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坪井勇磨インタビュー(前編)

 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 今回は、東京アートの休部という不測の事態に襲われ、ドイツ・ブンデスリーガへの挑戦を決めた坪井勇磨(東京アート)にインタビューを行った。
 前編では、休部の知らせを聞いた坪井の心境、東京アートの3年間で学んだことなどについて振り返ってもらった。

--大学卒業以来所属している東京アートの卓球部が休部になりました。その一報を聞いた時の気持ちは覚えていますか?

 本当になんの前触れもなかったんですよね。大森さん(大森隆弘東京アート卓球部監督)から東京アートのグループLINEにメッセージが来てたんですよ。突然、「休部ということに決まりました」って。大森さんもまだ詳しい話は聞いていなかったみたいで、翌週、社長と話す機会があるので、それまでは他言無用でということでした。
 練習が終わって家に帰ってきて休憩していた時でしたが、「どうしよう」と一瞬戸惑った後には、もうすぐに次のことを考え始めていましたね。

--休部という現実をすぐに受け入れることはできましたか?

 できましたね。会社がコロナの影響を受けていることは知っていたので、会社に対しての疑問とか不満はありませんでした。
 正直に言うと、僕自身も東京アートで過ごした3年間ずっとプロでやりたいという思いは持ち続けていたんですよ。
 でも、東京アートの練習環境って僕が知ってる限りでは日本一だと思うんですよね。練習場も練習環境も。大森さんという監督がいて、モチベーションの高いトップ選手が集まっていて、本当にプロフェッショナルなチームで、自分のやる気次第で強くなれるんですよ。練習もやりたいだけやれるし、それで、給料までもらえるんだから文句のつけようがないですよね。
 この前のインタビューでもお話しさせていただいたんですが、その環境を捨ててまでプロでやるという決断はできませんでした。最初の1年は、周りにも徐々にプロ選手が増えていく中で、自分もそういう厳しいところに身を置きたいというチャレンジ精神もあったんですよね。東京アートが厳しくないということはもちろんありませんでしたが、どこかで「守られている」という感覚はあったので、そこから抜け出すいい機会を休部が与えてくれたんだと前向きに捉えることができました。

東京アートの休部はプロに転身するための機会と前向きに捉えたと坪井

--プロに挑戦したいという意識はずっと持ち続けていたんですね?

 はい。とはいえ、最初は日本リーグでも勝てなくて、チームにも全然貢献できなくて、1年目が終わった時に、「こんなんじゃプロとか言ってられないな」と思って、目標を設定し直して、そこからステップアップしていこうと考え直しました。
 まずは、自分の出ている試合、日本リーグや個人戦でしっかり結果を出して、その上でTリーグや海外リーグに行くというステップをちゃんと踏んでいこうと思ったんです。
 今の自分の立場的にはそういうレベルの上げ方がいいと思っていたんですよ。3年目(昨年度)は自分の中で目標をはっきりそういう方向に切り替えた年だったんですね。4年目もしっかり東京アートで、日本リーグでも全日本でもいい成績を残して、それから勝負かなと思っていた矢先のことでした。
 そういう心境ではあったんですが、東京アートの休部が決まって、自分から行くしかないっていう状況になって、渡りに船じゃないですけど、結果はあとからついてくればいいという感じで、早く気持ちを切り替えることができました。

--昨シーズンは日本リーグでも大事な場面で勝ち星を挙げられるようになってきていました。自身の成長を感じていたのではないですか?

 それはもう東京アートの練習があってこそですね。
 東京アートに入ってから、ひとつ僕の中で大きく変わったことがあって、1年目よりも2年目、3年目の方が、格段に卓さん(高木和卓/東京アート)と吉田さん(小西海偉/東京アート)のすごさが分かってきたということがあります。1年目は自分に余裕がなくて気づけなかったんですが、一昨年、昨年は「本当にこの人たちすごいんだな」ということが分かるようになってきたんです。それまでももちろんすごいとは思っていましたが、年も離れているし、卓さんとは少しかぶっていますが、吉田さんがNT(ナショナルチーム)にいた時に一緒にやっていたわけではないので、本当のすごさが分かってなかったんですよね。
 2年目くらいから、この人たちの卓球に対する気持ちや取り組み方って本当にすごいということが分かってきて、僕も真面目な方ではあるんですが、2人の場合は、ただ真面目というのとも違っていたんですよね。勝負に対してのこだわり、貪欲さ、どの選手と対戦しても負けないという思いがすごく強いんですよ。
 卓さんや吉田さんは、僕なんかに対してもそうですけど、少しでも自分よりレベルが落ちる相手には練習でも全然負けないんですよ。ちょっと調子が悪くても、絶対に勝負を投げないし、本番の試合くらい集中しているし、気持ちの波がないですよね。2人とも休む時はしっかり休んで、オンとオフの切り替えはしっかりしていますが、やる時の集中力は半端じゃないですね。これくらい強い気持ちがあったからこそ、日本代表として世界でやってこれたんだなということが分かるようになってきました。
 それは僕に足りない部分でしたね。小手先だけでやってたなと気づかされました。卓さんや吉田さんの考え方って、無駄なものがそぎ落とされて、洗練されているんですよ。卓球を軸にして生きてるっていう感じですね。そういう「本物」を知ることができたっていうのは僕にとって大きかったです。知ったからって「じゃあ僕も」と簡単にいくものではありませんが、反省させられたし、もっと頑張らないとダメだって思い知らされました。

