の全日本の決勝や準決勝のように受けてしまう傾向があります。
 国際大会でも、馬龍や樊振東(ともに中国)などには積極的で素晴らしいプレーをしますが、林昀儒(中華台北)や王楚欽(中国)といった年代が近い選手に対しては、プレーが消極的になって後れを取ることがあります。
 今回の全日本や国際大会での傾向から明らかですが、張本の課題はメンタル(精神面)の強化です。

 高校1年生の張本にとって、これまでの対戦相手の多くは格上や年上の選手でしたから、「負けられない」とプレッシャーを感じるケースは少なかったと思います。しかし、今後は宇田や戸上、林昀儒、王楚欽といった張本と年代の近い選手たちがさらに力を付けていくでしょうし、張本自身がそうであったように、自分より年下の選手たちの台頭も当然あるでしょう。
 張本が、そうしたライバルたちに打ち勝っていくためには、「相手が誰であろうと向かっていく」メンタルを身に付けることが必須です。特に、張本の場合は、声を出して自らを鼓舞することで乗っていくタイプのプレーヤーなので、受けてしまったら力を十分に発揮できません。
 これから張本は、「格上の選手」「年上の選手」として相手の挑戦を受けるケースが多くなります。その時に、相手の挑戦を受けたりかわしたりするのではなく、立ち向かっていくことができるメンタルを身に付けることは、張本がさらに飛躍するための大きな課題になるでしょう。

 メンタル強化が必須とはいうものの、メンタルとは、卓球だけに専念していてはなかなか養うことができません。卓球に加え、卓球以外のいろいろな分野から学び、刺激を受けることで人間的なたくましさや深みが増し、それがメンタルの強化につながっていくものです。
 ぜひ、張本には、卓球に打ち込むことはもちろんですが、卓球だけにとどまらず、いろいろな分野からメンタル強化のヒントをつかむことを期待したいですし、それが実現できるよう強化スタッフもサポートをしていきたいと思います。

 次回は、全日本から見えた張本の技術的な課題について、私見を述べます。

取材=猪瀬健治

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