及川瑞基(木下グループ)の全日本優勝を支えた大きな要因はいくつか挙げられるが、その一つがTリーグの強豪チーム・木下マイスター東京への加入だ。
このチームに入ったこと、そして、コロナ禍の2020-2021レギュラーシーズンにこのチームで試合できたことに大きな意味があったのは、及川本人も認めるところだ。
及川の成長を後押しした木下マイスター東京
及川 木下に入ったことの影響は本当に大きかったと思います。去年の3月、4月頃は緊急事態宣言で練習ができない期間もありましたが、5月から邱さん(邱建新/木下マイスター東京総監督)のもとで、水谷さん(水谷隼/木下グループ)、大島さん(大島祐哉/木下グループ)、健汰さん(田添健汰/木下グループ)と毎日午前・午後の2部練習でいい練習ができていました。その時はまだ智和(張本智和/木下グループ)は仙台にいたので、木下の練習には来ていませんでした。
ただ、Tリーグ自体も試合が行われるのか分からないような状況で、モチベーションを保つのが難しい時期もありましたが、邱さんにアドバイスをもらいながら、チームメートと質の高い練習を続けられたことが今回の全日本優勝という結果につながったと思っています。
毎日同じ練習場で、レベルの高い選手と一緒に練習できていたので、彼らのいいところを1日にひとつでも吸収して自分のものにしようという思いでやっていました。
水谷さんは、Tリーグの試合の後で、僕が負けても勝っても本当に真剣なアドバイスをくださって、それがとても的確だったので、いつもしっかり受け止めるように心掛けていました。
例えば、サービスを出す位置、タイミングや変化などに関するアドバイスや、効いてる戦術を徹底していけというアドバイスをもらったりして、本当にためになりましたね。
智和は、得意のバックハンドですね。どういうふうにラケットをボールに当てているのかなどを見て吸収しました。大島さんからはフォアハンドの威力、健汰さんからは台上技術や体の使い方のうまさなどを、毎日ひとつでも盗もうと思って真剣に見ていたので、木下で練習できたことの意味は本当に大きいと思っています。
2人のマイスター 邱建新と水谷隼
ここでもう一つ、及川に大きな影響を与えたのが指導者・邱建新であることは言うまでもないだろう。青森山田中学校時代から指南を受けているという邱建新に及川が寄せる信頼には並々ならぬものがある。
及川 邱さんは指導者として素晴らしいと思います。中3の時から見てもらっていますが、常に試合で勝てる最新の技術を教えてくれるし、誰にどんな技術が必要かということを見極めることができる。邱さんのおかげで、僕なりのバックハンドの正解に近づいてきていると思います。
ベンチコーチとしても、邱さんはタイミングもアドバイスも「これをやればいい」というのを自信を持って言ってくれます。迷いながらタイムアウトを取る方も多いと思いますが、邱さんは常に指示も的確で、選手も自信を持ってコートに戻れるんですね。僕だけでなく、チームメートや対戦相手でも、選手が邱さんのタイムアウト直後に点数を取るシーンを何度も見てきました。
特に印象深かったのは、丹羽さん(丹羽孝希/スヴェンソン)がフリッケンハオゼンにいた時、邱さんの絶妙なタイムアウトで勝った試合を何度も見て、本当にすごいなあと思いました。
もちろん、自分がベンチに入ってもらうようになってからもそう思うことは何度もありました。今回の決勝も邱さんがいなかったら、どうなっていたか分かりませんね。
もう一人、及川に大きな影響を与えた人物がいる。それが、水谷隼だ。
本サイトで公開中の「水谷隼、全日本決勝を語る」でも及川に厳しい檄を飛ばしつつも、そのポテンシャルを高く評価し、さらなる成長への期待を隠さない水谷は、及川の成長を支えた主要人物の一人だ。及川はこの水谷隼という存在をどのように受け止めているのか。
及川 水谷さんからは大会期間中、連日連絡はいただいていましたが、6回戦で勝った後に「優勝おめでとう!」というコメントが来て「いやいや、まだです」って返したら、「俺、未来見えてるから」って返ってきて、逆にすごいプレッシャーになりましたね(笑)
でも、気にかけていただいてとてもありがたかったです。戦術の切り替え方や対応力とか、いつも厳しい言葉をいただいていますが、それもとてもうれしいですね。
水谷が「水谷隼、全日本決勝を語る」の中でも語っていた、及川が自分からは決して練習を切り上げようとしないというエピソードについて及川本人にもその真相を聞いてみた。
及川 木下に入ってからは水谷さんと練習をさせてもらう機会が増えました。水谷さんは相手が格下でも決して手を抜かず、一球一球本当に質の高いサービス・レシーブが来るので、練習を終えようという気持ちにならないんですよね。
ただでさえ僕は単純にボールを打っている時間が好きですし、水谷さんとあとどれくらい練習できるかも分かりません。本当にずっとやっていたいくらいなんです。みんなが8分くらいで終わらせる練習を、水谷さんと1時間近くやってたこともありました(笑)
だから、自分から終わりたいと言ったことはないですね。水谷さんみたいな一流選手のプレーからは見るだけでも得られるものはありますが、見るよりも実際にやる方が圧倒的に得るもの、感じるものが多いんです。たくさんのことを学ばせてもらいましたね。この積み重ねは大きいと思います。
ドイツでもバスティー(シュテーガー)やバルザー、ドゥダらとよくサービス・レシーブ練習をやりましたが、世界のトップである水谷さんからはまだまだ学ぶことがあると思っています。
及川のこのような貪欲な姿勢が、同じように貪欲に勝利を追求してきた水谷を刺激したことは自然の成り行きだったのかもしれない。
次回は7年に及んだドイツ・ブンデスリーガでの挑戦とその成果について詳しく話を聞いている。(文中敬称略)
(まとめ=卓球レポート)