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世界卓球2022成都 男子団体銅メダリスト
戸上隼輔インタビュー

 男女とも中国の連覇で幕を閉じた世界卓球2022成都の閉幕から3日後、初の世界卓球団体戦で銅メダルを獲得した戸上隼輔選手(明治大)の株式会社タマス本社への来社が急きょ決まった。
 熱戦の興奮も覚めやらぬ中、このインタビューでは、戸上選手に激動の10日間を振り返ってもらった。

「自分のプレーができるのか」という不安があった

--銅メダル獲得おめでとうございます! まず、初めての世界卓球団体戦にどのような心構えで臨んだのかを聞かせてください。

戸上 今回は自分がチームを引っ張らないといけない存在だったので、すごいプレッシャーを感じていました。まず、日本代表として、世界卓球という舞台でしっかり自分のプレーができるのかという不安が大きかったですね。
 でも、チームで過ごす時間が増えていくうちに、チームの雰囲気もよくて、楽しい日々を過ごしていけたので、大会が始まったら、最初からリラックスして臨むことができました。

--丹羽孝希選手(スヴェンソンホールディングス)の欠場の影響はありましたか?

戸上 最初に聞いた瞬間は「まじか?」と思いましたね。本当に丹羽さんなしのチームでやっていけるのかっていう不安は大きかったです。
 丹羽さんは最年長で、キャプテンで、経験も一番長いので、チームを引っ張ってもらう存在が欠けてしまって、その中で自分の出場機会が増えて、自分がチームの足を引っ張ることになってしまったらどうしようという最悪のことも考えました。いろいろネガティブな発想が出てきてしまった部分は、正直ありました。
 あとは、事前合宿にTリーグの試合が重なって、僕だけTリーグに所属していなかったので、合宿に全然メンバーがそろわない時があって、明治大学から選手に来てもらったということもありました。Tリーグの試合にパリ五輪の選考ポイントがついているので、仕方ないといえば仕方なかったと思いますが、ちょっと見直してほしいとは思いましたね。

--試合ではそうした問題の影響は見られませんでしたね?

戸上 そうですね。不安はもちろんありましたが、楽しんでプレーしようと切り替えることができて、無事に自分のプレーができました。

ルーマニア戦で最初のヤマ場が来たと思った

--予選グループリーグの初戦はイラン戦でしたが、ノシャド・アラミヤン戦での手応えはいかがでしたか?

戸上 アラミヤン兄弟は昔からトップを走っていて、対戦したのは初めてでしたが、強いというのも知っていたので、勝てるかなという不安はありましたが、相手のサービスに対して思ったよりもしっかりレシーブができて、自分のプレーができたと思います。

--次のルーマニア戦は大変な接戦になりました。張本智和選手(IMG)が1番で勝って、2番で相手エースのO.イオネスクとの対戦でした。

戸上 ルーマニアはやはりO.イオネスク選手が主力でしたが、実際に試合をしているうちに、相手が「めっちゃ強いな」という感覚に陥ってしまって、やりにくかったですね。相手も自分と同じようなガンガン攻めてくるスタイルで、ちょっと戸惑ってしまいました。勝ちはしましたが、難しい試合でした。4ゲーム目に10-6とリードしてから逆転でそのゲームを取られてしまったので、そこで仕留めたかったですね。

--日本が2対0としましたが、3番で及川瑞基選手(木下グループ)がH.スッチに敗れて、4番でも張本智和選手がO.イオネスクに負けて、ラストの戸上選手まで回ってきました。

戸上 この世界卓球で最初のヤマ場が来たと思いましたね。
 5番の相手のE.イオネスク選手は、ヨーロッパユースで三冠していて、期待されている選手だとは聞いていましたが、1番で張本選手が3対0で勝った試合を見ていましたし、僕も2番で納得いくプレーができていたので、不安はありませんでした。負ける気はしませんでしたが、ここでしっかり勝てたのはよかったですね。

--次はグループ2番手の香港が相手でした。トップで黄鎮廷との対戦でした。

戸上 前回、黄鎮廷と対戦したときは3対0で勝っていたので、自信はありましたが、今回は相手の戦術にうまくはめられてしまった感じですね。何より、自分が我慢強く、粘り強くプレーできなかったのが反省点です。
 黄鎮廷はチキータやフォア前の台上技術などは安定していますが、強いボールがあまりなくて、基本的につなげるのがメインなので、ラリー戦になるのは覚悟していました。以前はそのラリー戦を、粘り強く我慢して我慢して最後に決めるという感じでプレーできていたんですが、今回は相手の粘り強さに焦りを感じてしまって、早い段階で自分が狙いにいってミスを繰り返すという流れになってしまいました。

ルーマニア戦のラスト、「最初のヤマ場」を落ち着いたプレーで乗り越えた

批判的な声もあったので、メダルが決まってとにかくほっとした

--決勝トーナメント初戦、カルデラーノを擁するブラジルでした。トップでカルデラーノとの対戦はいかがでしたか?

