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全日本王者 戸上隼輔インタビュー第2回

 2022年全日本卓球、男子シングルスにおいて鋭い両ハンドドライブを武器に破竹の勢いで勝ち上がり、初優勝の栄冠を勝ち取った戸上隼輔(明治大)。戸上は宇田幸矢(明治大)とのペアで臨んだ男子ダブルスでも初優勝を遂げ、二冠を獲得した。
 インタビュー第2回は、アジア王者、そして、世界卓球2021ヒューストン3位として臨んだ男子ダブルスを振り返ってもらった。


--優勝候補筆頭の呼び声も高かっただけに、プレッシャーも大きかったと思いますが、男子ダブルスにはどのような姿勢で臨みましたか?


「優勝しかないっしょ?」と宇田とは話していました。世界3位のプライドもあるし、日本で一番強いダブルスと言われることも増えてきたので、自分たちがパリオリンピックで日本を背負うなら、今年優勝するしかないと思っていました。

--初戦となった4回戦の相手はいきなり及川瑞基町飛鳥(木下グループ/ファースト)と難敵でしたね。

<男子ダブルス4回戦>
宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)
 2,-9,7,10
  及川瑞基/町飛鳥(木下グループ/ファースト)

 相手は既に2試合こなしてきていて、会場の雰囲気も当然分かっていて、その点では相手に有利な面があったと思います。
 宇田は混合ダブルスで1試合していましたが、僕は初めての試合で、それも久しぶりの東京体育館でしたし、情報では照明がまぶしくてボールが見えにくいとか、台がすべってサービスやレシーブが台から出てしまうという話も聞いていたので、まずは、慎重に丁寧に、調子が上がるまでは我慢して、しっかり相手コートに入れていこうというスタイルで試合に入りました。
 それで、1ゲーム目は簡単に取れたんですが、2ゲーム目を逆転で落としてしまって、「苦しいけど、これが初戦だ。当然のことなんだ」と自分の中で考えるようにしました。こちらが乗ってプレーしているときに、相手が我慢のプレーをして逆転されることはこれまでにも何度も経験していたので、ここで焦っても仕方がないと思って、そのあとも落ち着いてプレーすることができて、勝ち切れることができた試合だったと思います。

--次の5回戦は大学生ペアに快勝しましたが、準々決勝は左利き同士の高校生ペアに大変苦戦しましたね。

<男子ダブルス5回戦>
宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)
 3,7,6
  松山佳樹/野崎蓮(法政大)

<男子ダブルス準々決勝>
宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)
 5,-5,-9,9,2
  中村煌和/萩原啓至(愛工大名電高)

 準々決勝の相手のペアは2人とも非常に前陣に張り付いて、両ハンドでプレーしてきてやりにくかったですね。特に、萩原はバックハンドがうまくて、バック側にツッツくと強打されて、そのボールのスピードも威力もトップクラスのものでした。中村はフォアハンドがうまくて、ラリーで簡単にミスしてくれませんでした。ラリーになればこっちの方が上だと思っていましたが、前陣の中村に押されてしまうケースが多かったです。
 いかにも現代卓球というか、僕らよりも半歩くらい前でプレーしていて、早い卓球がすごくうまいペアでした。高校生なので台から下がると僕らよりは威力がない分、前に張り付かれるとこちらの失点が多かったですね。
 左左ですから、動きにくいし、バック側を狙われると弱いというのは分かった上で、不用意に回り込まずにバックハンドで対応してきて、僕のチキータに対しても、バックハンドで待っていて早い打球点でカウンターしてきました。僕らは両ハンドで半歩下がっているので、どうしても対応が遅れてしまいがちでした。そういう流れで1対2とリードされて非常に苦しい展開でしたね。

--どうやって流れを変えたのですか?

 取られた2ゲームに関しては、僕も宇田も相手のバック側にボールを集めすぎていたので、レシーブからフォア側に揺さぶったり、相手のフォア側からの展開を増やすように戦術を思い切って変えたら、流れが変わりましたね。向こうも対応が遅かったと感じました。
 僕たちの考え方が似ているからかもしれませんが、自分の考えを伝えると宇田もそう思っていたり、話が早いというところは結構あります。

左利き同士の前陣速攻プレーで宇田/戸上を苦しめた中村(左)/萩原

--準決勝も0対2と後がないところからの逆転でした。

<男子ダブルス準決勝>
宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)
 -9,-9,5,6,7
  藤村友也/松下海輝(日鉄物流ブレイザーズ)

