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プリティカ・パバド インタビュー 
「足元を見て、できることを一つずつクリアしていきたい」


 16歳で東京オリンピック出場を果たし、世界卓球2022成都ではフランスの中軸として予選リーグ突破に大きく貢献したプリティカ・パバド (Prithika Pavade/フランス)。フランスのみならずヨーロッパが期待を寄せる、これから注目のサウスポーだ。
 このインタビューでは、パバドのキャリアをたどりながら、2024年に母国で開幕を控えるパリオリンピックへ向けての思いについて聞いた。


 プリティカ・パバドの両親はインド出身で、パバドの兄がインドで生まれた後、フランスのパリ近郊に移住。パバドはそこで2004年8月2日に生を受ける。
 卓球を始めたのは7歳。きっかけは、ホテルマンとして家族を支えている父の影響だ。

--卓球を始めたきっかけを教えてください。

パバド 父の影響です。父がインドで卓球をしていて、ナショナルチームでプレーするほどのレベルではありませんが、市民大会レベルでは強い選手でした。父の勧めで兄が卓球を始めたので、私も妹も始めました。

--卓球のどういうところに魅力を感じたのか覚えていますか?

パバド 卓球は自分でスピン(回転)をかけたり、ボールを狙ったところへコントロールしなければなりません。そこに、スポーツとしての面白さを感じました。

--自分が上を目指せると感じるきっかけとなった試合や出来事はありますか?
 
パバド 確か、9歳か10歳の時に出場したフランス選手権のユース(13歳以下)の大会です。私はノーマークでシードも低かったのですが、その大会で優勝してしまったんです。それで、もうちょっと上を目指せるかもしれないと思いました。
 
--その頃の練習の内容は覚えていますか?

パバド 当時は、サンドニ(パリ北部近郊の都市)から車で15分ほどのクラブが練習の拠点でした。日本とは学校のシステムが違うと思いますが、お昼にクラブに行ってコーチとランチした後、12時から14時までの間、ボールを打つ練習が週に1〜2回、それから学校が終わって17時から19時か20時まで、大体毎日練習していたと思います。
 内容は基本練習ももちろんしましたが、ほとんどはサービスやレシーブからオールのような試合に近い練習でした。子供なので、どちらかというと楽しんでやるような練習が多かったですね。
 
 パバドとバタフライとをつなげた元全日本王者の梅村礼(タマス・バタフライ・ヨーロッパ)は、パバドを初めて見た印象を次のように回想する。
「最初はクリス(クリストフ・レグー/元フランス代表)がパバドを推してきたんです。良い選手がいるぞって。パバドがフランスのジュニアで優勝した時だったと思いますが、プレーを見た時、確かに面白い子だなと思いました。ボールタッチが良くて、試合のつくり方がとてもうまい。強くなるスピードも早かったので、ヨーロッパだけでなく、アジア勢をも食っていけるポテンシャルを感じましたね/梅村礼」
 タマス・バタフライ・ヨーロッパに勤務し、各国の選手をサポートしながら眼力を磨いた梅村が見初めた通り、パバドはフランスでは異例のスピードでナショナルチーム入りを果たす。
 2020年ヨーロッパユース・トップ10優勝を筆頭に順調にキャリアを重ねるパバドだったが、そのヨーロッパユース・トップ10の翌週、幼い頃からパバドの成長を支えてきたコーチのニコラス・グレイナーが急逝するという不幸がパバドを襲う。

成長を続けるパバド。梅村いわく、ボールタッチと頭の良さがその要因だ


--長年にわたってあなたをサポートしてきたグレイナーの訃報は大変なショックだったと思います。

パバド ニコラス(グレイナー)は、本当に家族のように近い存在でした。卓球のときはもちろんですが、卓球から離れたときも一緒にいることが多かった。ですから、彼が突然いなくなったことはとても残念でした。

--ご自身の卓球に影響はありましたか?

パバド (グレイナーの急逝は)残念ではありましたが、卓球が好きなので卓球を辞めようとは一切思いませんでした。家族や友達など、周りの人たちの(パバドがグレイナーの急逝から立ち直るための)サポートに、とても感謝しています。

