今年の全日本卓球選手権大会で表彰台に登った宇田幸矢と戸上隼輔。卓球レポートは、ともに明治大学に進学した2人に、コロナ禍でどのように過ごしたか、先の全日本について、また、卓球選手として、友人としての互いについて余すところなく語ってもらった。
今回は2人のチームメートとしての活躍が期待されているTリーグ・琉球アスティーダでの今シーズンの目標、そして、卓球選手としての互いについて語ってもらった。
「琉球アスティーダのメンバーは個性豊か」(戸上)
卓レポ 今シーズンのTリーグは2人とも所属チームが琉球アスティーダになりました。2人のTリーグでの目標を聞かせてください。
宇田 今シーズンは琉球アスティーダの一員として出場することになりましたが、戸上や吉村真晴さん(愛知ダイハツ)、和弘さん(東京アート)もいて、チームの雰囲気が明るくてすごい好きです。
チームとしてはファイナルを戦うことを目標に頑張っていきたいと思います。個人的には、昨シーズン、木下マイスター東京で田添健汰さん(木下グループ)と組んでベストペア賞をいただいたので、試合にどれくらい出られるかは分かりませんが、シングルスでもMVPを目指したいと思います。
海外の試合も世界選手権大会も延期になってしまったので、Tリーグもどのような形で行われるか分かりませんが、僕なりにTリーグを盛り上げて、多くの方に僕の光るプレーを見てもらうことで、元気や勇気を届けられたらいいなと思っています。
戸上 琉球アスティーダのチームメートはみんな知っている選手ですし、プレーを参考にさせてもらっている選手もいます。宇田もいますし、独特な方が多い(一同笑)というか、個性豊かなメンバーがそろっているので、こういうメンバーで戦うことができるのは本当に楽しみです。何試合出場できるか分かりませんが、出るからには一つでも多く勝ってチームに貢献できたらと思っています。
「時間をかけて技術を教え合う選手は戸上くらい」(宇田)
卓レポ 話題を変えて、2人がお互いを卓球選手としてどのように評価しているかを聞きたいと思います。まずは、宇田選手から見て、戸上隼輔はどんな選手ですか?
宇田 技術的な面では、バックハンドが他の選手と違って、威力もありますし、緩急もコントロールもできるところがすごいと思います。もちろんフォアハンドも速いし、両ハンドともボールはすごい速いですが、バックハンドでノータッチで抜かれたり、緩急をつけられてタイミングを崩されることが結構あるので、自分の思った通りに弾道や回転を出せる技術はすごいと思いますね。
サービスも、投げ上げやロートスの使い分けも分かりづらいですし、試合の中でも、ふとした時にロートスに変えたりしてくるので、戦術的にもうまいと思います。
卓レポ 戸上選手の弱点を挙げるとすればどこですか?
宇田 両ハンドがうまい分、フォアで動く時に、動き方というか、足が空回る時ない?(笑)
低いボールとか、いきなり浅いボールが来た時とかに、動きたいところに動けていないのでは、という印象が僕の中ではありますね。ダブルスでもフォア側を抜かれることは結構あるよね。
両ハンドができて、さらに回り込みなどフォアでも連係して攻めることができれば、より強くなっちゃうんじゃないかな(笑)
台上プレーもすごい多彩なので、僕が言えることじゃないかもしれないけど、フォアの連打で、低いボールが来た時や緩急をつけられた時に動けると、フォアハンドも生きてきますし、バックハンドも余裕を持って打てると思います。
あと、フィジカル面はそんなに強い方ではないので、これから鍛えたらパフォーマンスはもっと上がってくるんじゃないかと思います。
戸上 的確です(笑) 動き方は結構(宇田選手に)教えてもらったりするんですよ。
宇田 この間、回り込みはこうした方がいいよとか、実際に打ちながらアドバイスしました。僕も、戸上はバックハンドがうまいので、力の入れ方や、打つ瞬間どこに力をためて打つかとか、もっとボールを持って回転をかけた方がいいとか感覚的なこともアドバイスしてもらったり、お互いに意見交換をします。
フォアハンドの打ち方を僕が教えるだけで1時間とかかかる時がありますし、多球練習で僕がバックハンドを打つ時も、戸上はすごい細かく教えてくれるので、そこはいいかもね。
戸上 すごい参考になりますね。
卓レポ 他の選手ともそういうコミュニケーションは取るんですか?
宇田 サービスの回転のかけ方とか、ちょっとしたことを聞くことはありますが、実際にやりながら長い時間をかけて教え合うような選手は、僕は戸上くらいですね。
卓レポ 今度は戸上選手に、宇田選手の卓球選手としての評価を聞きたいと思います。
戸上 宇田のいいところは思い切ってできるところですね。例えば、サービスを出して、フォア前にストップされたボールに対して、「そこでチキータ行くのか」と不意を突かれることがありますね。ダブルスを組んでいても、先に攻めてくれるところは自分は持ってないところですし、その思い切りによって助けられたことが何回もあります。そこが一番いいところだと思います。
戦術的には、(全日本の決勝で)張本と試合していた時の、サイドに出すサービスを持ち上げさせて狙い打つのを、最後までできるのは、思い切りの良さと自信がないとできないので、そういう面で一つ決めたことに対して的確にやり切れるというのが宇田のいいところだと思います。
卓レポ 宇田選手の弱点は?
戸上 時々、無理しすぎちゃうことがあって、「なんでそこで行っちゃうの?」と思うことがよくあるんですよ。けがしてるのに練習しちゃうとか、試合に出ちゃうとか。
昨年(2019年)のベラルーシオープンで、宇田が股関節を痛めていた時にダブルスを組んでいたのですが、大会を通してずっと痛かったみたいで、結果的に負けちゃったんですよ。
「棄権してもいいよ、シングルスに専念して」と言っても「大丈夫」って最後までやり切っちゃったんですが、そういう時は無理しすぎじゃないかなって思いますね。
(※編集部注:この時、宇田は男子シングルスで2位)
宇田 その時は戸上がシングルスで組み合わせがきつい場所に入って、先に負けちゃってたんですね。だから、ダブルスしかなかったので、棄権したくないという思いもありましたし、僕自身も、ダブルスも強くなりたいし、戸上ともいい成績を残したいという気持ちも強い。少し無理してでも、何か得られるものがあるなら出たいと思って出ちゃった(笑)
戸上 宇田は技術的にも無理することがあって、2バウンドしてるのになんで打ちにいくの?みたいな(笑)
宇田 「あれ、出ないの!?」ってよくある(笑)
戸上 出るか出ないか(微妙なボール)を思いっきり振るっていうね(笑)
このクラスの選手になると、特に同世代ともなれば、友人関係よりも卓球選手としてのライバル関係の方が優先されるのが普通だ。だが、2人は率直に相手の弱点を指摘したり、相手に技術指導を仰いだりしている。
勝負の世界においてはこうした無邪気とも言える良好な関係を甘さととらえる向きもあるかもしれない。だが、私が感じたのは純粋に「もっと強くなりたい」という2人の貪欲さだ。そこには一抹の意地や気恥ずかしさもない。
このトップレベルの切磋琢磨がどのような結果につながるのか。私たちにはその可能性を確かめるという胸躍る仕事が残っている。
次回は、卓球を離れて、互いの人間性をどのように捉えているのかを聞きたい。
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(取材/まとめ=卓球レポート)