2023年にアメリカで発足したプロ卓球リーグ、メジャーリーグ テーブルテニス(以下、MLTT)。そのファーストシーズンに日本から参戦し、優勝チーム、テキサススマッシュの主力選手として活躍した笠原弘光(ハンディ)に、参戦の動機から、優勝への道のり、そして、アメリカにおける卓球の可能性などについて幅広く聞いた。
インタビュー前編では、MLTTに挑戦することになったきっかけ、MLTT独特のレギュレーション(試合方式)について詳しく聞いた。
「なんでも規模の大きいアメリカで
卓球リーグがどうなるのかという期待がありました」
--優勝おめでとうございます。初代MLTTチャンピオンチームで優勝に大きく貢献した笠原選手に、日本ではまだなじみのないMLTTについていろいろとお聞かせ願いたいと思います。まずは、笠原選手がMLTTに挑戦することになったきっかけを教えてください。
笠原 去年の5月くらいに、吉村和弘(ケアリッツ・アンド・パートナーズ)と練習していた時に、MLTTの話が出たのが最初でした。その次に和弘と練習した時に、「一緒に登録しましょう」と誘われて、登録してみたのがきっかけですね。
結局、和弘はTリーグとの兼ね合いがあって出られなくなったので、僕だけが参戦することになりました。
日本から参戦したのは、僕と金光宏暢の2人でした。
--MLTTに挑戦するに当たって、どのような期待がありましたか?
笠原 アメリカってなんでも規模が大きいじゃないですか。野球もそうだし、NBA(バスケットボール)、NFL(アメリカンフットボール)もとても規模が大きいですよね。「そのアメリカで卓球リーグがどういう感じになるんだろう?」という期待はありましたね。
アメリカにはもともと憧れがあったので、アメリカで卓球ができるなら1シーズンくらい行ってもいいかなという感じで行きました。
--所属チームはどのように決まったのですか?
笠原 チームのコーチ(ヨルグ・ビツィゲイオ)が僕を選手として選んだことで決まりました。
シーズン前に全員で250から300名の選手候補のエントリーがあって、そこから1チーム8人の選手を各チームのコーチが選んで、全部で64人の選手が決まりました。
「ゴールデンゲームは緊張感がありました」
--MLTTは独自のルールを採用していますね。簡単に説明していただけますか?
笠原 まず、チームが東西に分かれていて、イースト、ウエストのそれぞれのディビジョンにチームが4つずつあります。レギュラーシーズンでそれぞれのディビジョンの上位2チームが決まって、プレーオフで準決勝、決勝を行い、優勝チームを決めるという方法です。
レギュラーシーズンは1カ月に1回リーグ戦があって、週末の金曜日、土曜日、日曜日に1試合ずつ3試合やります。それが7回ありますが、7回のうち6回はそれぞれのディビジョン(東部/西部)の4チームの総当たり戦、1回だけはクロスディビジョンといって別のディビジョンのチームと4試合を行いました。
昨シーズンはレギュラーシーズンが9月から翌年の3月まで(西部リーグは4月まで)、プレーオフが4月というスケジュールでした。
--試合方式も独特ですね。
笠原 そうですね。1マッチは全部で6試合あって、1番、2番がシングルス、3番がダブルス、4番、5番がシングルスで、6番がゴールデンゲームという特殊ルールの試合です。1番から5番まではすべてジュースなし、11点先取の3ゲームマッチで、2対0になっても3ゲーム目をやります。
シングルスは1番と5番は上位の2選手、2番と4番は3番手以降の選手の対戦で、ダブルスを含めて、どこかでアメリカの選手が2回、女子選手が1回は出なくてはいけないというルールがあります。
最後のゴールデンゲームは、5番が終わった後に各チームのコーチが5人の出場選手のオーダーを決めて、1選手が4ポイント交代でプレーして、21点先取の1ゲームマッチを行います。ただし、ゴールデンゲームは、5番までのポイント差が最大5点まで反映されて、例えば、Aチームが1番から5番までのポイントの合計で、Bチームに3点リードしていた場合、ゴールデンゲームはAチームのリードで3-0でスタートします(※プレーオフはポイント差の上限はなし)。
それで、ゴールデンゲームが終わったら1回の団体戦が終了です。1番から5番の試合得点が1試合3点で合計15点、ゴールデンゲームが6点で合計21点を両チームが取り合う形ですね。
--実際にプレーしてみて、手応えはいかがでしたか?
