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張本智和インタビュー 
世界卓球2023ダーバンを振り返る②

 このインタビューでは、世界卓球2023ダーバンにどう臨み、どのように戦い、その結果をどのように受け入れ、そして、今何を思うのか。張本智和(智和企画)の今に迫る。
 第2回は、男子シングルスの準々決勝、梁靖崑(中国)戦を振り返ってもらった。
(※このインタビューは2023年6月9日に行われたものです)



梁靖崑戦は、とにかく相手よりも粘ろうと思って臨んだ

--次の準々決勝が梁靖崑でした。ドローでは一番引きたくない相手ということでしたが、梁靖崑はどんなところが嫌な選手ですか?

張本智和(以下、張本) 嫌というよりも、ドローで引く可能性のあった4人(梁靖崑、林高遠[中国]、カルデラーノ[ブラジル]、モーレゴード[スウェーデン])の中では一番強いですし、対戦成績も1勝4敗だったので......。それを抜きにしても、僕にとっては馬龍、樊振東(ともに中国)よりもやりづらい相手ですね。
 バック面が中国ラバーなので、回転がかかっていて飛んでこない。そうすると、自分で打たなくてはいけないのですが、打とうとすると回転に引っかかってしまってオーバーミスしたりしますし、あと何よりしつこいですね。がむしゃらさや粘り強さは馬龍、樊振東以上にあります。
 中国選手として4番手という立ち位置的にも、僕に勝ってベスト4に入れば評価されるところですし、準々決勝から(立ちはだかる)中国の3枚中、1枚目の壁ということを含めて、やりづらさを感じていました。
 彼が勝った後の表現を見ても、本当に負けたくなかったんだなと感じましたが、やっぱり馬龍や樊振東に比べると、負けられないプレッシャーは多少は少なかったかなとは思いますね。

--戦術的にはどのようなプランで臨みましたか?

張本 今まで、負けた時はバック対バックで強くいって負けていました。梁靖崑は思い切り振ってくるわけではなく、ずっとチョリチョリ、キュンキュン粘ってくるだけで、それに対して僕も抜かれることは絶対にないので、バック対バックは無理せずラリーを続ける気持ちで、タイミングがあればバックストレートを狙おうと考えていました。
 サービス・レシーブも無理せず、チキータはチキータ、ストップはストップ。本当に真っ向勝負で、そんなにいい作戦もなく、相手に弱点がないのも知っていますし、とにかく相手よりも最後1球2球粘ろうという感じでした。

--1ゲーム目はリードしていて、ゲームポイントも先に取っていましたが、逆転されてしまいました。

張本 もう何度もそういうことはされているので、10-8から逆転されたのも普通だと思っていました。ただ、自分が先に10点取っただけで、最終的に11点、12点取らないとそのゲームは取れないので。ですから、そんなに精神的ダメージもなくて、リードもたかが2点ですし、全然こういうこともあると思っていました。
 もちろん、取り切りたかったですけど、そこを含めて中国の強さというか、先に11点を取ったり、先に4ゲームを取るのが難しい相手が中国ですし、今までもツアーなどで散々こういう逆転負けをしてきたので、「次のゲーム」と思って切り替えました。

梁靖崑戦は、序盤からがっぷり四つの打撃戦となった

最後の2本を取らせてもらえない
そこが中国の強さ

--2ゲーム目も競り合いになりましたね。

張本 やっぱり、荘智淵(中華台北)やフレイタス(ポルトガル)とやったときに取れる「最後の2本」が中国選手とやるといつも取れない。実力的、技術的な余裕があるから9-9で相手の方が気持ち的にも余裕があるし、そういう修羅場を梁靖崑の方がいっぱいくぐり抜けてきたからこそ、その2点を取り切れるだろうし、なんとなく試合前から「最後の2本」を取るのが難しいだろうという覚悟はしていました。
 本当にその通りに、相手は思い切ってくる、自分はちょっとしたミスをしてしまう。そこを「しようがない」で片付けてはいけないですけど、やっぱりそこで取り切れない原因というのもなんとなく分かるような気がします。

--9-9からの2点を取り切る力の差というのは具体的にはどのようなところだと思いますか?

