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強化のフロントライン46 
2020年全日本卓球 
戸上隼輔について

~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
 日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く強化のフロントライン
 今回は、2020年全日本卓球選手権大会男子シングルスで3位に入った戸上隼輔(野田学園高 現:明治大)について評価していただいた。

体力が向上し、次代の中心であることをアピールした戸上隼輔

圧巻の攻撃で、準々決勝で丹羽孝希にストレート勝利した戸上隼輔

 
 前回前々回2020年全日本卓球選手権大会(以下、全日本)での張本智和(木下グループ)についてお話ししました。
 今回は、全日本男子シングルスで3位に入った戸上隼輔(野田学園高 現:明治大)について、評価や課題を述べたいと思います。

 今回の全日本における戸上のプレーは見事でした。丹羽孝希(スヴェンソン)をストレートで下した男子シングル準々決勝や、張本にあと一歩まで迫った準決勝は、戸上のよさである攻撃力や、打球の切れ味の鋭さなどが存分に発揮されていたと思います。
 優勝した宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園 現:明治大)や張本と並び、世代交代を印象付ける活躍を見せた戸上ですが、彼が中学生の頃から注目していた私にとっては、今回の全日本における戸上の活躍は驚きに値しません。むしろ、「戸上は東京オリンピックに間に合うかもしれない」と、その才能を評価していたので、「ようやくシニアで勝てるようになったか」というのが本心です。  今大会の戸上の結果は納得する半面、もっと早い彼のブレイクを期待していた私にとっては、結果を出すスピードに少し物足りなさを感じます。とはいえ、私見はさておき、戸上は今回の全日本で、張本や宇田とならんで次代の日本を背負う選手であることを十分に証明したと思います。

 戸上の活躍の要因は、本連載の宇田の回(強化のフロントライン43)で挙げた勝因と同じように、「体力が向上した」ことです。
 戸上の持ち味はフットワークや打球スピードの速さですが、これまでの彼は体幹が今ほど強くなかったため、フットワークの時や打球した時に体勢が崩れてミスが出ていました。
 しかし、高校3年生になって体力が向上し、筋力が増したことで体幹がどっしりとしました。それに伴って、連続で強打しても体勢が崩れなくなったことが、表彰台まで勝ち上がった大きな要因でしょう。
 準決勝で張本の堅陣をたびたび打ち抜いた戸上のプレーは、彼の体力がレベルアップしたことを物語っていたと思います。

さらに飛躍するための二つの課題

 戸上は今回の全日本で、そのポテンシャルの片鱗を見せてくれましたが、彼がさらに上を目指すためには、二つの課題をクリアすることが必要だと私は見ています。

 一つは、「体力のさらなる向上」です。
 体力が上げれば、それに伴って動きや戻りの速さ、打球時のパワーなどが向上し、プレーの質がおのずと高まります。
 戸上に限ったことではありませんが、高校を卒業し、大学生、社会人と年齢を重ねていくにつれて、爆発的な技量の伸びは期待できなくなっていきます。そうした傾向をカバーし、もう一段階上のステージへ行くためには、トレーニングに真摯に取り組み、体力をさらに上げてプレーの質を高めていくことが大きな鍵になるでしょう。

 もう一つの課題は、「プレーの柔軟性を磨く」ことです。
 戸上の得点シーンは鮮やかで華がありますが、その半面、プレーが攻撃に偏って単調になる傾向があります。いくら攻撃力が高くても、プレーが単調ではいずれ相手に慣れられてしまいます。
 国際大会における戸上を見ると、相手に打たされたり、しのがれたりしてプレーのリズムを崩してしまう試合が目立ちます。国内では決まるようなボールも世界では返ってきますし、対戦する相手の戦術のバリエーションも豊富です。
 そうした世界の強豪たちを戸上が打ち破っていくためには、持ち味である攻撃力はそのまま磨きつつ、打球の高さや深さに変化をつけるなど、プレーに柔軟性を加えることが鍵になると思います。

 戸上は、観る者が驚くようなプレーを見せますが、まだ粗削りです。しかし、粗削りだからこそ、伸びしろを十分に感じます。
 戸上には、ぜひ挙げた課題を意識しながら精進を続け、日本を担う選手へと順調に成長することを期待します。

(取材=猪瀬健治)

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