アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
今回は、今シーズン、ともにドイツ・ブンデスリーガでのプレーを決めた宇田幸矢、戸上隼輔(ともに明治大学)にダブルインタビューという形で話を聞いた。
前編では、2人がドイツ・ブンデスリーガへの挑戦を決めた経緯や抱負、また、国際大会や国内選考会での自身のプレーを振り返ってもらった。
--今シーズン、ドイツ・ブンデスリーガに参戦することになった理由を宇田選手からお聞かせください。
宇田 ドイツ・ブンデスリーガは、各国の強い選手が集まっているリーグなので、よりレベルの高いところで挑戦していきたいという気持ちで選びました。
もう1つはパリオリンピックを見据えて、今後、国内競争が激しくなってくるので、対戦相手が限られて、知っている選手が多いTリーグよりも、いろいろなタイプの選手と対戦できる海外でやりたいと思いました。
所属チームは板垣さん(板垣孝司)が監督を務めるケーニヒスホーフェンですが、練習は、チームと連携を取りながら、ドイツNTが練習をするデュッセルドルフでできることになっているので、それが決め手になりました。チームとの契約は、梅村さん(梅村礼/タマス・バタフライ・ヨーロッパ)とうちの父(宇田直充/うだ卓)が連絡を取り合って、話を進めてくれました。
ーチームメートは決まっていますか?
宇田 シュテーガー(ドイツ)とオルト(ドイツ)は決まっています。ブンデスリーガではシュテーガーが経験豊富ですが、僕にもシングルスとダブルスに出るチャンスがあると思うので、入ったからにはチームに貢献したいですね。その中で経験も積んで、自分の成長にもつなげていきたいので、どんどん試合に出て、勝ちたいという気持ちがあります。
ー戸上選手は初の海外リーグへの挑戦ですね。
戸上 はい。僕は、パリオリンピックまでに1度は海外リーグを経験しておきたいという思いが元々あって、去年も行きたいとは思っていたんですが、高山監督(高山幸信明治大学卓球部監督)とも話し合って、「2021年は行かない方がいい」という話で終わりました。今年(2022年)は海外に行けるチャンスが少なからずあったので、行くことに決めました。
今季、海外でプレーしたいと思った1番のきっかけは、WTTスマッシュ シンガポールでヨルジッチ選手(スロベニア)に負けた時に、「これじゃダメだ」と思ったことです。もっと格上の選手との対戦経験や勝ち星を増やしていって、自分の実力を上げていかないとという危機感が出てきて、海外でやりたいと強く思うようになりました。
そこからいろいろな人に相談したり、自分でも動いたりしましたが、周囲の声は賛成も反対もありました。行くことになった決め手は橋津先生(橋津文彦/野田学園高校卓球部監督)に相談したことです。「自分の人生なんだから、自分で決めなさい」という言葉をもらって、最後は自分で行くことに決めました。チームは僕が高校の時に練習に行かせてもらったことがあるオクセンハオゼンです。
ーオクセンハオゼンは強豪チームですね。
戸上 そうですね。チームメートにはシモン(シモン・ゴズィ/フランス)とロブレス(スペイン)、カナック(カナック・ジャア/アメリカ)とアキュズ(フランス)、S.クルチェツキ(ポーランド)がいます。みんな強いので、毎回試合に出られる保証はないですね。
ただ、オクセンハオゼンというチームも町も卓球に集中できる環境ですし、強くなろうと思ったら、強いチームに入ってもまれるのが一番かなと思っています。不安もありますが、行くからには試合に出たいという気持ちが強いので、まずはチーム内の競争に勝ちたいです。
ーどのような不安があるのですか?
戸上 まずは、試合に出られるのかどうかと、出してもらえたところで勝てるのかということですね。
あとは、ドイツに1人で行って、生活していけるのかなという不安もちょっとはありますが、その辺は楽しみでもありますね。
ー宇田選手は期待や不安はありますか?