張本 僕的には技術力、自分の技術を信頼できているかどうかだと思います。例えば、僕がもし80%だとしたら、梁靖崑は81%、82%だという気がしていて、それが荘智淵は75%くらいだったかもしれない。100本打ったら何本入るか、その1本、2本の差、それだけの違いだと思います。
 梁靖崑は自分は81本入ると思っているから、僕より1%多く自信が生まれて、僕が2点差で2ゲームしか取れなくて、相手が4ゲーム取れたという、本当に自分が思っていたような結果になってしまったというか、俯瞰的に見た時にはそういうことだと思います。
 逆に、自分が荘智淵に対して、なんとなく勝てるだろうなと思っているのも同じようなことで、実際にやると勝てますからね。梁靖崑戦ではそれを覆したかったけど、やっぱり難しかった。
 だから、試合の中で9-7とか10-8でリードしている局面があったというのは勝敗とは関係ないと思います。結局、先に11点にたどり着いた方が勝ちなので、ただある時リードしているように見えるということは勝ち負けとは関係ないんです。

--どんなプロセスを経ても、最後は実力通りの結果になるということですね。

張本 そうですね。2対4の9-11で梁靖崑が上だったということですね。試合前もなんとなくそういう覚悟はしていましたね。過去の戦績から見ても、自分の方が自信があるとは胸を張っては言えないし、ちゃんとやれば勝てるというのは梁靖崑の方にあったと思うので、それが4回戦までは僕の方にあったというだけで、梁靖崑、樊振東、馬龍、王楚欽に勝つには、それを覆す何かが必要であって、今までも自分は何回かそういうことをしてきたかもしれませんが、こういう経験をしてきて、それがいかに難しいかを感じています。
 10-8から逆転されても焦らないとか、そういう想定をできるようになったのはいいことかもしれないけど、中学校、高校の頃の何も考えずに「自分なら勝てるでしょ」と単純に思っていた、あの時の純粋さとか爆発力はなくなってきています。もちろん、年を取るごとにあの純粋な時に戻れなくなっていくのは分かるので、それもいろいろ全部含めての今の2対4の9-11なんだなって思います。
 だから、もちろん悔しいですけど、別に負けたことには全然驚いてはいないです。2対2の9-8でフォアハンドのチャンスボールをミスしましたが、確かに痛いしもったいないポイントですが、あれを取らせないからこその中国であり、梁靖崑なのだとすごく腑(ふ)に落ちます。

--とても理性的に負けを受け入れているように感じますが、あの試合で勝つために何が必要だったと思いますか?

張本 簡単に言ってしまうと練習ですね。
 大会前に80%を82%まで上げることができれば勝てていたかもしれないし、今までのいろいろな大会でもっと勝ち上がって、もっと前にこういう負けを経験していたら勝てたかもしれない。
 梁靖崑もたぶん、2、3年前にこういう負けをしたから今回は勝てたかもしれないし、年齢もあっちの方が7個か8個くらい上で、その数年分の経験というのはお金でも練習でも買えないもので、時間だけが解決してくれるものなので、だからこそ、年齢や経験が大切だなと最近は思いますね。そこは、自分が25歳にならないと分からないことがあるし、30歳にならないと分からないことがあると思います。

--感情的に悔しさみたいなものはどれくらいありますか?