 藤村さんのサービスが、まれに見るシングルスのような思い切ったサービスで、苦しめられました。球足が速くて、ロングサービスに見えてしまうんですよね。それで、対応が遅れてしまって、チキータしようとしても腰が引けてしまうところがあって、僕も宇田もいいレシーブができませんでした。
 僕がレシーブの時は、フォアサイドをちょっと切るコースで出してくるんですが、それを僕がループドライブで持ち上げるのを、松下海輝さんがカウンターで待っているというパターンもあって、戦術的にもやりづらさを感じました。それを打開しないと、と思っているうちに2ゲーム連取されてしまった感じですね。

 3ゲーム目から特に何を変えたということはないんですよ。1、2ゲーム目も11-9で悪い取られ方ではなかったので。序盤でストップが台を出てしまったり、自分たちが得意なラリーの展開で簡単にミスをしてしまったりして、突き放されてしまっていたので、ラリーになる前の細かい技術のメリハリをつけて、つなぐときはしっかりつなぐ、攻めるときは思い切り攻めるという感じで、考え方をシンプルにした結果、迷いなくレシーブできたり、思い切り振れたりしたのかなと思います。

--決勝世界卓球2021ヒューストンの再戦でしたが、準決勝と同様、0対2と苦しいスタートでしたね。

<男子ダブルス決勝>
宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)
 -8,-12,5,6,7
  張本智和/森薗政崇(木下グループ/BOBSON)

 世界卓球の時とは全然違う試合内容になりました。相手は大きく変えてはきていませんでしたが、こちらが積極的にいきすぎて空回りしていました。序盤は僕の攻撃ミスが多かったですね。「うまくいっていない」ということに焦ってしまって、悪循環でした。
 相手ペアの強さは、張本のサービス・レシーブの強さと、森薗さんのねじ込みの強さですね。その連係がかみ合ったときはものすごく強いペアです。張本の思い切りかける下回転のサービスと時々出すナックルの回転量の差が大きくて、それがプレッシャーですし、チキータをしても、森薗さんが回り込んでミスの少ない3球目を打ってきます。サービス・レシーブから3球目、4球目までの連係はすごい怖さがありますね。
 2人の勝負強さもあります。フルゲームを何度も勝ち上がってきて、競れば競るほどミスが少なくて、自信を持ってプレーしてくるのでそこも強みですね。

 0対2になって、3ゲーム目に入る前、僕が「なんかおかしい」と思ったんですね。レシーブ1発ミスとか、3球目で狙いすぎて逆を突かれたり、いつもはするはずのないミスが多いと思って、「丁寧にいこう」という話をしたんです。それで威力を落としてもいいので、丁寧にやったら、何か変わるんじゃないかと思いました。そこからはミスも減って、ラリーの回数も増えて、僕らの流れになりました。

 準決勝も決勝も0対2からの逆転勝ちでしたが、どこか余裕があったというか、自分たちがやるべきことをやれば勝てるという確信がありました。
 でも、準々決勝は「ヤバい、このままでは負ける」という焦りがありましたね。相手のバック側に集めて負けているからといって、フォア側に集めればいいのかという不安はありましたし、迷いなく立ち向かってくる相手に、こちらは迷いながらプレーしているという感じで、一番苦しかった試合でした。
 実は、準々決勝の前に宇田がシングルスで負けていて、それを知らないでダブルスの前に宇田に声をかけに行ったら、何というか部屋の雰囲気が、僕が思っていたのとは全然違っていたんですね。それで、結局何も声をかけられないまま試合に入ってしまって、試合中も浮かない顔をしていたので心配していましたが、よく立て直して頑張ってくれたと思います。

 優勝が決まった時はほっとしましたね。大本命と言われながら優勝できたので、うれしい気持ちもありましたが、もっと上を目指している分、ここでそんなに喜んでいられないというか、まだ達成感は感じられませんでした。宇田も特別喜んでいたわけではありませんでしたし、同じ心境だと思います。
 年内の目標としては、国際大会でタイトルを取りたいですね。今の世界ランキング(2022年第5週)は3位ですが、1位も目指せる立ち位置だと思うので、WTTのツアーで優勝して1位を目指して頑張りたいと思います。

さらに上を目指す2人にとって全日本優勝は通過点にすぎない

「優勝しかない」と声をかけ合った宇田と戸上の初優勝は昨今の実績から考えれば当然ともいえる結果だ。試合内容を見ると、他のペアと圧倒的な実力差があったというわけではないが、準々決勝、準決勝、決勝といずれも劣勢からの逆転でフルゲームを制したところに、宇田/戸上の個の力だけによらない「ダブルスの強さ」を見ることもできるだろう。
 次回は男子シングルスについて詳しく振り返ってもらおう。

(まとめ=卓球レポート)


<全日本王者 戸上隼輔インタビュー>
第1回「自分の中では存在しなかった大会です」
第2回「もっと上を目指しているから、達成感はない」
第3回「相手をたたきのめすつもりでやっています」
第4回「日本のエースとして世界でプレーする覚悟はある」

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