--坪井選手が2人の強さの真髄に近づいてきてたんじゃないですか?

 それが逆というか、自分なりに真剣に考えて卓球に取り組むようになったら、「あれ、卓さんも吉田さんも同じことやってるじゃん」って気づいたんですよ(笑) だから、追いかけて近づいたっていうよりは、既に2人はこのずいぶん先に行ってるってことに気づいたという感じですね。でも、それに気づいて、僕の進んでる方向も間違ってないなって確認できたりもしました。
 僕も今まで以上にちゃんと取り組むことで結果に結びついてきたところだったので、少なくとももう1年は東京アートでやりたかったという思いもあります。リズムをつかめてきて、チームにも貢献できるようになってきていたので。

長年東京アートの主力を担ってきた高木和。坪井のよき模範となった

坪井とは15歳も離れた小西からも学ぶところは大きかった

--高木和選手も「坪井が強くなってきてくれたから、大分プレッシャーが減った」と言っていました。

 うれしいですね。団体戦では、ラストにしか置かれないっていうのは分かっていたので、準備しやすかったです。ラストに定着してからは、総合団体(全日本卓球選手権大会団体の部)、実業団(全日本卓球実業団選手権大会)、後期日本リーグでも自信を持ってプレーできるようになってきていたので、やっぱり、あと1年は東京アートでやりたかったですね。
 木造(木造勇人)も入って、チームも強くなったと思うし、木造がどんなプレーするのかも見てみたかったですね。

--振り返ってみて東京アートはどんなチームでしたか?

 みんなが高みを目指していて、全員が別個に自分の目標をしっかり持って、自分のやるべきことをしっかりやっているプロの集まりですね。
 団体戦の時は、僕もそうでしたが、みんなが自分が勝てばチームも勝つと、5人全員が思っていたと思うので、それは強いですよね。誰が取って、誰が取られてという計算がないですから、みんな「自分が勝つこと」だけですよね。みんなで3点じゃなくて、5点取るつもりでやってましたね。
 東京アートって他の実業団の選手から見ると自由に見えるみたいで、よく「東京アートっていいよね。楽そうだよね」とか言われることがありましたが、中にいる僕から言わせてもらうと、みんながちゃんと自分のペースで、自分の目標を持ってやってるから、自由といえば自由だけど、楽ということはなかったですね。
 よく練習に来てくれる真晴さん(吉村真晴/愛知ダイハツ)も、「東京アートは質の高い練習ができる」って言ってくれますし、みんなが真剣だから雰囲気もめちゃくちゃいいんですよね。
 僕が最終的に東京アートに入ることに決めた理由も練習の雰囲気が一番よかったからなんですよ。

--大森監督はどんな監督でしたか?

 最終的にチームをうまくまとめてくれていたのは大森さんですね。細かい指示はあまり出しませんが、締めるところはちゃんと締めてくれました。個人的にも、普段の練習から的確なアドバイスをしてくださいましたし、迷った時には、相談に乗っていただくこともかなりありました。
 卓さんがキャプテンとしてチームを引っ張ってくれていた部分はありますが、まとめ役はやっぱり大森さんでしたし、大森さんがいてくれて本当によかったですね。

チームでの存在感が増してきた坪井。「あと1年は東京アートでやりたかった」と本音を漏らした

 インタビュー後編では、ドイツ・ブンデスリーガとの契約に至った経緯について詳しく聞いた。

(まとめ=卓球レポート)

坪井勇磨インタビュー(後編)「ブンデスリーガへの挑戦は、今だからこそ意味がある」

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