宇田 不安はそんなにないですね。高校の時にもブンデスリーガ2部のチームでプレーしたことがあるので、その時も1人で練習場に行ったり、試合の時はチームに合流したりしていました。片道9時間、車と電車で1人で移動したこともありますし、そういう点では鍛えられていると思います。向こうは電車が1時間遅れたり普通にありますからね(笑)
練習するデュッセルドルフは施設もそろっているし、ブンデスリーガに参戦することと同じくらいデュッセルドルフで練習することも大事だと思っているので、それを軸に考えた部分はあります。
デュッセルドルフは、ボルやオフチャロフ(ともにドイツ)がいるドイツのナショナルチームが練習しているのと、他にもクリスチャン・カールソン(スウェーデン)など、強いメンバーがそろっているので、レベルの高い練習ができると思います。
ー話を国際大会に移します。宇田選手は3月のWTTシンガポール スマッシュで3位の好成績を収めることができましたね。
宇田 大分格上の選手に勝つことができました。まずは、2回戦でボル(ドイツ)に勝てたことが自信につながりました。前回ボルと対戦したのは3年前(2019年チェコオープン)なんですが、その時はボールの質や回転量に全然対応できなくて0対4で負けてしまいました。今回は、そこを踏まえて、戦術をいろいろ変えてやってみたら、思いの外、自分のプレーで勝つことができました。
その後は3回戦で林鐘勳(韓国)、準々決勝でダン(ダン・チウ/ドイツ)と対戦しました。ダンとはヒューストン(世界卓球2021ヒューストン)以来の対戦になりましたが、世界卓球のリベンジができました。苦戦は予想していましたが、今回は勝ちたいなという思いが強かったので、1対2で負けていて苦しい試合でしたが、勝ちきることができました。
ダンはペンホルダーで守りが堅くて、サービス、レシーブから自分が崩されるパターンが多かったんですが、最後の4、5ゲーム目は自分が対応できて、崩されずに攻撃的に戦うことができたので、そこがよかったですね。
ー準決勝の樊振東(中国)戦でも健闘しましたね。
宇田 思ったより打ち合いでも通用しましたね。樊振東はダブルスでは結構手堅くプレーしていたんですが、シングルスでは要所要所で、強く打ってくるボールがあって、そのボールはやっぱり厳しかったですね。
ただ、ラリーになった時は、結構点数も取れたので、サービス・レシーブにそれほど神経質にならずにプレーできました。自分のサービスも効きましたし、レシーブもある程度しっかり入れておけば、ラリーになって、そこから自分の展開をつくっていけるというのが、実際に試合をしてみたら見えたので、それは大きな収穫でした。自分の成長も感じましたし、今後何をやっていけばいいのかっていうのが見えた部分もあります。
ただ、競った時の圧はヤバかったですね。感じたことがないくらいの圧でした。簡単に点数を取らせてくれないような、迫ってくる感じに自分の方が縮こまってしまって、4ゲーム目を落としてしまったので、そこは反省ですね。
負けはしましたが、トータルでは大分自信になりました。
ー戸上選手も3月以降国際大会に参加されていますが手応えはいかがですか?
戸上 満足のいく結果は正直出せてないですね。追われる身というのはずっと感じていますし、見えない壁にぶち当たっているという感じがしますね。
自分では弱気になっているつもりはありませんが、競るとプレーに弱気な部分が出てしまいますね。もっと堂々とプレーしてもいいのかなとは思いますが、難しいですね。
ー全日本後のインタビューでは相手をたたきのめすつもりでプレーしていると話してくれましたが、同じような心構えでプレーしていますか?
戸上 最近はできていないですね。難しいです。自分のことをまだ分かってない部分があるかもしれません。
技術的には向上していると思いますが、最近は大事な一戦で取りこぼしてしまうことが多いので、そこが課題ですね。
ーLION CUP TOP32では2回戦で篠塚大登選手(愛知工業大学)にゲームオールの末、敗れました。
戸上 全日本が終わってから一戦目の大事な大会だったので、どこかで意識していましたし、それがプレーに出た結果だと思います。
ーアジア競技大会の選考会では決勝に進出しましたね。
戸上 あの試合(決勝の吉村真晴【愛知ダイハツ】戦)が自分を見つめ直す大きな試合になりました。
LION CUPでは受け身になりすぎたので、その反省を生かして、アジア競技大会の選考会では攻撃的なプレーを増やそうと思ってプレーしましたが、今度はいきすぎて安定性がなくなってしまって、ダメな自分が出てしまった試合でした。
自信は持ってプレーできていたので、あの試合では技術的な課題があったのかなと感じています。
インタビュー後編では、世界ランキングで1位の座に就いている(2022年第12週〜)、宇田/戸上のダブルスについて、また、今後の目標などについて聞いた。
(まとめ=卓球レポート)