2022年全日本卓球、男子シングルスにおいて鋭い両ハンドドライブを武器に破竹の勢いで勝ち上がり、初優勝の栄冠を勝ち取った戸上隼輔(明治大)。戸上は宇田幸矢(明治大)とのペアで臨んだ男子ダブルスでも初優勝を遂げ、二冠を獲得した。
最終回となるインタビュー第4回は、全日本チャンピオン戸上隼輔の今とこれからについて本心を語ってもらった。
--全日本チャンピオンになってから状況や心境の変化はありましたか。
僕が世界で通用する選手になるには、日本でトップになった年が勝負だと思っていたので、そのためには今年、全日本で優勝しなければ間に合わないと思っていました。世界卓球の後のインタビューでも言いましたが、本気で世界で勝とうとしている選手が今の日本男子にどれだけいるんだろうという疑問というか不安は今もなおありますね。
これからの日本男子を考えたときに、水谷さん(水谷隼/木下グループ)がいなくなって、張本(張本智和/木下グループ)も強いけど、調子がよくなければ負ける。そうしたら誰が日本を背負っていくんだって考えたときに、やっぱり自分しかいない。それは全日本の前から思っています。
ひと昔前の日本代表は、水谷さん、岸川さん(岸川聖也/ファースト)がいて、若手で丹羽さん(丹羽孝希/スヴェンソンホールディングス)、真晴さん(吉村真晴/愛知ダイハツ)や大島さん(大島祐哉/木下グループ)がいて、健太さん(松平健太/ファースト)や上田さん(上田仁/T.T彩たま)もいて、全員が世界で勝とうとしていた。あの時代って、やっぱり強かったと思うんですよね。
だから、僕たちの世代を考えると、今回の全日本の結果には悔しい部分もあるんです。これからは僕たち世代が引っ張っていかないといけない。だから、厳しい言い方になりますが、張本と宇田と及川さん(及川瑞基/木下グループ)にはもっと勝ち上がってきてほしかった、ベスト4には入ってほしかったという個人的な思いはありますね。
--戸上選手自身が、今後世界で戦っていく上での心構えとはどのようなものですか?
僕はただ世界でプレーしたいというだけではなく、日本のエースとして、日本を背負ってプレーしたいんです。だから、全日本で優勝した僕にはもう日本のエースとしての自覚はありますし、エースとしてプレーする覚悟も持っています。
でも、日本だけじゃなくて、世界でも追われる立場になった張本を見ていて、正直、怖い面もあります。今はまだ自分が追う立場で向かっていけますが、自分が追われる立場になったときにも勝てるのか、今と同じようなメンタルでプレーできるのかという不安はあります。
怖さもありますが、そこに行く(追われる立場になる)準備はしていますし、今、めっちゃワクワクしていて、早く中国選手を何人も倒して、世界から注目される選手になりたいと思っています。それで、あの中国から警戒されて、対策されて、仮想戸上みたいな選手が出てきたりしたら最高じゃないですか。
張本が今、苦しい立場で踏ん張って、苦しみながらもオリンピックでメダルを取って盛り上げてくれているので、僕も早くそこまで行って、一緒に戦いたいし、張本を追い越したいですね。挫折はあるかもしれないけど、覚悟はできています。
--全日本後、中高生時代の戸上選手の恩師、橋津文彦監督から卓球レポートに寄稿(前編・中編・後編)がありました。高校を卒業して2年近くたちますが、橋津監督は戸上選手にとってどのような存在ですか?
特別な存在ですね。指導者であり、自分が人生の選択肢で迷った時に的確なアドバイスをくれる存在です。
橋津先生に長年指導を受けて、今でもルーティンとして続けていることがあるんですが、それは深呼吸です。試合に勝っていても負けていても、ゲーム間やタイムアウトの時に、ゆっくり深呼吸を2回か3回してからアドバイスをもらうことにしています。その深呼吸ですごく落ち着けて、リセットできるので、アドバイスも入ってきやすくなりますし、このルーティンは教わって本当によかったことの1つですね。
今回の全日本でベンチコーチに入っていただいた水野裕哉さんも橋津先生の教え子で、橋津先生と似たような雰囲気でアドバイスがもらえるので、すごくやりやすいです。
戦術的なアドバイスが多くて分かりやすく伝えてくれるので、しっかり戦術を理解して試合に臨めるのはとても助かりました。精神的なことも橋津先生のようなアドバイスをいただけます。
今、橋津先生に伝えたいのは、僕が橋津門下生として2人目のオリンピックメダリスト(※1人目はリオオリンピック男子団体で銀メダルを獲得した吉村真晴/編集部注)になりたいと思っている、ということです。全日本チャンピオンはこれから何人も出ると思いますが、オリンピックのメダリストなんてそうそう出るものではないと思うので、真晴さんに次ぐ2人目は僕がなりたいですね。期待して見ていてくださいと伝えたいです。
--全日本卓球の男子シングルスで優勝したことで、世界卓球2022成都(団体戦)への出場も決まりました。意気込みはいかがですか?