2019年に2度目の来日をした時の一コマ。左側手前がグレイナー


 デリケートな質問に対し、痛みに耐えるかのように淡々と答えてくれたパバドの立ち居振る舞いからは、アスリートに欠かせない芯の強さや気丈さのようなものが感じられた。
 時間の経過がコーチ急逝のショックを和らげたのかと推察したが、パバドが訃報に接した当時も、彼女は気丈に振る舞っていたという。パバドの来日に同行したフランス女子ナショナルチームコーチのピュエル・オーレリアンは、当時の様子を次のように振り返る。
「パバドが小さい頃から、彼女とニコラスの関係を見てきました。だから、ニコラスが亡くなったと彼女が聞いた時、想像を絶するショックが襲ったと思います。しかし、ニコラスが亡くなって間もなくの合宿にパバドが参加した時、彼女は泣いたり落ち込んだりする様子を我々に全く見せませんでした。周りの献身的なサポートも知っていましたが、彼女なりにニコラスの死を乗り越えようと頑張ったのだと思います。恐らく、ニコラスもパバドに卓球を辞めてほしいなんて全く思っていなかったでしょうし、彼女もそれを十分に分かっていたでしょうから、パバドにとっては卓球を続けることはニコラスへの恩返しの意味合いもあるのかもしれません/ピュエル・オーレリアン」
 家族同然の恩師の急逝という衝撃をこらえながらラケットを振り続けたパバドは、翌年の2021年4月に行われた東京オリンピックのヨーロッパ予選を勝ち抜き、16歳で東京オリンピックの代表切符をつかむ。
 パバドは、以前、卓球レポートに掲載したインタビューで「具体的な目標は定まっていないが、1試合1試合集中して戦いたい」と語っていたが、4年に1度のビッグゲームは彼女にどんな実感をもたらしたのだろうか。 

パバドの来日に同行したピュエル・オーレリアン。フランス女子NTで腕をふるうコーチだ


--東京オリンピックの感想をお聞かせください。女子シングルス、女子団体とも1回戦で敗れましたが、特に団体ではシンガポールのエース・馮天薇にゲームカウント2対0とリードし、あと一歩まで迫りました。

パバド (馮天薇戦は)2対0でリードしていて、またチームとしても勝ち目があった試合だったと思います。ですが、2対0の時、それほど甘いボールではなかったのですが、自分の1本のミスから馮天薇がカムバックしてしまい、最終的に負けてしまいました。彼女が世界ランキング・トップ10(当時)の選手だったからなおさら勝ちたかったけど、その試合の中で勉強になったことがたくさんありましたし、すごく良い経験になりました。

--総じて、東京オリンピックはどのような大会になりましたか?

パバド 私は2024年のパリオリンピックに出ることを大きな目標にしていますが、その前に自分が16歳で、自分自身でヨーロッパ予選を勝ち抜き、東京オリンピックに出ることができたことは、自分にとってビッグニュースでした。東京オリンピックを経験したことによって、パリオリンピックへの持って行き方が変わりました。

--どのように変わりましたか?

パバド やはり、上のレベルの選手に勝つためには、もっとアグレッシブに行かないといけないと気づくことができました。

16歳で東京オリンピック女子シングルスに出場したパバド(写真提供=ITTF)


 東京オリンピックで貴重な経験を積んだパバドは、2022年7月に行われたフランスの全日本にあたるフランス選手権女子シングルス決勝で、フランスの絶対エースとして君臨するユアン・ジアナンをストレートで下し、フランス女王に輝く。そして、フランスの中軸として、2022年9月末から開催された世界卓球2022成都に挑んだ。

--初の世界卓球団体戦を振り返っていただけますか?

パバド 決勝トーナメント1回戦でスロベニアに敗れました。スロベニアは同じヨーロッパですし、勝つチャンスは十分あったので残念でした。でも、初めて世界卓球の団体戦に出場し、自分が2点を落としてしまった試合(予選リーグの香港戦)もありましたが、全体的に内容は良い試合ができたと思います。

--課題は見つかりましたか?

パバド 大会を通してポジティブに捉えられる試合が多かったのですが、自分はまだ若いので、フィジカルの面や戦術面で足りないところはまだまだあると実感しました。
 その一方、自分のサービスとサービスからの展開は、この先も得点源になる手応えがつかめたので、さらにステップアップさせていきたいと思います。

--確かにサービスは効いていましたね。あらためて、自分のプレーの持ち味を自己分析していただけますか?

パバド サービスからの攻めが長所だと思います。3球目も回転の変化をつけたり、タイミングを変えたりだとか、そうしたことがうまくできると自分では思っています。

--その一方、さらに上に行くために強化すべきポイントはどこですか?

パバド サービスから3球目は良いのですが、その後、ラリーが長く続くとアグレッシブに行けない部分が出てきてしまい、盛り返されることが多いので、そこは改善していく必要があります。

世界卓球2022成都でフランスの中軸として出場したパバド

予選の香港戦では奮戦するも2失点。貴重な経験を積んだ

 
 世界卓球2022成都では予選突破に貢献し、決勝トーナメント1回戦のスロベニア戦トップでも勝利するなど、パバドはベンチの期待に応えるプレーを見せたといえる。本人も一定の手応えをつかんだようだが、彼女の成長の一助となっているのが、日本での練習だ。

--今回で3度目の来日ですが、日本の印象はいかがですか?

