世界卓球2021ヒューストンでは女子シングルスでベスト16、2021年、2022年パンアメリカン選手権大会を2連覇などの好成績を積み重ね、2022年第12週の世界ランキング(女子シングルス)で自身初、そして、プエルトリコ出身の選手として初の一桁台(9位)を記録したアドリアナ・ディアスが昨年来日した。世界卓球2022成都では、エースとしてプエルトリコを初の決勝トーナメント進出に導くという偉業も成し遂げた。プエルトリコという卓球選手としては決して恵まれたとは言い難い環境から、トップ選手の仲間入りを果たした秘訣(ひけつ)を聞いた。
世界卓球での決勝トーナメント進出は
「家族のような結束力」があったから
--世界卓球2022成都で、プエルトリコ女子が団体戦で初めて決勝トーナメント進出を果たしました。予選リーグ突破を決めた時の心境はどのようなものでしたか?
アドリアナ・ディアス(以下、AD) とにかく素晴らしかったです。予選はみんなで突破したいと思っていましたが、難しいことも分かっていました。私たちが予選を通過できたのは、私たちのチームに家族のような結束力があったからだと思います。
特に、(アメリカ戦ラストの)リオスのプレーはみんなの期待を超えた素晴らしいものでした。彼女と同じチームでプレーできたこと、そして、プエルトリコを代表する選手になれたことにとても感謝しています。
--2022年の10月には、WTTの大会の中でも最も重要な大会の一つであるWTTカップ・ファイナルでは、世界ランキング9位の杜凱琹(香港)に勝ちベスト8まで進出しましたね。
AD WTTカップ・ファイナルは、中国での試合だったので、他の大会とは雰囲気も違いましたし、大勢の観客もいて、時には緊張もしました。世界ランキング上位の選手に勝つことはとても難しいことで、どの試合も決勝のような準備をしなければなりません。(1回戦で対戦した)杜凱琹(香港)のことはよく知っているし、良い友人でもあります。あの試合で、私は本当に勝ちたかったので、私ができるすべてを出し切ってプレーしようと思い、多くの準備をしました。
試合の時はベンチに入ってくれた父が、とても勇気を与えてくれました。彼女のようなとても優れた選手に勝つことができたことは将来への自信にもなりました。
--世界ランキング10位以内の選手に初めて勝利したことをどのように感じていますか?
AD 素晴らしい気分です。私が世界ランキング10位に入る前は、トップ10に入ることは常に夢でしたし、トップ10に入ることは、自分がいるべきところにいるという自信につながります。
また、ワールドカップやWTTのチャンピオンズ、スマッシュでは毎試合、勝利を収めるのはとても難しいことだと感じていますが、こうした経験は自分のキャリアにとっても、肉体的、精神的な向上にとっても、とてもいいことだと思います。だから、あの勝利はとても重要なことですし、自分の競技力を保つための自信にもつながっていると思います。杜凱琹に勝ったことで、さらにモチベーションが上がり、厳しい練習を続けることができるようになりました。
プエルトリコの子どもたちに見せた卓球の未来
--ディアス選手の活躍でプエルトリコの卓球事情も変わったと思います。何か変化を感じることはありますか?
AD プエルトリコには以前からも卓球選手がいて、そこそこ活動はしていましたが、ここ最近になって卓球への注目度は格段に上がりました。スポーツ全体の中でもトップ3に入るほどの注目度になって、プエルトリコ中の人たちが以前よりも卓球に興味を持って見てくれるようになり、私たちの試合結果を常に気にしてくれるまでになっています。
そして、これは卓球選手だけでなく、スポーツ界全体にとっても非常に重要なことだと思いますし、プエルトリコの人たちはみんな卓球がどういうものかをわかってくれていると思います。プエルトリコの人たちはみんな卓球を楽しんでいますし、とても気に入ってくれています。
--プエルトリコの若い選手の競技レベルも向上してきているのでしょうか?
AD そうですね。これは私たちが卓球のためにしてきたことの中でも最も優れた成果の1つだと思います。今、プエルトリコでは多くの人たちが卓球をプレーしていますが、彼らはただ楽しいからプレーしているわけではありません。彼らは、このスポーツに未来があると思うからプレーしているのです。卓球で生計を立てることもできるし、国に貢献することもできる、いろんな国に行くこともできる。卓球を通して、多くのことを学ぶことができるのです。
だから、子どもたちが卓球をしているのは、楽しむためだけでなく、それをキャリアとしてとらえ、人生を変える可能性のあるものとして見ているからです。特にプエルトリコの子どもたちが、自分にもできると信じてプレーしているのを見ると、本当にうれしくなります。それが何よりの喜びです。
一番大事なのは、過程を楽しむこと
--私が最初にディアス選手のプレーを見たのは世界ジュニア2013ラバト(モロッコ)でした。当時から強い選手でしたが、どうしてここまでのトップレベルに到達することができたと思いますか?