笠原 そうですね。ゴールデンゲームは緊張感がありますね。
1選手1回のターンが4ポイントで、レシーブは2点しかないので、リスクを負って厳しいレシーブをするのは難しい。そうなると、サービスがいい選手は結構有利ですね。いいサービスがあると、相手に長くレシーブさせて、自分から攻める展開にできるので有利だと思います。僕のチームのヨアン(ヨアン・レベテ/スイス)という選手はめちゃくちゃサービスが良かったので、すごい有利でした。
ゴールデンゲームは実力差が出にくく、(試合得点が)6点とポイントが大きいのでめちゃくちゃ重要でしたね。
一応、1回1回の勝ち負けはありますが、実際はそれほど重要ではなく、シーズンを通じてのポイントの積算で順位が決まるので、捨てゲームがないというところでも緊張感がありましたね。
「今までにないうれしさを感じた」
--所属チーム、テキサススマッシュの雰囲気はいかがでしたか?
笠原 僕のチームは結構若い子が多くて、アメリカのジュニア男子が2人(ナンダン・ナレシュ、ダリル・ツァオ)、女子のエイミー・ワンが21歳、イングランドのデイブ(デビッド・マクベス)が僕の2歳下、スイスのヨアン(ヨアン・レベテ)が26歳で、海外リーグの経験もない選手が多かったので、最初の頃はあまり会話も弾みませんでしたが、1月くらいから結構話すようになりましたね。
昨年の12月までは僕とエイミーとナンダンの3人が出られない時があって、結構負けていましたが、1月からフルメンバーで戦って、それからは2回しか負けなかったので、それでプレーオフ出場が決まりました。
--笠原選手の所属するテキサススマッシュとカロライナゴールドラッシュの準決勝は接戦でしたね。
笠原 準決勝は結構厳しかったですね。危なかったです。僕が5番で相手のエース(エンゾ・アングル/フランス)に負けたのが結構響きました。僕が中国から直行で、アメリカに着いて次の日に試合だったので、ちょっと調整が難しかったですね。
8対7で迎えたゴールデンゲームで踏みとどまれて、なんとか勝つことができたという感じで、どちらが勝ってもおかしくない試合でした。
--決勝は笠原選手が単複とも3対0で勝利を挙げ、大活躍でした。
笠原 決勝はシングルスで、僕は相手の左利きのアメリカの選手、リャン・ジシャンとの対戦を希望していましたが、それがかない、トップで対戦しました。結構自信がありましたが、1番で3対0で勝てたのは大きかったですね。その後の流れもよかったです。
--エイミー・ワンとのダブルスも快勝でしたね。
笠原 エイミーはめちゃくちゃ強いです。たまに驚くようなボールが入ります。天才肌で「おお、それいく(強打する)か!?」みたいなボールが結構入ったりするので、すごいなと思っています。
--優勝が決まった瞬間の心境はどうでしたか?
笠原 めちゃくちゃうれしかったです。海外リーグでフルシーズンでプレーする経験がなかったので、結構長かったですね。
最初にひょんなきっかけでアメリカに行くことが決まって、序盤はチームも勢いに乗れないながらも、結局みんな仲いいチームになって、今までにないうれしさでしたね。心底うれしかったです。アメリカに来てよかったとすごい思いましたね。
--日本でも団体戦の優勝は経験していると思いますが、印象は違いますか?
笠原 違いますね。日本での団体戦の優勝は2017年、協和キリンにいた時のファイナル4が最後ですが、その時の僕は会社員であってプロ卓球選手ではありませんでした。
今回は、アメリカという別の新たなところに飛び込んで、一から作り上げた人たちとのつながりの中で、1年目で成果が出せたので、やはり違いましたね。(後編につづく)
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(取材=卓球レポート、写真提供=MLTT、Jesse Levi Hummel)