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世界卓球2022成都 男子団体銅メダル獲得
田㔟邦史男子NT監督インタビュー(前編)

 
 2021年の9月にナショナルチーム(NT)の男子監督に就任した田㔟邦史氏は、世界卓球団体戦の監督初陣となった世界卓球2022成都で日本男子を見事に銅メダルへと導いた。田㔟氏は監督として采配を振るう一方で、選手たちを裏でどう支え、彼らの戦いぶりをどう見たのか。
 卓球レポートでは、世界卓球2022成都から2つのWTTに帯同して帰国した田㔟監督にロングインタビューを行った。
 前編では、世界卓球2022成都へ臨む準備と、予選グループリーグについて話を聞いた。

まずは予選を1位通過することだけを考えていた

--銅メダル獲得おめでとうございます。まず、監督に就任されて初の世界卓球団体戦でしたが、どのような準備をされましたか?

田㔟 NTの仕事に携わって10年目になりました。東京オリンピックのベンチなどにも入らせていただいたので、そうしたコーチ時代の経験があったからか、大会前の緊張や気負いは私はほとんどありませんでした。
 それより、準備で気にしたのは、やはりコロナですね。日本を出発する前に2PCR検査をしなければならなかったり、準備する事がいろいろありましたので、みんな元気に無事に日本を出発できるかがまずは気がかりでした。朝起きて、携帯に誰かから「すみません、体調が悪くて」と連絡が来るんじゃないかと毎日不安でした。
 出発前の準備だけでなく、現地に着いてからも毎日PCR検査が行われたので、不安はずっと続きました。 

--チームの健康管理は大変だったと思います。そうした中、出発前に丹羽孝希選手(スヴェンソンホールディングス)がインフルエンザで棄権になってしまいました。

田㔟 孝希の棄権はとても残念でしたが、大きな動揺はありませんでした。みんな元気で日本を発ちたいと思ってはいましたが、その一方で、このコロナ禍で選手やスタッフの誰かしらが体調不良で離脱するのではないかと覚悟していましたから。
 ただ、やはり孝希のキャンセルは大きかった。智和(張本智和IMG)も経験が豊富かと聞かれれば、世界卓球の団体戦は今回が2回目でオリンピックの団体戦も1回だけです。そして智和以外の3人は初出場で計算ができません。そう考えると、孝希のネームバリューや経験値は重要でした。実際に彼はビッグゲームで勝っていますからね。孝希がいれば、オーダーの幅は広がったとは思います。
 とはいえ、体調が悪い中、連れていくことでいろいろなリスクも考えられるし、大会に向け万全な状態で試合に臨めないことを考えれば残念ではありますが、(丹羽の)辞退の判断を受け入れ、最後は私が決断しました。

--丹羽選手に代わる選手をエントリーすることはできたのでしょうか?

田㔟 すでにその時にはビザの申請等が終わっていたので、あのタイミングではどうあがいても無理でした。そもそも中国からは、最小限の人数で来てくれと通達がありましたので。
 選考会(2022 LION CUP TOP32)の結果でいえば、有延(有延大夢/琉球アスティーダ)、篠塚(篠塚大登/愛知工業大)、曽根(曽根翔/T.T彩たま)、上田(上田仁T.T彩たま)の順にリザーブは繰り上がりになります。本来であれば、スパーリングパートナーをお願いしつつ経験を積ませる目的で2人くらいはあらかじめエントリーしておきたかったのですが、人数制限があったことに加え、彼らにはTリーグもあり、そこでの結果もオリンピックの選考ポイントに関わってくるので、それを犠牲にしてまで練習相手としてついてきてくれとは頼めませんでした。
 孝希の辞退は仕方がないし代わりもいない、4人で頑張ろうと選手たちには話しました。

--大会前は、どのように目標を立てていましたか?

田㔟 まずは予選を1位で通過することだけを考えていました。
 なぜなら、前回大会では予選でイングランドに負けて2位通過韓国のところに入り、メダルを逃していたからです。当時の日本にとって韓国は特別に嫌な相手ではありませんでしたが、1位で通過していたらもっと楽な組み合わせになる可能性が高かった。やはり2位通過だと、どこに入るか分かりません。
 とにかく、予選はなんとしても1位通過。そして、決勝トーナメントでは、どこが来ても一戦一戦がんばる、という考え方でしたね。

世界卓球2018ハルムスタッドでは準々決勝で韓国に敗れ、メダルを逃した日本男子


--メンバーが4人になり、そのうちの3人が世界卓球団体戦初出場ということで、不安はありませんでしたか?

田㔟 不安はなかったですね。3月の選考会で代表メンバーが決まってから半年間、合宿や国際大会への派遣などによる強化の手応えはありました。もちろん未知数のメンバーでしたが、優勝やメダルを狙うというより、「どのくらいやってくれるんだろう」と純粋に楽しみでした。

--代表メンバーの決定というところでは、今回の世界卓球への代表選考は、3月の2022 LION CUP TOP32の一発勝負でした。この選考方法については、監督の立場からいかがですか?