AD 正直に言うと、私もここまで強くなれるとは思っていませんでした(笑)
以前は成績も気にせず、どれくらいまで強くなろうとも考えず、ほぼ楽しみのためだけにプレーしていました。本当にこのスポーツが好きだったからです。
でも、プレーを続けているうちに、21歳以下のトーナメントで優勝したり、本当に強い選手に勝てるようになったりして、自分がどんどん上達しているのがわかりました。だから、トップ20に入った時、これは私のキャリアの中で最高の到達点になるだろうと思いました。
しかし、もっと時間がたってトップ10にどんどん近づいてくると、もっと大きなことを成し遂げたいと思うようになりました。私がトップ10に到達できた理由は、ランキングを上げようとせずに、そのプロセスを楽しみ、旅を楽しむことができたからだと思います。私はこの間、ストレスを感じることもなく、楽しむことができたので本当に幸せでした。
--20位に入った時、それが自分の最高到達点になると思ってから、さらにランキングを上げることができたのはなぜですか?
AD 19位までいった時(2020年3月)に、本当にうれしかったので、それ以上の成果は求めませんでした。19位で十分幸せだと思ったんです。世界で19位ですから、すごい成果ですよね。
でも、19位っていうのは、40位とか50位と比べたらトップ10に近いんです。だから、トップ10に入れるかもしれないということは頭の片隅にはありましたが、それはとても遠くに感じていました。
そして、プレーし続けていたら、トップ10がだんだん近づいてきて、それが実現したんです。9位にまでなったことは、今でも信じられないような、私の人生にとってとても重要な出来事になりました。
--ディアス選手と同じレベルの選手たちはもっと「試合で勝つこと」「ランキングを上げること」に集中しているように感じます。そうした選手たちの中で、「ストレスを感じずに楽しむことができた」というディアス選手は異彩を放っていますね。
AD 私は本当にランキングは気にしていないんですよ。もちろん、タフなトーナメントに参加する選手にとって、ランキングを上げることは大きなモチベーションになりますが、一番大事なのはその過程を楽しむことだと思います。
もし、その過程を楽しもうと思っても、肝心なことを忘れたままでいたら、実現できなかった目標のために自分のキャリアが過ぎ去ってしまうことになるかもしれません。私は過程を楽しんでいるうちに、最後には報われるような気がするんです。
一風変わったプレーをする選手に注目している
--動画などで試合を見るのは好きですか?
AD はい。 私は自分の試合のビデオをよく見ます。自分が負けた試合を見るのは好きではありませんが、負けた試合を見ると、何がうまくいかなかったのか、何を改善しなければならないのかがわかるので、それが一番重要だと思っています。自分が負けた試合こそ、見る必要があるので、多くの時間は負けた試合を見ますが、楽しいものではありませんね。
また、対戦相手のビデオも見ます。その選手の試合運びや私がどのようにそれに対応できるかを見ようと心がけています。でも、ビデオは便利な反面、考えすぎてしまうことがあります。それは危険なことでもあるので、あまり試合の内容に没頭せずに表面だけを見るようにして、自分のできることに集中するように気をつけています。
--好きな選手や憧れの選手はいますか?
AD 特にこの選手というのはありませんが、好きな選手はたくさんいます。初めて世界卓球に出場したときに見た劉詩雯(中国)はとても印象的でした。プレースタイルは私とは全然違いますが、今でも好きな選手です。
男子では丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)とか、ヨーロッパの選手とか、一風変わったプレーをする選手には注目しています。
--そのような変わったプレーを自分のプレーの参考にしたりもしますか?
AD 変わったプレーを見て、私にもできるかもしれないと共感することはあります。特に、日本の選手、伊藤美誠(スターツ)や加藤美優(吉祥寺卓球俱楽部)みたいな変わったプレースタイルの選手を見ると、自分もやってみようという気になります。彼女たちのプレーはオリジナリティーにあふれていて、対戦するのは楽しくないけど、見るのはすごく楽しいです(笑)
インタビュー後編では、父と邱建新、2人の指導者について、また、今後の目標などについて詳しく聞いた。
A. ディアス インタビュー(後編)「他の人と違うことが重要」
(まとめ=佐藤孝弘/写真=猪瀬健治/取材協力=久保真道)