戸上 カルデラーノはやっぱり強かったですね。先に1ゲーム目を取られて苦しい展開でしたが、2ゲーム目で7-10から逆転できて、そこから流れが一気に自分の方に傾いたので、あそこで我慢できたのはよかったですね。
 3ゲーム目以降は、相手の表情も鮮明に見えるようになってきて、自分中心ではなく、相手の心理状態も考えながらプレーできました。カルデラーノが思うようにプレーできていないような表情をしていたので、こっちにチャンスがあるなと思う余裕もありました。

--メダルをかけた準々決勝のポルトガル戦では、相手エースのフレイタスとトップで激突しました。

戸上 フレイタスは初対戦でした。サービスがうまいと聞いていたので警戒していましたが、実際にやってみると僕が思っていた以上にサービスが切れていて、それに対応できずに1ゲーム目は取られてしまいました。
 ただ、ラリーになってしまえば、速いボールは全然なかったので、とにかくレシーブに集中して、ラリーに持ち込もうと思い、2ゲーム目以降は丁寧にレシーブすることを心掛けたら、結果的に勝つことができました。

--ポルトガルに3対1で勝利して、日本男子として2大会ぶりのメダル獲得を決めましたね。

戸上 とにかくほっとしました。うれしい気持ちは多少ありましたが、すごい期待されていると感じていたので、8割くらいはほっとした気持ちでした。
 今回は1回の選考会だけで代表を決めた(戸上は全日本卓球男子シングルス優勝で代表権を獲得)ので、正直、批判的な声があるのも知っていて、それもプレッシャーに感じていました。それに加えて、丹羽さんがいなくなって4人でどう戦おうかというところから始まった大会だったので、とにかくメダルを目標に戦って、それが達成できたのはすごくよかったと思います。

ポルトガル戦トップでフレイタスに勝利し、メダル獲得への流れをつくった

中国戦ラストは、頭が真っ白になってしまった

--そして、いよいよ中国戦です。戸上選手はトップで、エースの樊振東と当たりました。

戸上 やっぱり強かったですね。ただ、僕が感じたのは、ひとつひとつの技術の強さというよりは、丁寧さ、質の高さです。強いボールは実際はそんなにないんですよ。ただ、ミスがない。そのミスの少なさが、こっちにはすごいプレッシャーになって、焦りにつながりました。
 中国はそれまでずっと3対0で勝ってきていたので、まず1点ほしいという話をみんなとしていて、僕も本気で1点を取りに行きましたが、力が及びませんでした。
 でも、張本選手が王楚欽から1点取ってくれて、及川さんも馬龍といい試合をしていたので、5番まで回ってきたら頑張ろうと思っていました。

--中国戦のラストでプレーする準備はできていましたか?

戸上 はい。正直、張本は樊振東にも勝つんじゃないかって思っていたんですよ。今回の張本はちょっとなんか違う、みたいな感じがしていたので。
 ルーマニア戦で、O.イオネスクに負けた時は、良くない時の張本だなと思って見ていましたが、香港戦で2点取りした時のプレーから、覚醒したなと間近で見ていて感じていました。
 中国戦の2番でも覚醒した張本を見ることができたので、簡単ではないだろうけど、樊振東にもいけるんじゃないかなと内心で思っていました。
 それで、実際に僕に5番が回ってきて......。勝てばヒーローじゃないですか? でも、はたして本当に勝てるのか、みたいな葛藤が自分の中にあって、その両方の気持ちを抱えながらプレーしていました。
 1ゲーム目は本当にいいプレーができて、9-4までリードできたんですが、そこでサービスミスをして、そのあとレシーブミスと簡単なミスが続いてしまって、頭が真っ白になってしまったんです。
 王楚欽がガチガチに緊張しているのは僕にも見えていたんですよ。僕には失うものはありませんが、相手は負けたら連覇が途切れるし、中国のプライドもあるしで、すごいプレッシャーを感じていたのは伝わってきました。僕はもうプライドも捨てて、死ぬ気で頑張りましたが、及びませんでした。勝負は1ゲーム目でしたね。

--直接対決では勝つこともある張本選手が中国から2点を挙げたのを目の当たりにして何を感じましたか?

戸上 正直、すごいと思いました。歴史的快挙ですよね。
 僕との差という意味では、一番はやはり大舞台でも自信を持ってアグレッシブなプレーができるところですね。張本は、これまでも大舞台で中国選手を破ってきているので、その経験の差は感じました。
 あとは、戦術の幅ですね。サービス力の違いも感じました。張本選手は勝負どころで縦回転のサービスが効いていましたが、自分にはそういう勝負どころでエースを取れるようなサービスがないので、今後はその精度も上げていきたいですね。

中国戦ラスト、第1ゲームの大量リードで「あわや」と思わせた戸上だったが......

