今年の全日本卓球選手権大会で表彰台に登った宇田幸矢と戸上隼輔。卓球レポートは、ともに明治大学に進学した2人に、コロナ禍でどのように過ごしたか、先の全日本について、また、卓球選手として、友人としての互いについて余すところなく語ってもらった。
今回は前回に引き続き、宇田の2020年全日本卓球選手権大会決勝の模様を振り返ってもらう。また2人に、全日本後の変化などについて聞いた。
「最終ゲーム0-3のタイムアウトで力が抜けた」(宇田)
卓レポ 7ゲーム目は出足から0-3と連続失点してタイムアウトを取りました。観客は固唾をのんで見ていたと思います。
宇田 あの試合だったら、3対1の10-8の時か、7ゲーム目のどちらかでタイムアウトを取るという選択肢があったと思います。結果論ですが、3対3の0-3になったときにタイムアウトがなかったら、そこから逆転できていなかったと思います。
タイムアウトでスイッチが入ったというか、アドバイスをもらってより冷静に戦術を組めたと思います。2ゲーム連続で取られていて、7ゲーム目も0-3で流れが悪かったので、戦術的なアドバイスもありましたが、どちらかといったら気持ちの面で、決勝戦の終盤で、力んでまくられるくらいなら、自分自身のプレーをやり通して楽しんでこいと言われて、力が抜けました。
卓レポ 宇田選手は、決勝の相手が戸上選手だったら、どうなっていたと思いますか?
宇田 (戸上選手とは)同級生で同年代の大会では毎回当たっていました。全中やホープス・カブ・バンビなど年齢別のカテゴリーで当たることはよくありましたが、今回は(年齢制限のない)一般の部だったので、(決勝で戸上選手と対戦するなんて)本当にあるのかなと思っていました。
戸上の準決勝の間は、練習をしながらも、どちらが勝ち上がってくるのか気になって、スコアはずっと見ていました。
もし戸上が決勝に来てたら......、絶対いい勝負にはなると思うんです。最後にお互いがどういう戦術を取るかで勝ち負けは変わってくると思います。
でも、ちょっとあの舞台ではやりづらいよね(笑)
「ドイツオープンの樊振東戦では通用したところもあった」(戸上)
卓レポ 全日本チャンピオンになって何か変わりましたか?
宇田 全日本で優勝した後は国際大会が続いて、倉嶋監督やコーチ陣には「チャンピオンになったからには、日本を背負うというか、海外でもしっかり勝っていかないといけない」と言われました。最初は、少し不安というか、プレッシャーに感じていましたが、とにかく、優勝できたからには自信を持ってやるしかないと考えていたので、プレッシャーはありながらも、自分らしいプレーはできていたと思います。
卓レポ 全日本チャンピオンとして背負っているものを感じますか?
宇田 背負うというか、世界ランキングもまだ35位ですし、まだまだ自分にとっては上げていきたい順位なので、もっと上げて、世界選手権大会で活躍できるくらいの選手に早くならないといけないと、全日本が終わった後に改めて感じました。
卓レポ 戸上選手は全日本を機に変わった部分はありますか?
戸上 全日本でベスト4に入れたという自信を持って、その後すぐのドイツオープンで格上の選手(クロアチアのプッツァー)に勝つことができました。勝てると思っていませんでしたが、初めてプラチナ大会で予選を抜けて、(決勝トーナメントの)初戦で樊振東選手(中国)と対戦して世界を身近に感じることができたので、いい経験になりました。
樊振東のフォアドライブは沈むんですよ、自分が振っても当たらなくて、ボールの軌道がつかめませんでした。回転量も多いですし、ブロックしても飛ばされそうで怖いというかプレッシャーを感じることが多かったので、やっぱり、トッププレーヤーだと感じました。
卓レポ 樊振東選手に通用したと感じたところはありましたか?
戸上 僕が前陣につくと、相手も少し下がって、ノータッチで抜ける機会も多かったので、僕のボールのスピードや打球点の早さは通用したんじゃないかと思います。
2020年の全日本が宇田幸矢と戸上隼輔という2人の若手の存在を、日本の卓球ファンに強く印象づけたことは間違いない。そして、その与えたインパクトに比例して、2人は大きな期待を背負うことにもなった。2人が、張本とともに次世代の日本男子を支える中核になってくれるのでは、という大きな期待だ。当然、その期待は大きなプレッシャーにもなるだろう。しかし、その期待の先は彼らが目指すところでもある。新たなステージに向けて、2人は着実に目的地に向かって歩みを進めている。
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(取材/まとめ=卓球レポート)