張本 今でもめっちゃ悔しいです。帰国してまだ1週間しかたってなくて、会う人と世界卓球の話になると、しゃべっていても今でも悔しいです。勝てていたらどれだけよかったかとも思いますが、なんで負けたかがよく分かるし、逆に僕が勝って梁靖崑が負ける理由の方が少ないですからね。
 今までは、その少ない可能性の中で樊振東や馬龍に勝った時に「すごい」と言われた理由も分かります。知ってしまったからこそ、できなくなったこともあるし、知ったからこそ準備できることもあると思います。
「かつての爆発力プラス今の経験」で50+50=100というわけにはいかないんですよね。何かを得て何かを失っているというのは非常に感じるので、だからこそ、5ゲーム目の9-8でドライブが入らなかったのかなと。
 今までだったら「何してるんだよ、ばか野郎!」と思って、練習すれば何とかなると思っていたかもしれないですね。
 なんであのボールをミスしたかというと、もしあれが荘智淵のストップだったら、ミスしてなかったと思うんですよ。ボボチカ(イタリア)か荘智淵だったら、あのレシーブ(ストップを浮かせる)を僕は想定していただろうけど、梁靖崑があんなレシーブをするとは思わなかった。さっきまであれほどビタ止めのストップをしていたし、質の高いチキータをしていたからこその僕のミスですね。あの高いストップをしたのが梁靖崑ではなく、相手選手がレシーブでストップを浮かせたというあの1球だけを見ればチャンスボールですけど、ラブオールからの1球1球、そして、今までの梁靖崑の実績、いろいろ含めた上でのあのボールは、僕はチャンスボールだったとは思わないので、あのミスは確かにもったいないけど、ミスの理由は分かります。

勝負どころで甘いレシーブをしてしまった梁靖崑だったが......

梁靖崑がメダルを取れて僕が取れなかった理由
それが一段階一段階分かってきている

--梁靖崑があの場面で、あんなに甘いレシーブをすると思っていなかったということですね。

張本 そうですね。予想していなかったです。結果的に見れば、いいストップをしてくれた方がありがたかったかもしれないです(笑) こっちはその準備をずっとしているし、中国選手があんなにストップを浮かすことはないと思っていました。
 同じことを弱い選手がやっても何も意外ではありません。横回転サービスを出したら、レシーブでそれは浮かすよなって思えるけど、2対2の9-8まで1球もあんなボールはなくて、どんなサービスを出してもいいストップをされていたから、逆に難しいボールになったんだと思います。中国ラバーだから切れているし、こっちは気持ちが浮ついて、強く打てると思ってミス、ですね。
 結構いろんな人に「あのボールが入っていれば」って言われますけど、誰があの場にいても、入る人もいれば入らない人もいますし、自分自身はあのミスに納得はしています。
 悔しさはあるし反省もしているけど、ミスした理由も分かるので、梁靖崑がメダルを取れて僕が取れなかった理由、僕がベスト8に入れて、他の選手が入れなかった理由。そういうのが一段階一段階分かってきている気がします。

--梁靖崑はなぜあのボールだけ浮かせてしまったんだと思いますか?

張本 たぶん緊張していたんだと思います。2対2の7-7から9-7になって、試合を通じて初めて僕にリードされていました。だから、梁靖崑としてもあのストップは失敗だったと思うし、それまでの試合の過程や、世界卓球以前の梁靖崑の強さを僕は知っているから起きてしまった1球かなと思います。
 でも、たとえあのポイントを僕が取っていても、10-8、1ゲーム目と同じ展開で、取り切れるかは分からないし、また9-8で同じボールを打てと言われても100%入るとは言えない。9-8から違うパターンで、ロングサービスを出せるかと言われても、できる自信は50:50(フィフティー・フィフティー)くらいなので、悔しいけど納得はできます。
 今までにはない感覚の悔しさですね。今までは負けて、悔しい、泣く。次の日になったら、また練習しよう、頑張ろうという感じで忘れていましたが、今回のことはいい意味でも悪い意味でもずっと覚えているし、悔しいは悔しいです。

梁靖崑との接戦に敗れたが「悔しいけど納得できる」と張本

(まとめ=卓球レポート)

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