田㔟 もちろん、怖かったですよ。仮に智和が5位以内に入らなかったら、彼は出場できなかったわけですから。私は国際大会と国内大会で勝つ選手には違いがあると考えています。智和のような絶対的なエースが落選する可能性もあるし、私が期待する選手を選べないという面もあります。誰しもが納得する代表選考方法というのは難しいかもしれませんが、世界で勝つ事を考えたら監督推薦で1人か2人は選びたいのは正直な気持ちです。
 とはいえ、代表選手を強化し、勝たせる事も私の仕事だとも認識しています。代表が決まった以上みんなで頑張ろうという前向きな気持ちしかなかったですね。

一発勝負の選考会は張本が優勝したが、「怖かった」と田㔟監督

様子見できない厳しい予選リーグになったというのが、ドローが決まった率直な感想

--予選のドローが決まった感想はいかがでしたか?

田㔟 自分たちの予選リーグが1番厳しいんじゃないかというのが、率直な感想でした。ルブラン兄弟のいるフランスと、インドが入ってきたら嫌だなとは思っていたので、そこがほかに入ってくれたのは良かったのですが、香港、ルーマニア、イラン、そしてハンガリー。予選リーグの4番目、5番目がイランとハンガリーですから、選手の調子や休養を考えたりできないと正直思いました。
 初出場の選手が3人いる中で、誰のコンディションが良いのか見たいなと思っていましたし、智和を少しでも休ませたいと思っていました。しかし、そんな様子見をしていたら危ない対戦チームばかりだったので、厳しいドローを引いてしまったなと。

--難しい相手がそろった中、初戦のイラン戦はいかがでしたか?

田㔟 とにかく、良いスタートを切りたいと思っていましたが、1戦目にしてはイランは1番嫌な相手でした。エースのNo.アラミヤンはサービスがうまく、すごくトリッキーなプレーで格上の選手にも勝つ実績を残しています。智和も戸上も初対戦だったし、2点取りされる可能性もあると考えると少し怖かったですね。
 そんな中で、トップの戸上が良い試合をしてくれました。レシーブもうまくできましたし、何より初出場とは思えない堂々としたプレーでとても良いスタートを切ってくれました。

--2番に出場した張本選手の初戦はどう見ましたか?

田㔟 智和の場合は、相手が誰であれ1試合目はナーバスになりやすく、1ゲーム目は落としたものの、2ゲーム目以降はしっかり立て直してくれました。

--具体的に、どうナーバスになるのでしょうか?

田㔟 1試合目は誰でも自分の感覚や卓球台の弾み、会場の雰囲気などを意識し確かめるものです。どうしても相手のミス待ちのようなプレーになりやすい。そうすると、相手は智和に対して向かってきますから怖いところです。
 智和のプレー自体は絶好調というわけではありませんでしたが、1ゲーム目を落としても落ち着いてプレーし、しっかり勝ってくれたと思います。

--3番の及川瑞基選手(木下グループ)は接戦でしたね。

田㔟 競り合う相手ではなかったですが、危なかったですね。3番は及川と横谷(横谷晟/愛知工業大)のどちらを使うか悩みましたが、経験値が上の及川を起用しました。
 及川も初出場だったし、良いスタートを切りたいと気負っていたと思うので、おそらく誰が相手でもああいう試合になったんじゃないでしょうか。しかし、あれだけ硬くなってもよく勝ってくれました。
 初戦は、いろいろなものを確かめなければいけない難しさがあるのですが、30のストレートで勝てたというのはチームとして非常に大きかったですね。

イラン戦トップでの戸上の勝利が日本を勢いに乗せた

「俺が1番悔しいのは、智和がベストを尽くせないこと」とルーマニア戦後、智和にそう話した

--2試合目のルーマニア戦はもつれましたね。

田㔟 予選のドローが決まったときに全試合危ないなと思っていたし、接戦になる覚悟はできていたので、正直全く慌てませんでした。
 あの試合は、2番で戸上がO.イオネスクに勝ったのが、今思えば本当に大きかった。ただ、第4ゲームで10-6とマッチポイントを握ってから連続失点で逆転、第5ゲームも6-1でリードしながらまた逆転されたことは良くなかったし、戸上の1番の課題が出てしまいました。

--連続失点してしまう要因は田㔟監督から見てどこにあるのでしょうか?

