~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く強化のフロントライン。
今回は、2020年全日本卓球選手権大会女子シングルス2位の石川佳純(全農)について述べていただいた。
ここ一番での爆発力を磨くことが石川佳純の課題
前回、前々回と、2020年全日本卓球選手権大会(以下、全日本)女子シングルスで優勝した早田ひな(日本生命)について述べました。
今回は、全日本女子シングルスで決勝まで勝ち上がった石川佳純(全農)についてお話ししたいと思います。
石川は、強豪ひしめく全日本女子シングルスのトーナメントで危なげなく決勝に進出しました。決勝では早田の勢いに押されて敗れましたが、日本の第一人者として、心技体ともに充実したプレーを見せてくれたと思います。
さすがの安定感を見せた石川ですが、その一方で課題も見えました。
その課題とは、「爆発力」です。
2020年東京オリンピック日本代表候補選考基準をクリアしている石川は、オリンピックの女子シングルスでメダルを獲得する力を十分に備えています。順当に行けばメダルがかかる試合まで勝ち上がる可能性は高いでしょう。
しかし、その時に、今回の全日本女子シングルス決勝のように、相手の勢いに押されてしまうようでは、勝利をつかむことは難しくなります。
メダルがかかる大一番で石川が勝ち切るためには「今までで一番強い石川を出す」必要があります。石川が、自身の競技生活で史上最高だと思えるパフォーマンスを出すことができれば、結果はおのずとついてきます。
そして、最高のパフォーマンスを発揮するために必要なのが、爆発力なのです。
爆発力とは何かを具体的に表現することは難しいのですが、少し噛み砕くと「勢い」とも言い換えることができます。
勢いは、技術や戦術のように目に見えるものではありませんが、試合で勝つために欠かせない要素の一つだと私は捉えています。皆さんにも「勝因は詳しく分からないけれど勢いで格上の選手に勝ってしまった」という経験は少なからずあるはずです。
勢いに乗ることができれば、プレーのパフォーマンスは自然と高まり、多少の実力差ならばひっくり返すことができるでしょう。
勢いが大切だとはいえ、年齢を重ね、経験を積むほど、勢いとは影をひそめていくものです。経験を積んで技術や戦術が成熟すれば、勢いという不確定なものに頼らなくても試合で勝てるようになるからです。この点で、ベテランの域に差しかかり、技術や戦術が高いレベルで安定している石川が勢いを出しにくくなるのは当然の流れだといえます。
しかし、オリンピックでメダルがかかるような大一番では、勢いに乗ることは不可欠です。
相手が誰になるかは当然分かりませんが、石川と力が拮抗している選手、あるいは石川より力が上と見られている選手であることは間違いありません。その相手がメダルを目指して全身全霊をかけて向かってくる中、普段通りの石川では遅れを取ってしまうでしょう。
石川が大一番で強敵を上回り、メダルを手にするためには、技術や戦術、メンタルの充実に加え、勝負どころで勢いに乗り、最高のパフォーマンスを発揮することが欠かせません。
「サービスを急に変える」「いつも以上に声を出す」など、勢いに乗るきっかけはさまざまあり、石川には自分に合う方法を模索してほしいと思いますが、その前提として取り組んでほしいのは、トレーニングです。
勢いに乗るきっかけがひらめき、いざ乗ろうとしても、肝心の体が動かなければ勢いに乗ることはできません。
トレーニングを地道に積んで下半身や体幹などの全身を鍛え、体をしっかり準備しておくことは、勢いに乗るために欠かせない条件です。
ここまで述べたことを踏まえ、石川には爆発力や勢いに乗ることに着目して東京オリンピックに臨んでほしいと思います。東京オリンピックは新型コロナウイルスの影響で延期になりましたが、延期になったということは、それだけ時間ができたということでもあります。
石川には延期を好機と捉え、来たるべき本番まで「どうすれば勢いに乗れるのか。爆発力が出せるのか」を考えながら日々を過ごしてほしいと思います。
(取材=猪瀬健治)