僕が日本を引っ張りたいと思っています。それはエースの仕事ですから、僕が2点をもぎ取りたいという意気込みはありますね。
どういうチームになるかはまだ分かりませんが、プレーでチームを引っ張りたいですし、全日本チャンピオンとして、世界でも勝てるところを見せたいですね。
--来年の全日本にかける意気込みがあれば聞かせてください。
今年優勝して、ここからが勝負だなというのは実感していて、この1年間を通して、もっとレベルアップして、成長した僕を来年の全日本で皆さんに見てもらって、「戸上強くなったな」って言われるような大会にしたいですね。
何が何でも連覇とは今は思っていませんが、今年1年でもっと成長できれば、連覇という結果がついてくるのかなという感じです。優勝を超えるものは優勝しかありませんから。
ただ、やはり今年1年は世界で活躍したいっていう思いがすごく強いですね。「日本でしか勝てない」って結構言われ続けてきているので、見返したい気持ちがあります。
--この1年でさらにレベルアップするための具体的な計画はありますか。
どういう環境でプレーや練習をするかはすごい考えていますね。海外のリーグでプレーしたいという気持ちがありますが、Tリーグの戦績もパリオリンピックの選考の対象になったので、簡単には海外でプレーできないかもしれません。
ただ、強くなるためには海外リーグで世界のトップ選手と対戦して、いろいろな技術を身に付けたり、経験を積む必要があると思っているので、チャンスがあれば海外には挑戦したいですね。
Tリーグができてチームで練習する機会は増えましたが、TリーグはTリーグ、母体は母体という感じなので、常に見てくれる指導者というのは必要不可欠だと感じてます。
日本の女子みたいに、個人でチームをつくるみたいなやり方を採用したいという思いもありますが、自分でやるのは金銭的に難しいですね。中国を見ても、1人の選手を常に見ているコーチがいますし、日本でも同じようなスタイルを取り入れてもらえたら、とは思っています。
自分が選手のうちにチームをつくって、練習場を持ちたいという夢もあります。
--パリオリンピック出場を目標として度々口にされていますが、3月からは国内選考会が始まります。具体的な目標があれば聞かせてください。
3月から選考会が始まりますが、全日本で優勝できて幸先のいい1年になったので、今年は全部優勝したいと思っています。
来年からはポイントも倍になるので、苦しいとは思いますが、他の選手に巻き返されないくらいの差をつけて、来年の半ばくらいには「戸上はほぼ確定」と言われるくらいぶっちぎりでいきたいですね。
パリではシングルス、団体、混合ダブルス、全種目出場して、メダルも全種目で取りたいです。団体戦ではやっぱり中国に勝ちたいですね。僕が勝てれば中国には勝てると思うので、正直、僕次第だと思っていて、僕が勝てば張本の負担も減りますし、2番手でも3番手でも自分がチームを引っ張っていくような存在になっていたいと思っています。
--あと2年で中国に勝つ具体的な成長のビジョンは描けていますか?
正直、まだないです。世界卓球2021ヒューストンの王楚欽戦で学んだことはたくさんありますし、本当に絶望を味わった試合だったので、2年で巻き返せるかと言われると難しいです。
ただ、それまでにできるだけ多くの対戦経験を積んで、最後に勝てればいいとは思っているので、まず、経験を積むためにも世界で戦うチャンスを逃さないようにしていきたいですね。
ヒューストンでも「中国に当たるまでは負けない」というスタンスで王楚欽まではいけたので、これからもその気持ちは持ち続けて、「誰にも負けない」につなげていきたいと思っています。
--余談になりますが、新日本プロレスの棚橋弘至選手にツイッターで言及してもらうなど、プロレスファンとしても広く認識されていますね。全日本チャンピオンの先輩、水谷選手もプロレス好きとして知られていますが、共通点はあると思いますか。
僕が好きな団体は新日本プロレスなんですけど、水谷さんが好きなのは大日本プロレスっていう蛍光灯デスマッチとか電流爆破とかそういう感じで、そこを趣味にできるのは選りすぐりの変人だけなので、やはり水谷さんと僕では次元が違います(笑)
東京オリンピックの時に僕もスパーリングパートナーとして帯同していたんですが、ホテルから会場に向かう時に水谷さんと一緒になったことがあって、プロレスの話をしたんですよ。その時に僕の好きな映像を見せて、盛り上がったりしたことはあります。
最近、1・4、1・5(いってんよん、いってんご)っていう東京ドームがいっぱいになるくらいの新日本プロレスの1番大きな興行があったんですが、そのイベントの映像に帽子をかぶって黒い服を着た水谷さんがたまたま写っていて、僕が優勝した日に水谷さんが自慢気にその写真をLINEで送りつけてきました(笑)
全日本前だったので行きませんでしたが、僕が一番行きたかったイベントですよ。「声くらいかけてくださいよ!」とは思いましたね。でも、優勝祝いで何かチケット取ってくれるみたいなので、それは楽しみにしています。
--全日本で水谷選手と対戦したかったという思いはありませんか?
それはもちろんありますね。あの全日本の舞台で水谷さんと試合ができたら、それだけですごいことじゃないですか。できれば、僕が連覇を止めたかったですね。
でも、水谷さんが最後に出たダブルスは僕と宮川(宮川昌大/明治大)のペアで勝てたので、全日本で水谷隼に最後に勝ったのは僕ですね。
これからは、僕が日本を引っ張る立場になるので、水谷さんにも期待して見ていてほしいと思います。
意図していたわけではなかったが、3時間に及ぶ新チャンピオンのインタビューを締めくくったのは水谷隼の話題だった。
全日本V10の偉業を成し遂げ、長きにわたって日本のエースとして君臨した水谷から、戸上はそのバトンを受け取ることができるのか。そのバトンを受け取るための資格が、「日本で一番強い」だけではないことを戸上は既に十分理解している。
一筋縄ではいかないであろうこの挑戦の目撃者になれるだけでも、卓球ファンとしてこれほど心躍ることはない。
(まとめ=卓球レポート)
<全日本王者 戸上隼輔インタビュー>
第1回「自分の中では存在しなかった大会です」
第2回「もっと上を目指しているから、達成感はない」
第3回「相手をたたきのめすつもりでやっています」
第4回「日本のエースとして世界でプレーする覚悟はある」
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