田㔟 単調になってしまうんですね。ずっと同じことをしてしまう。相手はもう諦めかけているのに、そうした空気感や状況を読む余裕がまだないと感じます。
 ただ、普通だったらあのまま逆転され負けてもおかしくないところを、よく踏ん張ってくれました。

--しかし、3番で及川選手、4番で張本選手が敗れてしまいました。

田㔟 及川がストレートでH.スッチに負けたのは、チームとしてもそうですが、彼の調子を見る上で少し慌てましたね。及川は冷静なプレーが持ち味なのに、あの試合は、判断力に欠け空回りしていました。もちろん、及川の力があんなものでないことは分かっていましたが、初戦のイラン戦でも良くなかったので、あの時は実力なのか、それとも緊張が解けていないだけなのか判断に迷いました。
 智和は決めてくれるだろうと思っていたところ、負けてしまいましたが、O.イオネスクが良かったですね。智和とのバック対バックに付き合わずに、すぐ決めにきました。
 ただ、O.イオネスクの出来は確かに良かったのですが、智和の集中力にも問題があった試合でした。そのことについては、試合後に彼と話しました。

--差し支えなければ、張本選手とどのような話をしたのか教えてください。

田㔟 予想以上に(相手の強打が)入ってきて本人も驚きはあったと思います。しかし智和だったらピンチに陥ってもなんとかしようとするのですが、あの試合はそのまま終わってしまったんです。
 だから、試合の後、「智和は絶対に勝たなきゃいけないと思っている気持ちがあるかもしれないけれど、俺からしたら智和はまだ19歳で、正直、日の丸を全て背負わせるのはかわいそうだと思っている。勝たなきゃとか、負けたらとか余計なことは考えてほしくない。俺が智和に対して1番悔しいのは自分の力を発揮できずに負けることだ。今の試合は全然集中力がなかったよ。自分の力を発揮してほしい」というような内容の話を、怒ったり説教めいたりした感じではなく、普段の会話をするような感じで気軽に話しました。

--張本選手へのインタビューでも、ルーマニア戦後に田㔟監督が普段の会話みたいな感じの声をかけてくれて、それで切り替えられたと話してくれましたが、そのような内容だったんですね。

田㔟 例えば、WTTの国際大会では問題や課題のあるような試合をしていたら、智和に限らず厳しく指摘することはあります。なぜなら大舞台で失敗してほしくないからです。しかし、世界卓球やオリンピックのような大舞台では私はベンチの雰囲気や選手たちのモチベーション、挑戦するんだという空気感が何よりも重要だと考えています。その部分を大切にすることで選手たちは自分の力以上のものを発揮できると考えています。そこを心掛けて智和だけでなく、選手たちに声がけをしています。 
 智和が切り替えられたということでしたら良かったです。実際に、ここから智和は別人になりましたから。

予選リーグでは思うように力を出せなかった及川

張本覚醒の要因は、ルーマニア戦後の田㔟監督の声かけにあった

自分で勝ち取った代表権だし出してあげたかったので、3番に横谷の名前を書いた

--次の香港戦はいかがでしたか?

田㔟 トップで戸上が黄鎮廷に勝てば決まるとは思っていましたが、黄鎮廷が丁寧にプレーしてきて、負けてしまいました。ただ、1ゲーム目の競り合いを取っていれば分からなかったと思いますが。
 2番の智和対林兆恒は東京オリンピックのシングルスで競っていたので少し怖かったですが、完璧な内容でした。

--3番の及川選手は接戦になりましたが見事勝利し、張本選手がしっかり締めました。

田㔟 及川は、まだ会場の雰囲気に慣れていなくて、自分は世界卓球の団体戦でどうやって戦ったらいいかを探しているような感じでしたね。相手に助けられた部分もありますが、マッチポイントを握られた場面からよく勝ってくれました。最後までボールを追いかける及川の良さが出たと思います。仮に及川が負けてラストまで回っていたら、林兆恒はルーマニアのE.イオネスクよりもう一段強い相手なので、戸上のことは信頼していましたがラストはどんな試合でも怖いものですから、この及川の勝利は本当に大きな1勝でした。
 そして、智和は2番に続いて黄鎮廷に対して完勝し、完全にゾーンに入ってくれたのでもう心配はいらないなと思いました。

--予選最後のハンガリー戦では、3番に横谷選手を起用しました。全勝で1位通過がかかる中、初出場の選手を起用するのは勇気がいったと思いますが。

田㔟 本当は全員でぐるぐる回して調子の良しあしを見たかったのですが、予選の対戦相手的にそうもいきませんでした。
 ハンガリーも強い選手がそろっていて21敗で来ていたので、負ければどうなるか分からない状況でした。3番は確実に取りたいと思っていたので、3試合をこなしている及川で行こうかとも思いましたが、横谷も自分で代表権を勝ち取ったメンバーですし、出してあげたかったので3番に横谷の名前を書きました。
 試合は負けましたが、内容は良かったと思います。初出場ながらも思い切っていたし、雰囲気を楽しんでのびのびプレーしている印象でした。細かなミスの差で勝てませんでしたが、世界卓球の雰囲気から何かしら感じ取ってくれたと思いますし、この経験を今後どう生かすかは横谷次第ですが、彼の成長につながってくれれば良いなと思います。

--横谷選手は惜敗しましたが、チームはしっかり勝ちました。目標だった1位通過を決めたお気持ちは?

田㔟 まずは予選1位通過が目標だったので、第1の目標を達成することができてほっとしました。

予選1位通過を達成し、とにかくほっとしたという田㔟監督

インタビュー中編
「王楚欽戦でのタイムアウトは今でも自問する」

(まとめ=卓球レポート)

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