今大会で団体戦の戦い方が分かった
課題は「丁寧さと我慢強さ」

--今大会を通して感じた課題はありましたか?

戸上 強いボールはもちろん必要だと思うんですけど、あの3人(樊振東、王楚欽、馬龍)の中に僕みたいにガンガン攻める選手はいないですよね。樊振東と王楚欽と実際に対戦してみて感じたのは、とにかくひとつひとつのプレーが丁寧でミスが少なくて、最後まで前で我慢強くプレーしているところです。そこは僕に足りないところだと思いました。
 あとは技術的なところで、サービス・レシーブの安定性を磨く必要は感じました。

--以前に「団体戦には苦手意識がある」と言っていましたが、それは克服できましたか?

戸上 今大会では、とても大きな気づきがあったんですよ。
 黄鎮廷戦では、結構前面に感情を出してプレーしていて、うまくいかない時にイライラしてしまった部分があったんですが、カルデラーノ戦の時に団体戦の戦い方が分かったんですよ。
 ポイントに一喜一憂して、表情に出すのではなく、感情を出さずに、自信を持ってプレーしていると、ベンチの声援も相手へのプレッシャーになっていることに気づいて、試合をしながら「ああ、これが団体戦の戦い方なんだな」というのを発見できた気がしました。
 やっぱり中国があれだけ団体戦で強いのは、個々の選手が強いっていうのももちろんありますが、団体戦の戦い方を知っているからという部分もあると思うんですよね。だからこそ、全員がああいうミスの少ないプレーになると思うんですよ。
 ただ、現時点で僕が樊振東に勝とうと思ったら、もっとミスを恐れずに、台上から先手を取れるような攻めが必要だったなと感じています。樊振東は本当に強いボールを打ってこなくて、丁寧にプレーしていて、僕もそれに付き合ってしまったというか、相手のペースで試合をしてしまいました。自分の中ではもっともっとリスクを負ってでも積極的に行けたはずなので、そこはちょっとやりきれなかったという後悔があります。そういう意味ではすごい勉強になりました。

「制御不能なやつ」でありたい

--今後、団体戦だけでなく個人戦の戦い方にも影響がありそうですか?

戸上 そうですね。僕の今までの個人戦のスタイルだと、ミスしてもいいからどんどん攻めるという感じでしたが、やっぱり我慢も必要だなと。時には、団体戦以上に気を使いながら、感情を表に出さずにプレーすることが必要なときもあると思いますね。

--戸上選手にとって意義深い大会になりましたね。今後の目標を聞かせてください。

戸上 今大会では本当に今後経験できるかどうか分からないくらい貴重な体験をさせていただいたと思っています。今後の卓球人生においても、大きな節目になると思います。
 準決勝の2対3という結果に、中国と日本の差は一見縮まったように見えるかもしれませんが、結局、張本選手が2点取っただけで、僕は2試合とも0対3で負けているので、僕個人としてはまだまだ大きな差を感じています。パリオリンピックまでに強くなって、もっと差を縮められるように、また、日本の主力としてプレーしたいというモチベーションは持っています。
 次の試合はWTTコンテンダー ノヴァ・ゴリツァ(スロベニア)ですが、ヨーロッパのトップ選手も参加するので、そこで結果を出して、年内にひとつはタイトルを取りたいと思っています。

--最後に、今日撮影したポーズに込めた思いを聞かせてください。

戸上 このポーズは僕の好きな内藤哲也選手がトレードマークにしているポーズなんですよ。内藤選手は「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」っていう新日本プロレスの中のユニットにいるんですが、このユニット名がスペイン語で「(日本の)制御不能なやつら」っていう意味なんです。めちゃくちゃかっこいいですよね。
 僕も内藤選手と同じストロングスタイルで卓球をしていて、内藤さんの姿勢は僕が戦う上ですごく大きな刺激になっているので、僕も「日本卓球界の制御不能なやつ」でありたいという思いを込めました!

このポーズには「固定観念を打ち破れ!」というメッセージも込められているという

 今回のインタビューでは、戸上が世界卓球2022成都から、勝敗を超えて、持ち帰ってきたものの大きさを感じた。中国戦に限らず、予選グループリーグの一戦一戦から戸上はとても多くのことを学んだに違いない。
 戸上が、張本との差として筆頭に挙げた「経験」の差を縮めるのに、パリ五輪までの1年半という時間は決して長くはない。その機会も決して多くはないだろう。
 だが、厳しい戦いの最中(さなか)にあってもユーモアを忘れず、目標に邁進し続ける戸上の笑顔は、「何かをやらかしてくれそう」な制御不能な気配に満ちている。
(文中敬称略)

(まとめ=卓球レポート)

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