ニュース番組で、バラエティー番組で、水谷隼(木下グループ)を目にしない日はない。東京オリンピックが幕を閉じてから10日が過ぎてもそんな日が続く中、卓球レポートでは、卓球日本にとって悲願の金メダルを獲得し、一躍時の人となった水谷にインタビューをする機会を得ることができた。
2020年6月、東京オリンピックの延期決定後に卓球レポートが行ったインタビューで、来るべき日のために準備すると語っていた水谷が、その言葉の通り、万全の準備で臨み、最高の結果を出してくれた。
ここでは、既に多くの場で語られている混合ダブルスではなく、苦心の末に水谷が自身の手で銅メダル獲得を決めた男子団体に焦点を当てて話を聞いた。水谷本人が「初めて話したことがほとんど」というエピソードの数々を味わっていただきたい。
混合ダブルスの優勝を決めた7月26日から男子団体の始まる8月1日まではどのように過ごしましたか? また、その間に心境の変化はありましたか?
混合ダブルスの決勝から団体戦まで5日空いていたので、その間は金メダルの余韻に浸っていましたね。1日練習を休んで、その次の日から徐々に練習を始めましたが、その5日間はあんまり団体戦のことは考えずにほっとしていました。
試合前に緊張するのは一番よくないので、僕としてはいい状態でした。金メダルを取ったことで、このオリンピックはもう安心だなという感じで、団体戦はリラックスして臨もうと思っていました。
リオの時もそうだったんですよね。あの時はシングルスで銅メダルを取って、団体はもう負けてもいいやくらいの解放された気持ちで、いい結果が残せたので、今回もそれを意識して、変にプレッシャーは感じずにいこうと思っていました。
丹羽孝希選手(スヴェンソン)と左利き同士のペアということでも話題になりましたが、団体戦の要ともいえるダブルスはどのような準備をして本番に臨んだのでしょうか?
ダブルスは、とりあえず形になればいいかなという感じで、試合の勝ち負けよりも、見ていて明らかに練習していないな、とか、チームの士気が落ちるようなプレーをすることは避けたいと思っていました。
正直に言って、ダブルスで勝つっていうことは考えていませんでした。ですから、練習も週に1、2回で、7月に入ってからやっと練習を始めたくらいで、それまでは練習していませんでした。
倉嶋監督もダブルスでの1点は期待していなかったと思います。
2回戦(準々決勝)のスウェーデン戦でいきなりオーダーを変えてきたのには驚きましたが、水谷選手はいかがでしたか?
僕もあのオーダー変更はまったく想定していなかったですね。張本(智和/木下グループ)/丹羽のダブルスってスウェーデン戦まで一度も練習してないんですよ。
あの時は、張本の出来があまりよくなかったんですよね。1回戦のオーストラリア戦 でも、勝ちはしましたが、内容があまりよくなくて......。オリンピックのプレッシャーにつぶされちゃったところはあったと思います。それを考慮しての監督の判断だったと思います。
シングルス2点起用されて水谷選手はどのような心境でしたか?
僕は2点取ろうとは思っていなくて、1点は取りたいなという感じでした。
ダブルスも、シングルスも危ない試合でしたが、張本が2点取ってくれて、丹羽がよく勝ってくれました。
水谷選手はこれまでファルク選手(スウェーデン)のような異質型の選手には強いイメージがありましたが?
そうですね。ファルクとは過去2回やっていて、2回とも4対0で勝っています。ただ、目の状態が悪くなってからは、異質系に一切勝ててないんですよ。ジオニス(ギリシャ)とか英田(理志/愛媛県競対)とか、カットにも連敗しています。回転が見えないので、ほぼノーチャンスなんですよね。
だから、試合前からファルクには厳しいという話はしていました。どちらかと言えば、カールソン(スウェーデン)の方がチャンスがあるかなという感じでしたが、あの時の状態で、5番に回ってきてたら相当厳しかったんじゃないかと思います。
回転が見えないというのは、ボールの回転量が分からないということですか?
そうですね。具体的にはレシーブができないんですよね。それで、レシーブが長くなったり、浮いたりして、相手に攻められたところからラリーが始まってしまう。
さらに、ファルクのように表ソフトの場合は、入れてくるボールの回転が毎回違うから、返球に一切自信を持てず、見極めるのに時間がかかって、それまでは全部入れるだけになってしまう。
今回の会場はボールが見えにくかったんでしょうか?
普段のワールドツアーでも相当きついんですが、今回も照明がものすごいきつくて、LEDの照明が今までで一番強かったですね。オーストラリア戦でシングルスをやった時に、これはちょっと無理だと思って、シングルスよりもダブルスを頑張ろうと思いました。
混合ダブルスの時は大丈夫だったんですか?
混合ダブルスの時もパフォーマンスとしてはよくなかったですけど、女子選手もいて時間に余裕があるので、見づらくてもカバーできた部分はあります。
ここ2、3年くらいずっとそんな感じですけど、ベストパフォーマンスを見せられずに終わってしまうのはちょっと悲しいですね。
常に「いける!」という自信はあるんですが、一度もいい状態でボールが見えることがなく終わってしまったので、それはすごく残念ではあります。
一昨年の全日本卓球選手権大会でV10を飾った後のインタビューで、視力に問題があることを明かしてくれた水谷。残念ながら、視力は依然、回復しなかったということだ。
「ベストパフォーマンスが見せられなかったことが悲しい」という水谷の言葉は、メダル獲得という結果を差し引いても、ファンにとっては心苦しいものがある。
自身は敗れながらもチームメートの奮闘でなんとか難局を切り抜けたチームジャパン。次回は男子団体準決勝ドイツ戦の話を聞いた。
(取材=卓球レポート)