強さを測る指標として、「タッチ」はよく使われるフレーズです。「あの選手はタッチがいい」とか「タッチが柔らかい」などなど。とはいえ、実際のところ、タッチとは何なのでしょう。目に見えるものではないので、タッチと言われても今ひとつピンとこない方は多いのではないでしょうか。
そこで、この企画では、トップ選手たちがさまざまなケースにおけるボールタッチについて、自分の言葉で表現してくれます。彼らが語る直感的な言葉の数々から、これまであまり踏み込まれてこなかった「タッチ」の実像に触れてください。
今回の表現者は、上田仁選手(岡山リベッツ)です。一つ一つの技術の質が高い上に安定感も抜群のプレーが持ち味の上田選手が、ストップのタッチについてさまざまに表現してくれます。
前回は吉村真晴選手(名古屋ダイハツ)が独特な感性でタッチを語ってくれましたが、感覚派(?)の吉村選手とは好対照な、理論に満ちた上田選手の言葉の数々に注目です。
※この記事は2019年に取材した内容をまとめたものです
ストップで大切なのはタッチ
ボールを相手コートのネット際にコントロールするストップは、相手の攻撃を防ぎ、次のプレーで自分が優位に立つための大切な技術です。
僕は、相手のサービスに応じて、切るストップや安定性重視のストップなど、いろいろなストップを使い分けます。そして、それらのストップに相手がどう対処してくるのか、その傾向をよく見極めてラリーを優位に進めるようにしています。
ストップで大切になるのが、相手のサービスによって、また自分がどのようなストップをするかによって、指のどこに力を入れたり抜いたりするかという感覚、いわゆるタッチです。
タッチの前に「知識」を身に付ける
ストップは繊細なタッチが必要になる技術ですが、僕のタッチをお話しする前に身に付けてほしいことがあります。
それは「知識」です。
一概にストップといっても、相手のサービスの切り方や、こちらがどのようなストップをするのかによってラケットの動かし方は異なり、それに伴って必要なタッチも変わってくるからです。
例えば、同じ下回転サービスでも、相手がボールをすくうように切ってきた下回転サービスと、相手がボールを切り下ろすように切ってきた下回転サービスとでは、ストップする時のラケットの動かし方が変わってきます。
また、こちらが「切るストップでレシーブしたい」と思っても、相手が真下回転(左右の横回転が入っていない下回転)サービスを強く切ってきた場合は、ストップを切ろうとしてもできません。切るストップが使えるのは、少し横回転が入ったサービスに対してです。
こうしたセオリーを知らずに、「ストップはラケットを小さく前に動かせばいい」と思って漠然とストップしても、打球は安定しません。実戦で通用するようなストップを身に付けるためには、「相手のサービスや自分が行いたいストップによって、ラケットをどう動かすのが最善か」という知識を持つことが大切です。
ボールをすくうように切る下回転サービスに対するストップは
子どもを優しく抱き上げるイメージで打球
それでは、サービスの種類やストップ方法を具体的に挙げて、それに応じた知識やタッチをお話ししていきましょう。
まず、下回転サービスに対するストップから説明しますが、一口に下回転サービスといっても、その種類は一つではありません。先に触れましたが、下回転サービスの出し方には、主に「ボールをすくうように切る下回転サービス」と「ボールを切り下ろすように出す下回転サービス」の二つのタイプがあり、どちらをストップするかでラケットの動かし方やタッチが変わってきます。
今回は、相手がボールをすくうように切って出してきた下回転サービスに対するストップを取り上げます。このサービスがフォア前に来たケースを例に挙げて、ラケットの動かし方やタッチについてお話ししましょう。
ボールをすくうように切る下回転サービスは、ボールのバウンドが少し高い傾向があり、下回転が強くかかっています。このサービスに対して、ラケットを上から振り下ろすように動かしてしまうと下回転の影響を受けてネットミスしてしまいます。
そこで、ボールをすくうように切る下回転サービスに対しては、自分もボールをすくうように、ラケットをほんの少し引き上げるように動かすことがポイントになります。
この時のタッチは、「大事なものを優しくそっと引き上げるイメージ」です。
僕の場合は、子どもが危ない方向へ行こうとするのを「そっちに行ったら危ないよ」と優しく抱き上げる時のようなタッチで打球します。そうしてボールをソフトに打つと、ボールとラケットがいい具合に反発して、ストップを短くコントロールすることができます。
この時の指は、中指・薬指・小指でラケットを引き上げるようにすると、スムーズにスイングできると思います。
このほか、足をフォア前(右斜め前)に素早く踏み込んで体をボールに近づけ、ラケットの打球面を上向きにすることと、頂点前の早い打球点を捉えることも意識しましょう。
次回は、ボールを切り下ろすように出してくる下回転サービスに対するストップについてお話しします。
ボールをすくうように切る下回転サービスに対するストップ
まとめ=卓球レポート編集部