パバド 私の両親はインド出身で、インドはお米を主食にするので、同じくお米を主食にする日本の食事はとても好きです。特に、親子丼が好きです。今回は邱さん(邱建新)の卓球場(邱卓球塾)で練習させてもらっていますが、その近くのスーパーで売っている親子丼がとてもおいしいんです。
 食事に加え、日本の人たちはとても親切で、ほかの国みたいにざわざわせず、急に大声を出して騒ぐ人もいません(笑)。皆、落ち着いています。

--邱さんのところで練習しているということですが、いかがですか?

パバド すごく良い練習をさせてもらっています。厳しいだけではなくて、厳しい練習の中でも邱さんはジョークを言ってきたりして和ませてくれます。でも練習はハードなので、とても良い練習ができています。

--日本の女子は中国に次ぐレベルの高さだと思いますが、あなたからどう見えますか?

パバド もちろん中国が1番ですが、日本はもうかなり近づいているのではないでしょうか。中国の選手は確かに強いですが、リズムや球質がみんな似通っています。
 一方、日本の選手は使っている用具が違うというのはありますけど、早田(早田ひな/日本生命)や伊藤(伊藤美誠/スターツ)、木原(木原美悠/JOCエリートアカデミー/星槎)などみんなが自分の個性を持ったプレーをしているので、自分にとってすごく勉強になるし、かなり参考になる部分が多いと感じています。


 今回の来日(取材を行ったのは2022年10月下旬)では、名将・邱建新氏のもとで充実した毎日を送っていると明るい表情で話してくれたパバド。フランスに帰れば、日本のナショナルトレーニングセンターにあたるINSEP(国立スポーツ体育研究所)できたるべき2024年パリオリンピックに向けて汗を流す毎日だという。
 インタビューの最後は、フランスでの毎日やパリオリンピックへ向けての意気込みについて尋ねた。

--フランスでのおおまかなスケジュールを教えてください。

パバド 普段はINSEPで練習しています。基本的に9時30分から12時、15時30分から18時の2回練習します。その合間にトレーニングコーチが来てフィジカルトレーニングを行いますし、私はまだ学生なのでINSEPに学校の先生が来てくれてマンツーマンで授業も行います。

--授業も受けられるとは、INSEPとはすごい環境ですね。オフはどのように過ごしていますか?

パバド 試合のない週末は、大体実家に帰っています。時間があれば映画を見に行ったり、本を読んだり、友達とご飯を食べにいったりして過ごしていますね。

--ティーンエイジャーらしいですね(笑)。最後に、2024年パリオリンピックはあなたのキャリアの中でも重要な大会になると思います。どう捉え、どのように向き合っていこうとしてるのかお聞かせください。

パバド すごく遠い未来の大会というわけでもないし、そうかといってパリオリンピックばかりを考えることもできないのですが、上ばかりを見ずに自分の足元をしっかり見て、自分ができることを一つずつクリアして、パリオリンピックへ向けて準備していくというのが当面の目標です。

終始落ち着いてインタビューに答えてくれたパバド。強い芯を感じさせる選手だ

  
 地に足が着いた、という言葉がピタリと当てはまる選手だ。パバドは、とても18歳とは思えない落ち着いた所作でインタビューに答えてくれた。
 取材に同行したコーチのオーレリアンは、「パバドは女子ではあまり見られないフィーリングを持っている選手。そして、頑固。彼女なりにターゲットが決まっており、それに向けて真面目に冷静に練習に取り組むので本当に手がかからない。その半面、言うことを聞かないことも(笑)。でも、それはアスリートとして大切な部分」とパバドの良さと、その人柄を話してくれた。
 生来の頑固さに拠(よ)る冷静さで、じっくりパリへ向かうというパバド。天から授かったフィーリングと、それを生かすための年齢に似つかわしくない落ち着きは、同じサウスポーのティモ・ボル(ドイツ)や水谷隼(木下グループ)の若い頃に通じる資質だ。
 20歳で迎える2024年のパリオリンピックがパバドにとってどんな大会になるのかはもちろん分からない。しかし、母国開催でも浮かれず慌てそうにないメンタルを備えたパバドは、誰にとっても脅威になることだけは間違いないだろう。
 
文中敬称略
(まとめ=卓球レポート 協力=梅村礼、久保真道)
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